世界のプレスリリース(森林関連)
森林関連機関等からの主要なプレスリリースを紹介。"タイトル"をクリックして実際のプレスリリースを、"文献"をクリックして元報告書等をご確認ください。(各画像はプレスリリース等にある画像です:監修:沢田治雄)
2023/12/4 カリフォルニア大学デイビス校
暑い地域では哺乳類は森林を求め人間の居住域を避ける:温暖化が進む世界では森林は哺乳類にとってより重要
気候と土地利用の変化の影響を独自に調査した研究は多くあるが、それらが哺乳類の分布にどのように作用するかを調査した例はほとんどない。人為的景観において気候条件が種の存続を制限している場合、気温と降水量の変動により、生物多様性を保全する機能が妨げられる可能性がある。大陸規模のデータセットを活用して、北アメリカの哺乳類が生息域全体の森林被覆と人為的改変にどのように反応するかを調べた。その結果、暖かい地域では、種は一貫して人為的改変に対して敏感で、森林への依存度が高いことがわかった。これは、気候変動の下で人為的景観の保全価値を高めるか、あるいは自然地域を保護するかを決定する際には、種の生息地の変化を考慮する必要があることを示唆している。
2023/12/4 ユタ州立大学天然資源大学
奇妙な火事:ユタ州の山火事の独特のパターン
火災の影響を衛星で監視することは広く普及しているが、多くの場合、衛星から得られたデータは、被災地の状況や植生タイプ別の火災の深刻度が考慮されていない。特に、米国ユタ州など、植生が不連続であったり、植生分布が狭い地域では、衛星で植生と火災の規模を捉えて、火災の感受性を特徴付けることが、地域における火災前後の管理の改善をもたらす可能性がある。本報告では1984年から2022年までにユタ州で発生した775件の中規模(40ヘクタール≦面積<400ヘクタール)と697件の大規模(≧400ヘクタール) の山火事を分析し、燃焼率正規化差分法(dNBR)を使用して植生タイプ別の火災重症度を評価した。その結果、1984年から2021年まで、ユタ州では40ヘクタール以上で年間平均38件の火災が発生し、年間平均58,242ヘクタールが焼失し、dNBR中央値は165だった。火災は、ヨモギと低木の植生タイプによって大きく影響された。面積の50.2%(17% SD)が焼失し、この割合は比較的一貫していた(1年あたり18%~79%)。非森林植生域いでは中規模面積火災の重大度の方が大規模面積火災より高かったが、森林植生域ではその逆であった。1985年から2021年にかけて、ユタ州で40ヘクタール以上が燃えた地域の総面積は、少数の大規模火災によるものであった。ユタ州では、火災の激しさは植生の種類と火災の規模の両方によって異なる。最近の火災は、将来の火災に対する有益なベースラインとして役立つ可能性があるが、20世紀に火災鎮圧が長期にわたったことは、将来の火災がより活発になる可能性を示唆している。
2023/11/29 コーネル大学
600年の年輪からカリフォルニアの気候リスクを明らかにする
カリフォルニアの水文部門が将来の極端気候を理解し、管理することを支援するために、年輪年代で捉えられた自然の気候変動および人為的気候変動の傾向から、将来の毎日の天候と水流の様子の地域的モデルを作成し、それを活用する方法を提示した。まず、600 年分の気象を復元し、確率的気象予測をカリフォルニア州サンホアキンバレーの 5 つの亜盆地向けに開発した。 気候変動の複合的な影響を評価するために、温暖化の予測シナリオを反映する気温系列と、降水量系列を作成した。 次に、これらの気象シナリオを使用して、5 つの亜流域ごとに水文モデルを作成した。 これらによって、現代の記録を上回る極端な洪水と干ばつを引き起こした過去の期間を明らかにした。洪水と干ばつに関連する意思決定に対する自然変動と気候変動の関与を特徴付けるために分散分解を使用した。 その結果、個々の流域における変動と空間的に複合する極端な現象の大部分は自然変動に起因する可能性があるが、計画期間が長くなると人為的気候変動の影響が大きくなることを示した。 極端な洪水や干ばつの形成における気候変動と自然変動の関係は、サンホアキンにおける回復力のある水システムの計画・管理にとって極めて重要である。
2023/11/29シドニー大学
景観ダイナミクスが生物多様性の進化を決定
生物圏の長期的な多様化は物理的な環境変化への応答である。しかし、大陸全体では生物のほぼ単調な拡大は海洋での拡大よりも早く、顕生代の初期に始まった。一方、属の数は時間経過とともに増減した。地球力学および気候強制力の変化を包括的に評価しても、生命の進化の長期パターンについて統一的な理論を提供することはできない。本報告では、気候とプレートテクトニクスのモデルを組み合わせて、顕生代全体における地球の景観の進化を数値的に構築し、それを海洋動物および陸上植物の属の多様性データセットと比較した。結果は、生物多様性が地形のダイナミクスに強く依存しており、大陸と海洋の両方の環境収容力を常に決定していることを示した。海洋での多様性は一次生産に栄養をもたらす河川の堆積物の流れと密接に関係していた。陸上では、広範囲にわたる内流盆地が堆積物で覆われて大陸を覆い、土壌が必要な根を張る植物相の発達を促進し、景観の多様性の増加がそれらの発達をさらに促進するまで、劣悪な土壌条件によって植物の拡大が妨げられていた
2023/11/22 国際応用システム分析研究所
COP28グローバル・ストックテイクで土地排出量を評価する際の問題点
パリ協定の達成に向けた世界的な進展を評価するには、緩和法に対する各国の行動と誓約に関わるモデルの総計量を共通化する必要がある。しかし、国の温室効果ガス調査(NGHGI)と人為的排出量の評価では、炭素フラックスに関する収支計算法が異なっている。その結果、現在の排出量推定値に大きな差が生じており、その差は時間の経過とともに拡大する。そこで、最先端の方法論と陸域炭素循環エミュレーターを使用し、気候変動に関する政府間パネル (IPCC)が評価した緩和法とNGHGIを比較した。NGHGIを使用して計算すると、主要な世界的な緩和の達成が難しく、より早期のCO2ネットゼロ達成と累積排出量の削減の両方が必要になることがわかった。さらに、自然的な炭素除去法が低下することにより、人為的な土地ベースの除去努力が隠れる可能性があり、その結果、NGHGIの土地ベースの炭素フラックスは最終的に2100年までに排出源になる可能性がある。これらの結果は、グローバル・ストックテイクにとって重要である。各国は、地球の気温目標との一貫性を保つために、気候目標への野心を集団的に高める必要があろう。
2023/11/21 オレゴン州立大学
炭素蓄積の最大化をもたらす収穫周期
森林管理は炭素の蓄積と吸収に影響を与える。長期の炭素吸収を最適化する伐採周期は議論のひとつである。若い樹木の方が成熟した樹木や老木に比べて成長速度が速いため、周期を短くすると吸収率が高まると言う人がいる。一方、頻繁に伐採するとその後の森林炭素の回復が遅れるため、皆伐間隔は長くするほう良いと主張する人もいる。これらの対照的な意見は、間伐の影響に関する相違の反映であり、間伐が残存木の改善的かつ持続的な成長を促進して炭素吸収量を高めるか、または地上部バイオマスを除去することで吸収量が押さえられるという違いである。本研究で、240年にわたって他の目標を達成しながら炭素蓄積を最適化する周期と間伐の実践的な組み合わせを特定した。さまざまな周期および間伐下での林分成長モデルには、森林植生シミュレーター (FVS)を利用した。そして、さまざまな管理計画の下で、現地の生産性が地上部炭素動態を決定する主な要因であることを示した。つまり、周期と間伐の最適な組み合わせは林分によって異なる。生産性の高い林分では、樹齢40年で低強度間伐を行い60年周期とすることが最適とされた。中程度の生産性の林分では、80年周期とし、その間に2回の低強度間伐を行う場合に最も優れた吸収量を示した。また、高および中程度の生産性の林分では、80年または120年の周期内に2回の低強度または中強度の間伐を適用すると、総炭素量が増加する。高強度の間伐を行うと、120年周期以下の低生産性林分を除き、240年にわたる期間におけるすべての生産性レベルと周期において、蓄積される炭素総量は減少する。
2023/11/21 USDA森林局 - ロッキーマウンテン研究所
2020年から2021年のカリフォルニア大火災が野生生物の生息地に与えた影響の包括的調査
2020年から2021年にかけて カリフォルニア州で発生した火災は、前例のない大規模なものだった。19,000km2以上の森林が焼失し(平均の10倍)、508種の脊椎動物の生息地に影響を与えた可能性がある。高-重大度で燃えた9,000km2を超える面積のうち、89%はこれまで推定されていた火災面積を超える大きなパッチだった。この2年間で100種の脊椎動物が生息域の10%以上で火災に見舞われ、そのうち16種は保全上懸念のある種だった。また、これら100種は生息域の5~14%で深刻な火災に見舞われ、生息地の構造に重要な変化が生じた。この地域の種は重大度の高い巨大火災に適応していない。人為的な火入れや間伐などの管理措置は、深刻な火災の発生を抑制し、野生動物に対する異常な火災による悪影響を軽減させる。
Jessalyn Ayars, et al. The 2020 to 2021 California megafires and their impacts on wildlife habitat. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (48) DOI: 10.1073/pnas.2312909120
2023/11/21 ウィスコンシン大学マディソン校
炭素除去技術の拡大の見通し
さまざまな温暖化緩和オプションのコストと相互作用を考慮したシナリオは、温暖化を2°C以下に抑えるためには、今世紀中に大気中から数百ギガトンの二酸化炭素(CO2)を除去する必要があることを示している。さらに、温暖化を1.5°Cにし、地球の持続的な幸福を確保するよう努力することが求められている。しかし、現時点では年間2Gtしか除去されておらず、そのほぼすべてが林業によるもので、新技術による炭素除去は0.1%である。今後10年間にわたる新しいCO2除去技術(CDR)の導入が、形成段階かもしれないが、パリ協定の温度目標と一致するCO2排出を実質ゼロに達することにおいて、大規模かつ時間に間に合うように利用可能かどうかを確認することが重要である。
Gregory F. Nemet, et al. Near-term deployment of novel carbon removal to facilitate longer-term deployment. Joule, 2023; DOI: 10.1016/j.joule.2023.11.001
2023/11/17 トリニティカレッジ・ダブリン
植物は考えられてきた以上のCO2を吸収できる可能性がある
総一次生産 (GPP) は炭素吸収量の重要な表現要素であるが、陸上生物圏モデル(TBM) におけるGPPは、最新の生理学的知見を反映していない。本研究では経験的によく裏付けられているが省略されがちな3つのメカニズム、すなわち光合成温度順応、葉肉コンダクタンス、および葉窒素の再分配による光合成の最適化をTBM CABLE-POPに実装した。気候シナリオRCP8.5を使用して、GPPの予測に対する3つのメカニズムの個別および組み合わせの影響を特徴付ける要因モデルシミュレーションを行った。3つのメカニズムを欠いたモデルと比較して、光合成をより包括的に表現し、シミュレーションされた全球GPPは大幅に増加することを示した(2070~2099年までに最大20%)。複合効果が個々の効果の合計よりも強力で、メカニズム間の非相加的相互作用が明らかになった。モデル化された応答は、追加されたメカニズムによって引き起こされる温度とCO2に対する光合成の感受性の変化によって説明される。この結果は、現在のTBMが将来のCO2と気候条件に対するGPPの反応を過小評価していることを示唆している
Jürgen Knauer: Higher global gross primary productivity under future climate with more advanced representations of photosynthesis. Science Advances, 2023; 9 (46) DOI: 10.1126/sciadv.adh9444
2023/11/16 GFZ ヘルムホルツ センター
新たな世界の材積調査: 健全な森林はより多くの炭素を貯蔵可能:衛星データと地上データを組み合わせた大規模な国際研究
天然の炭素貯蔵は、アラブ首長国連邦で開催される世界気候会議COP28で重要な役割を果たすことになる。海洋と土壌に次いで、森林は炭素の最大の「吸収源」である。つまり、森林は大気から膨大な量の二酸化炭素を吸収する。これが正確にどの程度なのか、そして森林管理を改善すればさらにどの程度増加するのかは難しい問題である。世界中の200名を超える研究者チームが、貯蔵の可能性についての新しい推定値を発表した。この研究はチューリッヒ工科大学によってコーディネートされ、重要な方法論的な貢献はGFZから提供された。この研究によると、森林は理想的には3,280億トン(ギガトン、略してGt)の炭素を吸収できるという。しかし、かつては森林に覆われていた地域の多くが現在では農業や定住地として利用されているため、その可能性は226Gtまで減少している。このうち139Gt(61%)は、既存の森林を保護するだけで達成できる。残りの87Gt(39%)は、断片化されている森林を再接続し、持続可能な方法で管理することが必要である。
Lidong Mo, et al. Integrated global assessment of the natural forest carbon potential. Nature, 2023; DOI: 10.1038/s41586-023-06723-z
2023/11/14 オーフス大学
ヨーロッパは 現生人類が現れるまで鬱蒼とした森に覆われていたのではない
過去のヨーロッパにおける植生被覆については広く議論されている。特に、温帯森林生態系は伝統的に密集した樹冠が閉じた森林と考えられてきた。しかし、大型の草食動物はより開放的な環境、あるいは灌木地を必要としていたと主張する人もいる。本報告では、ホモ・サピエンスにかかわった巨大動物相の減少と人為的景観変化に先立って、最終間氷期(129,000~116,000年前)で、この疑問に取り組んだ。植生再構築手法REVEALSを96件の最終間氷期の花粉記録に適用した。その結果、この期間中、明るい森林と開けた植生地が平均して50%以上を占めていたことがわかった。開放度は非常にばらつきがあり、気候要因と部分的にのみ関連しており、自然撹乱の重要性を示した。この結果は、温帯森林生態系が歴史的に均一に密集しているのではなく不均一であったことを示しており、これは現代ヨーロッパの生物多様性の多くが開けた植生と明るい森林に依存していることと一致している
Elena A. Pearce, Substantial light woodland and open vegetation characterized the temperate forest biome before Homo sapiens. Science Advances, 2023; 9 (45) DOI: 10.1126/sciadv.adi9135
2023/11/13 バンゴー大学
アマゾンの天然性二次林は原生林の保護に貢献している
二次林の拡大による熱帯林回復は、気候変動の緩和にとって極めて重要で、生物多様性にも利益をもたらす。ただし、これらの利点の効果は、景観内での二次林の位置による。二次林における炭素貯蔵量と生物多様性の両方の回復は、原生林に近づくことで促進され、原生林は境界域の緩衝と断片化の軽減などによって二次林から恩恵を受ける可能性がある。しかし、原生林と比較した二次林の位置に関する生態系全体での評価は十分でない。本報告では、まずアマゾンの二次林をマッピングし、原生林への近接性を調べた。次に、二次林が原生林境界(端から120m未満)で緩衝する様子と、二次林が断片化に及ぼす影響を計算した。2020年には、アマゾンの二次林の41.2%が原生林に隣接し、94.1%が原生林に接する断片化地内にあった。ただし、構造的に無傷の原生林のみを考慮した場合、隣接性と接続性はそれぞれ20.1%と57.4%であった。二次林は原生林境界の41.1%で緩衝し、回廊として機能することで原生林の断片の総数を200万箇所削減している。これらの結果は、二次林の利点を検討する際に、空間的背景を理解することが重要であることを示している。二次林を原生林の隣に配置する利点についての理解が深まれば、より効果的な気候変動の緩和および回復戦略の開発を支援できる可能性がある。
Charlotte C Smith, et al. Amazonian secondary forests are greatly reducing fragmentation and edge exposure in old-growth forests. Environmental Research Letters, 2023; 18 (12): 124016 DOI: 10.1088/1748-9326/ad039e
2023/11/13 オレゴン州立大学
山火事と干ばつにより太平洋3州の私有林に112億ドルの被害が発生
気候変動による山火事などの極端現象の最近の増加に天然資源市場がどのように対応しているかについての確かな情報が不足している。山火事は、既存の樹木に直接的なダメージを与えたり、将来の山火事の到来に対するリスク予測によって、森林の経済的価値に影響を与える可能性がある。そこで、米国西部の太平洋3州における17年間にわたる土地区画データを使用して、私有林の市場価格に対する大規模な山火事と干ばつストレスの影響を推定した。私たちは、土地市場で販売された森林を直接燃やすのではなく、近くで発生した山火事による影響を推定することで、リスク予測の変化を特定した。その結果、過去20年にわたる大規模な山火事と干ばつストレスの最近の増加により、太平洋3州全体で林地の経済的価値が約10%、つまり約112億ドル低下し、そのうち約5.5%(約62億ドル)が気候変動による賠償金として支払われたことがわかった。山火事被害のほとんどは、リスク予測の変化によって生じた。これらは、発生した気候変動による極端現象のコストを示している。
Yuhan Wang, David J. Lewis. Wildfires and climate change have lowered the economic value of western U.S. forests by altering risk expectations. Journal of Environmental Economics and Management, 2023; 102894 DOI: 10.1016/j.jeem.2023.102894
2023/11/10 チューリッヒ工科大学
多様な森林に膨大な炭素貯蔵の可能性
森林は陸域の炭素吸収源であるが、土地利用と気候の変化により、その規模は大幅に縮小している。世界の森林の炭素損失を推定するリモートセンシングは不確実性が高く、推定値のベンチマークとなる地上評価が不足している。本報告では、いくつかの地上由来のアプローチと衛星由来のアプローチを組み合わせて、農地および都市以外の世界の森林炭素の潜在的規模を評価した。地域的なばらつきがあるにもかかわらず、予測は地球規模で驚くべき一貫性を示しており、地上から得た計測と衛星から得た推定との差はわずか12%であった。現在、世界の森林炭素貯蔵量は自然的な可能性を著しく下回っており、人間のフットプリントが少ない地域でも総不足量が226Gt(モデル範囲=151〜363Gt)となっている。この潜在力のほとんど(61%、139GtC)は既存の森林が存在する地域にあり、そこでは生態系保護により森林が成熟するまで回復することができる。潜在力の残りの39%(87GtC)は、森林が伐採または分断された地域である。この結果は、多様な森林の保全、回復、持続可能な管理が地球規模の気候と生物多様性の目標達成に貴重な貢献をもたらすという考えを裏付けている。
Lidong Mo, et al. Integrated global assessment of the natural forest carbon potential. Nature, 2023; DOI: 10.1038/s41586-023-06723-z
2023/11/10 スタンフォード大学
低強度火災で山火事のリスクが60%軽減される
深刻な山火事の頻度が増加しているため、その影響を軽減する管理が必要である。火災に適応する生態系とするために有効な可燃物の処理である「管理された低強度火災(火入れ)」の役割は、科学と政策の両方で関心を集めている。総合的な関連分析法により、カリフォルニア州の124,186平方キロメートルの森林における20年間の衛星観測の火災データを分析し、低強度火災が将来の高強度火災のリスクを大幅に軽減するという証拠を示した。針葉樹林で、最近低強度で火災が発生した地域では、火災未発生の森林と比較して、高強度火災のリスクが64.0% (95%信頼区間で、41.2~77.9%)減少し、保護効果が少なくとも6年間(95%片側信頼区間の下限で、6年)継続した。これらの結果は、カリフォルニア州における消火から森林修復への火災政策の移行を裏付けるもので、消火を行わなかった時代および植民地時代以前の火災対策における、規定の火災、文化的火入れ、および管理した山焼きのなどの有効性を示している。
Xiao Wu, et al. Low-intensity fires mitigate the risk of high-intensity wildfires in California’s forests. Science Advances, 2023; 9 (45) DOI: 10.1126/sciadv.adi4123
2023/11/9 イースト・アングリア大学
落雷が北方林の山火事の主な原因で炭素貯蔵を脅かす
林野火災は人によって発生することもあれば、自然由来(そのほとんどが落雷)で発生することもある。社会経済的および気候学的条件の変化が火災に及ぼす影響を推定する場合、落雷と人為的火災を区別することが最も重要である。ここでは、世界7地域の火災の発火場所、原因、火災面積の参照データを使用して、機械学習で主な火災の発火源としての雷と人為的発火の世界的な情報を取得した。現在、熱帯以外の天然林の焼失地域の77%(不確実性は標準偏差=8%) が雷に由来しており、これらの地域ではおそらく1度の温暖化ごとに11~31%多くの雷が発生する。 熱帯以外の天然林は炭素貯蔵のために世界的に重要である。現在、火災による森林損失が大きく、単位面積当たりの火災排出量は地球上で最大の部類に入る。したがって、手付かずの森林で将来雷が増加すると、気候変動と山火事の間の正のフィードバックループが悪化する可能性がある。
Thomas A. J. Janssen, et al. Extratropical forests increasingly at risk due to lightning fires. Nature Geoscience, 2023; DOI: 10.1038/s41561-023-01322-z
2023/11/8 ケンブリッジ大学
対策を講じないと今後50年以内に英国の森林は壊滅的に生態系崩壊する
森林は、気候や生物多様性の危機などの社会の最大の課題への対応において極めて重要な役割を果たすことが期待されている。しかし、森林自体と森林管理は、相互に関連するさまざまな脅威に直面している。現在はあまり認識されていない新たな途上の問題もある。本報告では、今後50年間に英国の森林管理に影響を与える可能性のある途上の問題を特定した。これらは現在十分に認識されていない問題であるが、森林セクターを超えて重大な影響を与える可能性がある。私たちは、多様な専門家パネルが関与する実証済みのホライズンスキャニング手法に従い、180件の問題のロングリストを照合し、優先順位を付けた。特定された上位15件の問題を、グラフィカルに要約した。これらは、環境問題から政治的および社会経済的要因の変化に至るまで、さまざまなテーマを含んでいるとともに、それらの間に複雑な相互関連がある。最も高く評価された問題は「壊滅的な森林生態系の崩壊」で、このような崩壊は起こり得る可能性が高いだけでなく、業界全体および広い社会全体に多大な影響を及ぼすであろう。我々は、圧倒されて何も行動を起こさない、あるいは広範な影響を考慮せずに単に「楽勝」とすることを避けなければならない。ここで紹介した15の問題は、さらなる研究を構築し、議論と行動を促し、事実に基づいた政策と実践を開発するための出発点である。
Eleanor R Tew, et al. A horizon scan of issues affecting UK forest management within 50 years. Forestry: An International Journal of Forest Research, 2023; DOI: 10.1093/forestry/cpad047
2023/11/7 コルドバ大学
過去60年間にわたるヨーロッパの森林被害情報データベース
森林における病虫害発生は、生態系を大きく変える可能性がある。気候が変化し、種や生物群系の分布が変化するにつれて、世界の多くの地域でこうした撹乱体制が激化している。その結果、炭素蓄積、水流調節、木材生産、土壌保護、生物多様性保全などの主要な森林生態系サービスがますます損なわれる可能性がある。しかし、これらの有害な影響が引き起こされるにもかかわらず、森林の病虫害を全ヨーロッパ規模で記録する空間的に詳細なデータベースは存在しない。本報告では、ヨーロッパの森林の病虫害被害に関する新しいデータベース (DEFID2) を紹介する。これは、1963年から2021年に、ヨーロッパの森林で発生した病虫害を、ポリゴンまたはポイントでマッピングした65万件を超える地理情報で構成されている。現在、8カ国で、さまざまな方法 (地上調査、リモートセンシング技術など) で取得されている。DEFID2の記録は、被害の重症度やパターン、病原体、寄主樹種、気候による誘発因子、造林慣行、最終的な処理など、一連の定性的属性で記述されている。これらは、Landsat正規化燃焼率(LNBR)の時系列データなど衛星ベースの定量的評価と、LandTrendrのスペクトルを使用した被害指標 (火災の発生、継続時間、規模、被災割合等) によって補完され、暴風や山火事との相互作用の可能性を含めている。また、DEFID2データベースを継続的に拡張および改善するために、さらなるデータ共有が奨励されている。
Giovanni Forzieri, et al. The Database of European Forest Insect and Disease Disturbances: DEFID2. Global Change Biology, 2023; 29 (21): 6040 DOI: 10.1111/gcb.16912
2023/11/3 アリゾナ大学
稚樹は大丈夫ではない:気候変化が森林を蝕む可能性を幼樹が示す
干ばつや熱波による枯死、火災激化などにより、樹木が急速に損失している。多くの森林の運命は、気温上昇や異常気象に耐える稚樹の能力にかかっている。近年の研究は、個々の樹種の枯死に対する干ばつや熱波の影響に焦点を当てることが多いが、気候、生態水文、植物生理の同時変動を考慮すると、これらの条件下での稚樹の枯死率が標高勾配で種間でどのように変化するかは未だ不明である。本研究では、米国南西部の森林に広がる5種の稚樹を対象に、極度の干ばつを課す室内実験を実施し、この知見不足に対処した。全体として、枯死を引き起こす干ばつ期間は、樹種によって最大20週間異なった。熱波の影響により、すべての樹種で枯死までの平均期間は約1週間早まったが、標高の低い温暖な環境条件で生育する樹種(ポンデローサマツは10週間で、エデュリスマツは14週間で枯死)は、標高の高い涼しい環境条件で生育する樹種(マツは19~30週間、マツは30~30週間)よりも早く枯れた。しかし、干ばつを伴う熱波にさらされた場合、より涼しい周辺条件の樹種でのみ枯死率が大幅に増加した(Pinus flexilis: 2.7 週間早く、Pseudotsuga menziesii: 2.0 週間早く)。周辺温度が低いことで、干ばつ時の水分損失が緩和され、標高の高い樹種の生存期間が長くなった可能性がある。この研究は、干ばつが稚樹枯死の主な要因で、より温暖な気候の境界にある樹種に最も直接的な影響を及ぼす一方、干ばつと熱波が連続して発生すると、特に標高の高い樹種の枯死が増える可能性があることを示唆している。
Alexandra R. Lalor, et al. Mortality thresholds of juvenile trees to drought and heatwaves: implications for forest regeneration across a landscape gradient. Frontiers in Forests and Global Change, 2023; 6 DOI: 10.3389/ffgc.2023.1198156
2023/10/31 メリーランド大学
人類は地球規模の塩分循環を破壊している
塩分の生産と使用の増加により、地球システム全体の塩イオンの自然なバランスが変化し、淡水塩類化症候群として知られる影響を引き起こしている。本レビューは、天然塩分の循環を概念化し、塩分生産と河川塩分の濃度とフラックスの世界的な増加傾向を示した。天然塩分の循環は主に、塩分を地表にもたらす比較的ゆっくりとした地質学的および水文学的なプロセスによっている。しかし、人間活動により、塩分流出におけるプロセス、時間スケール、およびフラックス規模が加速され、方向性が変化し、人為的な塩分循環が形成されている。世界の塩分生産量は過去1世紀にわたって急速に増加しており、年間約300MtのNaClが生産されている。河川の塩分フラックスは人為的塩分フラックスと同程度で、流域にかなりの量の塩分が蓄積している可能性がある。過剰な塩分は人為的な塩分の循環に沿って伝播し、淡水塩類化症候群を引き起こし、さらに広がり、食料とエネルギーの生産、大気の質、人間の健康とインフラに影響を与える。地球の限界を超えて地球システム全体に深刻なまたは不可逆的な損傷を引き起こす前に塩類化を減らす必要がある。
Sujay S. Kaushal, et al. The anthropogenic salt cycle. Nature Reviews Earth & Environment, 2023; DOI: 10.1038/s43017-023-00485-y
2023/10/30 リーズ大学
アマゾン森林伐採は広域の気候温暖化をもたらす
熱帯林破壊は気候を温暖化させ、近隣の人々に悪影響を及ぼす。ほとんどの研究は森林伐採によって引き起こされる局所的な温暖化に焦点を当てており、森林伐採が周辺地域に与える影響についてはあまり知られていない。本研究は衛星データを使用して、アマゾンの森林破壊が森林消失の場所から最大100km離れた場所まで大幅な温暖化を引き起こしていることを示した。そして、この非局所的な温暖化が森林破壊に起因する将来の温暖化を4倍増加させることを明らかにした。アマゾンで森林伐採を減らすと、アマゾン南部の将来の温暖化を0.56°C削減できる。これらは、地域の気候変動における森林破壊の影響を示し、アマゾンの気候適応と回復力のために森林破壊を減らすことの重要性を示している。
Edward W. Butt, et al. Amazon deforestation causes strong regional warming. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (45) DOI: 10.1073/pnas.2309123120
2023/10/30 ケンブリッジ大学
オフセット市場:炭素クレジットへの信頼を回復させ熱帯林の保護に役立つ新しいアプローチ
自然生態系の保護と回復によって危険な気候変動を回避する取り組みは、長期的影響を定量化する手法の信頼性に対する懸念によって妨げられているのが現状である。そこで、次の3つの確実な進歩を組み入れ、非永続的な自然ベースでの純社会的利益を評価する柔軟な手法を開発した。(1) プロジェクトの影響の永続性を時間の経過に伴う追加性とする概念。 (2) 将来の炭素増加の反転による社会的コストのリスク回避型推定。 (3) 過度に悲観的なリリース予測の誤りを修正するためのクレジット後のモニタリング。 この手法は、すでにクレジットされている炭素を保護するためのインセンティブを生み出すと同時に、投資家になりたい人が多様な炭素プロジェクトを比較できる。パイロット分析では、自然由来のクレジットは、非永続性を調整した後でも競争力のある価格が設定される可能性があることが示された。
Andrew Balmford, et al. Realizing the social value of impermanent carbon credits. Nature Climate Change, 2023; DOI: 10.1038/s41558-023-01815-0
2023/10/26 チューレーン大学(米国ルイジアナ州)
食事の簡単な変更で二酸化炭素排出量を削減し健康を改善する
食べ物を変えることで、環境への悪影響を減らし、人間の健康を改善できるが、食事を大幅に変えるのは困難である。本研究では、米国の子供と成人の全国的サンプル7,753人の食事摂取データを使用して、高炭素食品から低炭素食品への簡単で実行可能な食事代替品を特定した(たとえば、ブリトーなどの混合料理で牛肉の代わりに鶏肉を使用するが、それ以外の食品は変えない)。そして、代替品が炭素排出量と食事の質に及ぼす影響をシミュレーションした。高炭素食品を食べる全ての消費者が、代わりに低炭素代替品を摂取した場合、食事による二酸化炭素排出量の総量は35%以上削減される。さらに、これらの代替品を採用すると、食事の質が4~10%向上し、あらゆる年齢、性別、人種および民族グループの人々にメリットが期待できる。これらの結果は、「小さな変化」アプローチが、気候と健康に対する食生活の貴重な出発点となる可能性を示唆している。
Anna H. Grummon, et al. Simple dietary substitutions can reduce carbon footprints and improve dietary quality across diverse segments of the US population. Nature Food, 2023; DOI: 10.1038/s43016-023-00864-0
2023/10/26 チャーマーズ工科大学(スウェーデン)
高級な広葉樹の75%が違法伐採されている可能性がある
違法伐採は熱帯地域で依然として広く行われており、広範な森林破壊と違法木材製品の取引につながっている。環境分野に拡張されたインプット・アウトプットモデルをブラジルの原生林由来の木材に適用することで、サプライチェーン全体にわたって明確な違法性のリスクを樹種レベルでマッピングし、定量化する手法を証した。有数の木材生産地で、森林フロンティアであるアマゾン・パラ州産の高価値のイペ広葉樹材に焦点を当てた。伐採許可および州レベルと国レベルの森林原産地証明のデータを使用し、伐採許可の欠落または無効、イペ収量の誇張、または合法木材の移入不足に関する矛盾などから得られる違法性のリスクを推定した。2009年から2019年の間にサプライチェーンに入ったイペ材のうち、違法性のリスクのないものは4分の1未満で、地域を超えた違法木材のロンダリングに関する多様な仕組みがあることが明らかになった。合法性は持続可能性を保証するものではないが、この情報は森林での規制の実施と施行の改善を支援する。
Caroline S. S. Franca, et al. Quantifying timber illegality risk in the Brazilian forest frontier. Nature Sustainability, 2023; DOI: 10.1038/s41893-023-01189-3
2023/10/25 国連大学
人と地球に不可逆的影響を与えるリスクの転換点
私たちの基本的な社会生態学的システムに対するリスクに対処しないと、劇的な変化が近づく。生態系システム、食料システム、水システムなど、システムは私たちの周りに多々あり、私たちと密接に関係している。それらが劣化した場合は、単純で予測可能なプロセスが起こるのではない。むしろ、不安定性が徐々に高まり、突然転換点に達し、システムが根本的に変化するか、場合によっては崩壊し、壊滅的な影響をもたらす。本報告書では、リスク転換点は、「特定の社会生態学的システムがリスクを緩衝するなどの期待される機能を提供できなくなり、その後、これらのシステムに対する壊滅的な影響を及ぼすリスクが大幅に増加する瞬間」として定義されているす。それらの事例は、リスクの転換点が気候、生態系、社会、テクノロジーという単一の領域を超えて広がっている。そして、それらは本質的に相互に関連しており、人間の活動や生計にも密接に関連している。物理的および自然的世界が人間社会とぶつかるとき、どこかで、多くの新たなリスクが発生する。本報告書で説明されているリスク転換点の一例は、地下水の枯渇である。
The United Nations University – Institute for Environment and Human Security(UNU-EHS), 2023, Interconnected Disaster Risks Report 2023
2023/10/25 イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校
単一モデルで雇用、マイクロバイオーム、森林の傾向を予測
微生物群集、森林、都市などの複雑な集団の成長は、非常に異なる空間的および時間的スケールで発生する。各システム固有の詳細なモデルは開発されてきたが、統一的な分析は不足している。統一的な分析により、各システムの理解が一層深まるともに、分野を超えたツールと洞察の相互理解が促進される可能性がある。そこで、共有フレームワークを使用して、ヒトの腸内微生物叢、熱帯林、都市の雇用に関する時系列データを分析した。そして、確率論的個体群動態の単一の3パラメーターモデルが、3 つのデータセットすべてにおける個体群の存在量と変動の経験的分布を再現できることを証した。種を特徴付ける3つのパラメーターとして、種の平均存在量、決定論的安定性、および確率性を利用した。その結果、規模に大きな違いがあるにもかかわらず、時間を世代単位で測定した場合、3つのシステムすべてがパラメーター空間で同様の領域を占有することが明らかになった。言い換えれば、変動は異なって見えるが、その違いは主に、各システムに関連する物理的な時間スケールの違いによるものであった。
Ashish B. George, James O’Dwyer. Universal abundance fluctuations across microbial communities, tropical forests, and urban populations. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (44) DOI: 10.1073/pnas.2215832120
2023/10/25 コペンハーゲン大学 - 理学部
ヨーロッパ全土の隠れた樹木を発見:10億トンのバイオマスが見逃されている
樹木はヨーロッパの景観に不可欠であるが、国の資源調査によって体系的に評価されるのは森林の資源だけである。都市および農村の樹木が国レベルの炭素蓄積にどのように寄与しているかは、ほとんど知られていない。そこで、ヨーロッパ全土の解像度3メートルの衛星画像から樹冠被覆、樹高、地上バイオマスの分布図を作成した。30か国の国家森林資源調査と比較して、バイオマス推定値には、7.6%の系統的バイアス(過大評価;R=0.98)があった。データセットは、空間分解能が十分に高く、森林外の樹木バイオマスを含めることを可能としており、総量は0.8ペタグラムであった。これは総樹木バイオマスの2%にすぎないが、国によって大きなばらつきがあり(英国では10%)、とりわけ都市部の樹木は国の炭素蓄積量に大きく寄与していると言える(オランダでは8%)。国家森林資源評価データとの一致度、スケーラビリティ、森林外の樹木を含む景観全体の詳細な空間的把握ができること等により、本アプローチは国家レベルの炭素蓄積調査をサポート可能である。
Siyu Liu, et al. The overlooked contribution of trees outside forests to tree cover and woody biomass across Europe. Science Advances, 2023; 9 (37) DOI: 10.1126/sciadv.adh4097
2023/10/23 北アリゾナ大学
北米の北方林における火災の驚くべき影響
温暖化と山火事により、北米の北方林では落葉樹の被覆率が増加すると予想されている。この組成変化は、アルベド増加を通じて地球の冷却を引き起こす可能性がある。ランドサット衛星により作成された樹冠被覆と落葉樹の組成の連続的な分布図を使用して、ここ数十年のアルベド変化を評価した。大規模火災により局所的には落葉性植生が増加したが、2000年から2015年の北アメリカ北方全域、および1992年から2015 年のカナダ全土では、落葉樹の割合が平均してわずかに純減した。全域では、アルベドに関連する正味の放射力はほぼ変化がなかった。したがって、過去数十年にわたり、森林構成に広範な変化が見られたものの、構成の正味の変化とそれに伴う火災後のアルベド放射力は、対象とした空間的・時間的範囲において、気候温暖化に対する負のフィードバックを引き起こしていないとみられる。
Richard Massey, et al. Forest composition change and biophysical climate feedbacks across boreal North America. Nature Climate Change, 2023; DOI: 10.1038/s41558-023-01851-w
2023/10/20 カールスルーハー技術研究所 (KIT)(ドイツ)
土地利用: より多くの食料生産と炭素蓄積を可能にする
現在の土地利用パターンは、歴史、伝統、生産コストなどの反映の結果であり、生物学的潜在力や、食料・水の世界的な需給、気候変動緩和などはあまり反映されていない。そこで、動的植生モデルと最適化アルゴリズムを組み合わせて、需要のトレードオフを考慮した代替土地利用法を定量化し、2090~2099年と2033~2042年の気候条件下でのパレート最適の土地利用を示した。結果は、現在の土地利用構成と比較して、3つの指標 (全世界で作物生産量+83%、利用可能な流出量+8%、炭素貯留量+3%) を増加させられる可能性を示し、土地利用の優先地域を示した。熱帯林と北方林を保存し、作物を温帯地域で生産し、牧草地を半乾燥草原とサバンナに優先的に割り当てることが最適である。最適な土地利用パターンに向けた変革は、土地管理の大規模な再構成と変更を意味するが、必要な毎年の土地利用変更は、既存の土地利用変更シナリオと同規模で実行可能と考えられる。
Anita D. Bayer, et al. Benefits and trade-offs of optimizing global land use for food, water, and carbon. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (42) DOI: 10.1073/pnas.2220371120
2023/10/19 ジョージ ワシントン大学
セミの羽化が北米の森林生態系へ及ぼす影響
2024年春に予測されているセミの大発生(数十億匹)に先立って、定期的なセミの大量羽化が森林生態系に及ぼす影響を明らかにした。周期的なセミ大発生は13年または17年ごとに発生し、騒音を発するだけでなく、鳥その他の捕食者に大量の食物をもたらす。この突然の増加が米国東部の森林における栄養動態に与える影響を調べるために、2021年のBrood Xセミの羽化の前後および発生中に調査を行った。セミが羽化しなかった年と比較して、鳥による毛虫の捕食が減り、毛虫の密度が高くなり、オークの苗木での被害率が高くなった。80種以上の鳥類が一時的にせよ食事をセミに切り替えると、毛虫の草食に対する制御力が低下するなど、短期的な突発イベントが広範囲に影響を与える。
Zoe L. Getman-Pickering, et al. Periodical cicadas disrupt trophic dynamics through community-level shifts in avian foraging. Science, 2023; 382 (6668): 320 DOI: 10.1126/science.adi7426
2023/10/18 チューリッヒ工科大学
世界で最も黒い川の一つに関する研究
コンゴ盆地の熱帯低地林にあるブラックウォーターの支流 ルキ川で、排出量を毎日、また濃度、同位体比、炭素と有機物の分子組成を隔週で、1年間(2019~2020年)測定した。コンゴ川と同様に、流量は11月から1月にピークに達し、6月には小さな二次ピークが見られる。溶存有機炭素(DOC)、無機炭素(DIC)、二酸化炭素(pCO2)、およびメタン(pCH4)濃度は高く、総排出量と正の相関があり、流量による制限を示している。総浮遊固体および粒子状有機炭素(POC)の濃度は低く、排出量に反比例し、発生源の限界を示している。ルキ川は年間3.25 TgCの流量があり、そのうち溶存有機炭、無機炭素、粒子状有機炭素はそれぞれ76%、20%、3%である。溶存有機炭素フラックスは、コンゴ盆地の約5%の面積から年間フラックスの約20%を排出していることがわかった。溶存有機炭素と粒子状有機炭素の同位体比から、現代の森林のC3植生が供給源であることを示した。これらの結果は、ルキ川の炭素濃度にかかわる水文的制御を示し、ルキ川がコンゴ盆地内の単位面積当たりの炭素排出にどのように関与しているかを示した。
Travis W. Drake,et al. Hydrology drives export and composition of carbon in a pristine tropical river. Limnology and Oceanography, 2023; DOI: 10.1002/lno.12436
2023/10/17 コロラド大学ボルダー校
ロッキー山脈北部の亜高山林は今のところ火災に強い
林野火災は、炭素と栄養素の循環、植生の動態などの森林生態系プロセスに大きな影響を与える。気候変動で林野火災が増加する中、多くの森林生態系の回復力は依然として不明である。 そこで、数十年から数千年にわたる気候変動や山火事活動に対する森林生態系の回復力を調べるために、モンタナ州シルバーレイク(北緯47.360°、西経115.566°)における4800年間の湖堆積物記録を高精度で作成した。木炭粒子、花粉粒、元素濃度、および炭素Cと窒素Nの安定同位体は、亜高山帯森林流域内の火災、植生、窒素循環や土壌侵食などの生態系プロセスにおける過去の変化を知る手がかりとなった。火災と生態系応答の古記録から、気候の長期的な変動に耐える生態系の回復力が示された。20世紀および21世紀と比較して過去数千年の方が火災の頻度が高かった。被災後数十年以内に生態系回復が継続実行されるのであれば、ロッキー山脈北部の亜高山生態系が将来の火災の増加に対して回復力を維持できる可能性があることを示唆している。
Kyra D. Clark‐Wolf, et al. Fire‐regime variability and ecosystem resilience over four millennia in a Rocky Mountain subalpine watershed. Journal of Ecology, 2023; DOI: 10.1111/1365-2745.14201
2023/10/17 アメリカ物理学研究所
気候ネットワーク分析で異常気象のリスクが高い地域を特定
テレコネクションは、通常数千キロメートルにわたって発生する長距離気候システムのリンクを指す。一般的には、ほとんどのテレコネクションはエネルギー伝達と波伝播に起因すると考えられるが、背後にある物理的な複雑さと特性は完全には理解されていない。そこで、気候ネットワークベースの分析により、それらの方向と分布パターンを明らかにし、テレコネクションの強度を評価するとともに、地球規模の毎日の表層気温データを使用して敏感な地域を特定した。1948年から2021年におけるテレコネクションの安定した平均強度分布パターンを時空間的に明らかにし、テレコネクションの影響の範囲と強度が過去37年間で南半球でより顕著に増加していることを示した。さらに、オーストラリア南東部など、地球温暖化による気候変動の影響を受けやすい地域を特定した。
Shang Wang, et al. Exploring the intensity, distribution and evolution of teleconnections using climate network analysis. Chaos: An Interdisciplinary Journal of Nonlinear Science, 2023; 33 (10) DOI: 10.1063/5.0153677
2023/10/17 ヴュルツブルク大学(ドイツ)
AIで熱帯雨林の動物の鳴き声から生物多様性を特定
熱帯林回復は、気候と生物多様性危機の絡み合った状況に対処する基礎である。再生する樹木は炭素を比較的速く蓄積するが、生物多様性の回復ペースについては議論の余地がある。本報告では、生物音響学とメタバーコーディングを使用して、エクアドルの世界的な生物多様性ホットスポットにおける農地後の森林回復を計測した。鳴き声を発する脊椎動物の種の豊富さではなく、群集構成が多様性の回復過程を反映していることを示した。音響指数モデルと鳥の群集構成を自動計測し、回復過程との相関を示した (それぞれ、adj-R²=0.62 と 0.69)。どちらの計測値でも、メタバーコーディングによって、鳴かない夜行性昆虫の組成を反映している。堅牢で再現可能なデータを得ることのできるこのような自動監視ツールは、森林回復過程の監視に有効である。
Jörg Müller, et al. Soundscapes and deep learning enable tracking biodiversity recovery in tropical forests. Nature Communications, 2023; 14 (1) DOI: 10.1038/s41467-023-41693-w
2023/10/16 イースト・アングリア大学
山火事が気候変動に重要なアマゾンの環境を脅かす
アマゾン地域の持続的管理は、地球規模の気候変動を緩和し、生物学的および文化的多様性を保護するために不可欠である。しかし、土地転換が、主に伐採、採掘、牧畜のために行われ、さまざまな規模で社会的、経済的、環境的負荷を引き起こした。心強いことに、現在の連邦政権下でアマゾン保護に向けた回復の兆しが見え始めている。ただし、森林伐採が減少する中、制御不能な火災の脅威が増加している。ブラジル国立宇宙研究所 (INPE)のTerraBrasilisウェブサイトは、森林破壊、森林被覆変化、火災に関するインタラクティブな図面を提供している。たとえば、2023年にはすでに森林破壊率が低下していることが示されており、1月から7月にかけての森林破壊警報は2022年の同時期と比べて42%減少した。さらに、生態系と先住民コミュニティ (特にヤノマミ族の領域) を脅かす大規模な違法採掘作業が縮小している。しかし、この減少の根本的な原因は依然として不明で、森林伐採減少の兆候があるにもかかわらず、アマゾンは火災の急増に直面している。気候変動による干ばつと熱波は、主にアグリビジネスによって引き起こされた森林破壊と断片化と相まって、火災が森林劣化と森林喪失の主な原因となっている。
Gabriel de Oliveira, et al. Increasing wildfires threaten progress on halting deforestation in Brazilian Amazonia. Nature Ecology & Evolution, 2023; DOI: 10.1038/s41559-023-02233-3
2023/10/12 ロンドン大学
世界中で気候適応にかかわる調整が不足
気候変動への適応に対する世界的な進捗状況評価が必要とされている。適応には多様な社会が主体的に関与し、責任感を共有すべきであるにもかかわらず、国家と非国家などの主体の種類や、さまざまな適応応答、地域における役割についてはほとんど知られていない。事例研究の大規模なn-構造分析を行い、個人または世帯が適応を実施する最も顕著な主体であるにもかかわらず、特にグローバル・サウスにおいては、制度的対応に関与していないことを示した。ほとんどの場合、政府は計画の策定に関与し、市民は対応の調整に関与する。個人や世帯における適応は、特に農村部では調査されており、都市部では政府が調査している。制度、複数の主体、また変革的適応にかかわる理解は依然として限られている。これらの知見は、適応のための「社会契約」、つまり役割と責任の配分に関する合意をめぐる議論に貢献し、将来の適応ガバナンスに情報を与えるものである。
Jan Petzold, et al. A global assessment of actors and their roles in climate change adaptation. Nature Climate Change, 2023; DOI: 10.1038/s41558-023-01824-z
2023/10/12 ロンドン大学
世界の水資源の状況に関する第2回報告書発刊
世界気象機関(WMO)は、世界の水資源の状況に関する第2回報告書を発表した。2022年は世界の大部分で、過去30年間の各季節で平均記録よりも乾燥した。調査対象地域の40%近くが、通常よりも乾燥した状況に苦しんだ。これは、世界中の多くの河川の流量が通常の予想を大幅に下回ったことを意味する。さらに、土壌中の水分レベルは、熱波の影響を頻繁に示し、水の使用量も増えたため、地下水面が平常時よりも低下した。なお、この報告書は、WMOが調整機関となり、11の国際モデリンググループが提供する専門知識に基づいて作成されている。 前回のレポートでは38観測点であったが2022年版では273観測点に増加した。しかし、観測点は14か国のみで、アフリカ、中東、アジアなどの地域は依然として不足している。空間解像度は向上し、世界中の1,000以上の河川流域をカバーするようになった。
The World Meteorological Organization (WMO), 2023, Status of global water resources 2022 Report. ISBN 978-92-63-11333-7
2023/10/12 ロンドン大学
花粉媒介者の喪失によりコーヒーとカカオの木が危機に瀕する
花粉媒介昆虫の多様性は急速に変化しており、作物受粉に影響を与える可能性がある。しかし、花粉媒介者の多様性の変化における、土地利用と気候変動の相互作用、および作物受粉の変化の結果としての経済的影響については、依然として十分に理解されていない。そこで、花粉媒介者の豊かさに対する、気候変動と土地利用の相互作用の世界規模の評価と、推定される変化による作物受粉のリスクを予測した。2,673箇所、3,080種の花粉媒介昆虫種データセットを使用して、農業と気候変動の相互作用が昆虫の花粉媒介者の大幅な減少をもたらすことを示した。その結果、花粉媒介者の喪失による作物生産へのリスクが熱帯地域で最も大きくなることが予想された。局地的リスクが最も高く、最も急速に危険性が進行すると予測されたのは、サハラ以南のアフリカ、南アメリカ北部、東南アジアの地域である。花粉媒介者の喪失のため、気候変動と農地利用が人間の幸福に対するリスクとなる可能性がある
Joseph Millard, et al. Key tropical crops at risk from pollinator loss due to climate change and land use. Science Advances, 2023; 9 (41) DOI: 10.1126/sciadv.adh0756
2023/10/11 ユタ大学
コケやブロメリアなどの着生植物が脅威に直面している
着生植物とそれに関連する生物相は、生物多様性に貢献し、世界の森林で重要な生態系機能を果たす。しかし、樹冠を生育環境とするため、自然的および人為的な環境変動に対して脆弱である。本研究では、着生植物に対する撹乱の要因と影響を分類し、総括した。熱帯と温帯で、森林撹乱はマイナスの影響をもたらす可能性が非常に高い。多くの研究が、資源量、多様性、群集の構成および持続性に対する悪影響を報告しているが、一部の研究では、撹乱がこれらの特性を強化することを示している。特定の撹乱因子が、全体の変動のかなりの部分を説明するが、人為的な影響と比較して、自然的な影響の方が悪影響をもたらす可能性がより高い。多くの研究は、林業で大きな古木を残すこと、着生植物が生育できるようなパッチ状伐採をすること、森林断片サイズを最大化すること、撹乱の生物指標として着生植物を使用すること、地域林業の原則を土地管理に適用することなど、悪影響を軽減するための効果的な推奨事項を提示している。今後の行動では、これらの結果を政策立案者や土地管理者へ伝えることが必要である。
Nalini M. Nadkarni. Complex consequences of disturbance on canopy plant communities of world forests: a review and synthesis. New Phytologist, 2023 DOI: 10.1111/nph.19245
2023/10/11 カリフォルニア大学デイビス校
バイオマスの良い利用法と悪い利用法:大気の質と気候政策に良いバイオ燃料への転換
カリフォルニアには大規模かつ多様なバイオマス資源があるが、カリフォルニア州も環境および社会経済的目標を達成するためにバイオマスと廃棄物の利用を最適化する必要がある。レビューにより、カリフォルニアにおけるバイオマス利用と、それに伴う気候と大気の質への影響を評価した。バイオマス利用には、再生可能燃料、電力、バイオ炭、堆肥、その他の市場性のある製品の生産が含まれる。最近開発されたバイオマス利用については、温室効果ガス (GHG) 排出への影響 に関する情報が入手可能であるが、基準汚染物質への影響については公開されている情報は少ない。本レビューでは、温室効果ガスまたは汚染物質の排出、またはその両方に有益な影響を与える34のバイオマス利用、つまり「良いこと」を特定した。これらには、発電のための森林バイオマスの燃焼や、嫌気性消化による家畜関連バイオマスのバイオガスへの変換が含まれる。また、このレビューでは、GHG排出量、基準汚染物質排出量、またはその両方に悪影響を与える13のバイオマス利用、つまり「悪いこと」も特定した。
Peter Freer‐Smith, et al. The good, the bad, and the future: Systematic review identifies best use of biomass to meet air quality and climate policies in California. GCB Bioenergy, 2023; DOI: 10.1111/gcbb.13101
2023/10/9 リーズ大学
14,300年前の年輪から史上最大の太陽嵐を特定
南フランスアルプスのドゥルーゼ水路の土手で得られたスコッツパインの亜化石から計測された14Cの計測結果を紹介。15本の樹木から年ごとにサンプリングした約400の14C年齢を分析した。結果として得られたΔ14C記録から、14,300〜14,299 cal BPの1年間で発生した突然のスパイクと、14,000〜13,900 cal BPの100年間にわたるイベントが確認された。これらのイベントの原因を特定するために、ドゥルーゼのΔ14C記録と炭素循環モデルの入力として使用されるグリーンランドの氷の10Be記録に基づくΔ14Cのシミュレーションを比較した。その結果、14,300 cal BPのイベントを太陽エネルギー粒子の影響(太陽風)として説明できた。対照的に、14,000 cal BPのイベントは約1世紀続き、太陽磁場による銀河宇宙粒子の変調に関連した一般的なマウンダー型太陽極小期の影響である可能性が最も高いと考えられる。
Edouard Bard , et al. A radiocarbon spike at 14 300 cal yr BP in subfossil trees provides the impulse response function of the global carbon cycle during the Late Glacial. The Royal Society's Philosophical Transactions A: Mathematical, Physical and Engineering Sciences, 2023 DOI: 10.1098/rsta.2022.0206
2023/10/9 ペンシルベニア州立大学
気候変動がもたらす猛暑により地球の一部が人間には暑すぎるようになる
気温と湿度が高くなると、人々と社会を脅かす。本報告では、バイアス補正した気候モデルから将来の熱ストレスリスクを予測するために、さまざまな気温と相対湿度の条件に実験室で測定された生理学をベースとした湿球温度の閾値を組み込んだ。この閾値を超えると、危険で取返し不可能な湿度-熱ストレスが及ぼすリスクを大幅に増大させる。最も人口の多い地域、通常は湿潤な熱帯や亜熱帯の下位中所得国では、3°Cの温暖化になるかなり前にこの閾値を超える。地球温暖化がさらに進むと、北米や中東など、より乾燥した地域に拡大する。これらの異なるパターンは、熱への適応性が地域によって大きく異なることを意味する。温暖化を2°C以下に制限すれば、このリスクはほぼ無くなる。
Daniel J. Vecellio, et al. Greatly enhanced risk to humans as a consequence of empirically determined lower moist heat stress tolerance. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (42) DOI: 10.1073/pnas.2305427120
2023/10/4 ヘルシンキ大学
保護区域内の鳥の種は予想よりも早く変化する
生物多様性保全はその保護地域に大きく依存するが、温暖化下での保護地域の役割と有効性については議論が続いている。本研究では、カナダ南部の保護区域内外の気候による鳥類群集の温度ニッチ変化を推定した。そのため、カナダの繁殖鳥類調査(the Breeding Bird Survey of Canada)の大規模かつ長期(1997~2019年)のデータを使用した。鳥類群集の温度ニッチを得るために、保護区域内外の毎年の群集温度指数(CTI)を計算し、時間的変化をモデル化した。一般に、暖地生息種は高い群集温度指数値を示すが、どの種が群集温度指数の時間的変化に最も関与したかを特定した。予想通り、保護地域内の群集温度指数は域外よりも低かった。しかし、予想に反して、保護区域内では群集温度指数の増加が保護区域外よりも速く、その群集温度指数変化に最も関与したのは温暖地生息種であった。これらの結果は、温暖化の影響が遍在的であることを示している。現在、保護区域は寒冷地の生息種を助けているが、温暖化するにつれて、保護区域内の群落の温度組成はすぐに保護区域外の組成に類似し始めることが示唆された。
Leena Hintsanen, et al. Temperature niche composition change inside and outside protected areas under climate warming. Conservation Biology, 2023; 37 (5) DOI: 10.1111/cobi.14134
2023/10/4 米国国立大気研究センター/大気研究センター校
米国西部で同時多発的な大規模林野火災が増加:消防力が逼迫する
林野火災が同時発生すると、火災に対応するリソースの利用可能性と配分に影響を与える。複数の小規模な火災は、1つの大規模火災よりも多くのリソースを必要とする。1984年から2016年までの気象と火災のデータに基づいて、過去の林野火災の同時発生性をモデル化した。そして、それらをNA-CORDEXデータアーカイブからの21世紀の地域気候モデルシミュレーションデータに適用した。その結果、米国西部のあらゆる地域で、4平方km以上の同時発生火災が増加すると予測された。特にロッキー山脈北部では、再発が劇的に増加する。また、すべての地域で、同時発生する長いシーズンが予測され、始まりの次期はわずかに早く、終了次期は極めて遅くなると予測された。これらの変化は火災対応に悪影響を及ぼす可能性がある。本結果は火災管理において同時発生性の変化を組み込むことの重要性を強調するもので、リソースの配分、事前配置、鎮圧等の決定では火災の同時発生を考慮する必要がある。
Seth McGinnis, et al. Future regional increases in simultaneous large Western USA wildfires. International Journal of Wildland Fire, 2023; 32 (9): 1304 DOI: 10.1071/WF22107
2023/10/3 カリフォルニア大学ロサンゼルス校
火入れは林野火災の防止に役立つ:しかし、気候変動はその有効性を制限する
米国西部では林野火災の激化により、社会への悪影響が加速している。林野火災の深刻度の拡大と地域社会への影響拡大には、遺物的な消火体制、高リスク地帯での開発増加、気候温暖化による乾燥化など、さまざまな人為的要因がある。また、植生管理手段として「火入れ」を意図的に使用することで、大規模火災のリスクを軽減し、生態系の回復力を向上させることが期待される。しかし、火入れで望ましい結果が得られるのは、天候や植生条件によるなど、いくつかの制約事項がある。本報告では、米国西部で火入れ可能な日数と季節性について、観測および予測された傾向を示した。2060年までに約2℃の地球温暖化により、そのような日は全体的に減少し(-17%)、特に春(-25%)と夏(-31%)に減少する一方、冬(+4%)では良好な気候になる可能性があることが予測された。特に北部の州では、火入れは比較的有効である。
Daniel L. Swain, et al. Climate change is narrowing and shifting prescribed fire windows in western United States. Communications Earth & Environment, 2023; 4 (1) DOI: 10.1038/s43247-023-00993-1
2023/10/3 セルプレス
炭素を回収するはずの熱帯の植林地はほぼ無益で生物多様性を脅かしている
植林による炭素蓄積は、炭素排出を相殺する有力な方法とされている。しかし、自然生態系を炭素という1つの指標に落とし込んでしまう危険性がある。生態系サービス、生物多様性保全、炭素蓄積のバランスをとるための生態系回復に重点を置く方が適切である。
Jesús Aguirre-Gutiérrez, Nicola Stevens, Erika Berenguer. Valuing the functionality of tropical ecosystems beyond carbon. Trends in Ecology & Evolution, 2023; DOI: 10.1016/j.tree.2023.08.012
2023/10/2 南メソジスト大学
過去も現在も気候と土地利用が太平洋島の林野火災に影響を与えている
太平洋の離島(オセアニア)では、3,000年前に人類が定住して以来、劇的な環境変化がもたらされた。そこでは、人間による環境悪化が、人間社会に内在する破壊的傾向の証拠とみなされてきた。本報告では、深層土壌コアから採取した木炭と炭素安定同位体を使用して、林野火災と森林減少とを分析した。林野火災は人間が定住する何千年も前からあったたが、火災規模と景観変化は、焼畑農業の拡大とともに加速した。紀元前3,200年から2,900年の間に移住したオセアニアの他の場所とフィジーでの研究を比較したところ、定住前後の火災と景観変化に同様の関係があったことが明らかになった。定住前の火災は一般的に干ばつに対応しており、おそらくエルニーニョによって引き起こされた。定住後は、木炭とC4草本は劇的に増加したが、木炭と草本のほぼすべての主要なピークは大きなエルニーニョに対応していた。これらは、火災と森林減少が土地利用変化だけでなく、焼畑農業と気候との相互作用の産物であることを示している。
Christopher I. Roos, et al. Fire activity and deforestation in Remote Oceanian islands caused by anthropogenic and climate interactions. Nature Ecology & Evolution, 2023; DOI: 10.1038/s41559-023-02212-8
2023/10/2 オランダ王立海洋研究所
沈下する海岸線をマングローブ林で持続的に保護
沿岸の農村地域はマングローブや湿地などの保護的な沿岸生態系の存続に大きく依存しているが、人為的に引き起こされる地盤沈下により、多くの沿岸地域が年間数センチ沈下し、相対的海水準上昇(relative sea level rise:RSLR)が悪化している。相対的海水準上昇に直面している低地農村地域の将来に光を当てるために、年間8~20cm で沈下しているインドネシアの都市に隣接する長さ20kmの海岸線を調査した。マングローブ林での水位と、村の家の床高を計測し、村では水位の急速な上昇が見られる一方、保護されたマングローブ林では相対的海水準上昇の急激な変化はそれほど大きくないことが分かった。しかし、海岸線の後退に伴って、相対的海水準上昇の発生率は以前の最大4倍に達し、沿岸地域の人々が移住を余儀なくされている。地域の相対的海水準上昇は地下水資源の管理を改善することで削減される可能性があるが、相対的海水準上昇の影響は、地方政府や地域政府の政策が及ばない世界規模で誘発された海面上昇に直面している農村地域に暗い見通しを与えている。
Celine E. J. van Bijsterveldt, et al. Subsidence reveals potential impacts of future sea level rise on inhabited mangrove coasts. Nature Sustainability, 2023; DOI: 10.1038/s41893-023-01226-1
23/9/27 アリゾナ大学
年輪から太平洋岸北西部の新たな地震の脅威が明らかに
ほぼ同時の破壊をもたらす複数の断層で起こる複合地震は、多くの場合、その地域の最大マグニチュードをもたらします。しかし、有史以来こうした現象が起こったのはまれで、連鎖する断層地震の可能性については依然としてよく分かっていません。地質学的記録が長期的な予測に使われますが、不確実性が大きすぎるため、複数の断層活動を明確に特定することはできません。本研究では、年輪年代測定と宇宙放射線を利用して、ワシントン州シアトル近郊の2つの隣接する断層帯に沿った地震で被災した樹木の枯死日を、西暦923年から924年の生育期の6か月以内と特定できました。これは、推定マグニチュード7.8の複合地震、または推定マグニチュード7.5と7.3の近隣の連続地震で連鎖的破壊が発生したことを示しています。現在のハザードモデルでは認識されていないこの事象は、現在住民が400万人を超えるピュージェット湾地域内での耐震対策と工学的な設計に必要な最大地震規模を増大させるものです。
Bryan A. Black, et al. A multifault earthquake threat for the Seattle metropolitan region revealed by mass tree mortality. Science Advances, 2023; 9 (39) DOI: 10.1126/sciadv.adh4973
23/9/25 カリフォルニア大学サンディエゴ校
植物を気候変動から守るにはどうすればよいか? 植物に聴く
気候変動を考えると、気候ニッチの推定を改善することは重要です。植物の気候への適応は、その生理学的特性と分布に依存しますが、種の気候ニッチの推定に生理学的特性が使用されることはほとんどありませんでした。多くの生態学的要因や遷移過程上の問題で、種の特性がその本来あるべき気候から分離されてしまうことがあるので、生理学的特性に基づくアプローチの有効性については議論の余地があります。本報告では、カリフォルニアの6つの生態系にまたがる107種を対象に、標準的特性の測定や一緒に生育する植物のサンプリングなどを用い、これまでの研究の方法論を改善して、葉と幹の機構的特性で種の平均的な気候分布を予測できることを示しました。さらに、種の特性と気候の不一致度を定量化する手法も示しました。そして、種の特性から種の平均的気候が精度よく予測できることを示しました。種の平均気候に近い個体の特性がサンプリングされると、種の平均気候の予測がよりよくなります (不一致が少なくなる)。種の気候ニッチの精度を向上させることは、今後数十年間の気候変動の脅威にさらされるであろう脆弱な種の保全に重要な情報を提供することができます。
Camila D. Medeiros, et al. Predicting plant species climate niches on the basis of mechanistic traits. Functional Ecology, 2023; DOI: 10.1111/1365-2435.14422
23/9/25 カリフォルニア大学サンディエゴ校
気候変動対策に行動を起こさせるには「名指しや非難」が効果的なこともある
効果的な国際協力にとって強制力の行使は課題です。人権法や環境法、その他多くの国際協力分野では、より強力な代替手段がない場合、執行メカニズムとして「名指しと非難」がよく使われます。名指しと非難は、努力が不十分な国を特定し、より良い行動に向けて効果的に恥をかかせる能力にかかっています。このアプローチに関する研究では、国家の行動に影響を及ぼし、より協力を促す要因を特定するのに苦労しています。パリ協定の策定に関与した経験豊富な外交官の大規模な(N = 910)サンプル調査により、名指しと非難が最も受け入れられており、質の高い政治制度や、気候変動に対する国内の強い懸念、野心的で信頼できる国際的な気候変動への取り組みを持つ国々の行動に効果的な影響を与えることを見出しました。しかし、それ以外の国では、名指しと非難はそれほど効果的ではないため、真の世界的な協力のためにはさらなる強制力メカニズムが必要となります。気候変動対策への意欲が低い国々では名指しと非難が効果的に機能しないことや、 名指しや非難をする者を優先することが最も効果が低いと思われるなどが、気候変動に関する協力をより強制力のあることにする中心的な政策議論になるべきでしょう。
Astrid Dannenberg, et al. Naming and shaming as a strategy for enforcing the Paris Agreement: The role of political institutions and public concern. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (40) DOI: 10.1073/pnas.2305075120
23/9/25 カリフォルニア大学アーバイン校
シエラネバダ山脈の林野火災の原因を解明
ここ数十年で、カリフォルニア・シエラネバダ山脈における年間の林野火災面積は大幅に増加しました。この被災面積の増加は、歴史的な森林管理が燃焼物の組成と生成にどのような影響を与えたかを理解することの重要性を高めています。本研究では、カリフォルニアの2021年の山火事シーズン中に発生し、シエラネバダ南部のジャイアントセコイアのいくつかの林に影響を与えた、KNP複合火災によって放出された粒子状物質(PM)の総炭素(TC)濃度と放射性炭素量(Δ14C)を調べました。時系列におけるPM2.5、CO、CH4間の高い相関関係から、PM2.5の測定が山火事排出量の変動を捉えていることが確認されました。火災で燃焼した平均樹齢は40年(29~57年の範囲)であると推定されました。これらの結果は、燃焼物が、数十年にわたって蓄積された、木質バイオマス、大きな直径の良く燃える材、および粗い木質破片に由来する可燃物であることを示しています。これは、強い火災強度で、ジャイアントセコイアを広範に焼失させた野外観察と一致しています。カリフォルニアでは林野火災の影響を軽減するために今後10年間に「人為的火入れ」の利用拡大が計画されていますが、本成果は有効な可燃物処理の地域的な統合化に有効です。
A Odwuor, et al. Evidence for multi-decadal fuel buildup in a large California wildfire from smoke radiocarbon measurements. Environmental Research Letters, 2023; 18 (9): 094030 DOI: 10.1088/1748-9326/aced17
23/9/25 ポートランド州立大学
将来の気象パターンはどう変化するか
最近の地球温暖化シナリオに基づいて、大気循環パターン、その頻度、および関連する気温と降水量の異常に関する気候モデル予測を、21世紀最後の30年間の北米の太平洋岸北西部を対象として行いました。モデルシミュレーションは「結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)」のフェーズ6によるもので、循環パターンは自己組織化マップ(SOM)を使用して特定し、500-hPaの地ポテンシャル高(Z500)での異常検出を行いました。全体として、予測された循環パターンは特に冬には現在の気候と同様ですが、夏にはZ500での異常の大きさが全体的に減少すると予測されました。夏には頻度パターンの大幅な変化も予測されており、Z500での大きな異常を伴う頻度パターンは全体的に減少しました。冬には、高緯度の歴史的に非常に寒いところが最も気温上昇すると予測され、夏には内陸部で最大の気温上昇が予測されました。降水量は、すべての季節およびほとんどの循環パターン(SOM)で増加します。しかし、現在の気候で平均を上回る降水量を伴っている一部の夏では、今世紀末までに大幅に乾燥化することがあると予測されました。
Graham P. Taylor, et al. Projections of Large-Scale Atmospheric Circulation Patterns and Associated Temperature and Precipitation over the Pacific Northwest Using CMIP6 Models. Journal of Climate, 2023; 36 (20): 7257 DOI: 10.1175/JCLI-D-23-0108.1
23/9/21 ハワイ大学マノア校
過去1世紀にわたって長期のラニーニャ現象がより一般的になった
1998年以降のラニーニャ現象6件のうち5件は2~3年続きました。なぜ最近、これほど多くの長期(複数年に渡る)ラニーニャ現象が発生しているのだろうか、また今後さらに一般的になるのだろうか。本報告では、過去100年間に発生した10件の複数年ラニーニャ現象が増加傾向にあり、そのうち8件は1970年以降に発生したことを示しました。この期間における2種類の複数年ラニーニャ現象は、スーパー エルニーニョまたは中部太平洋エルニーニョのいずれかに続いて発生しました。複数年のラニーニャ現象は、顕著な発生率で単年のラニーニャとは異なることがわかりました。気候シミュレーションの結果は、観測された複数年にわたるラニーニャ現象と西太平洋の温暖化の関連を裏付けています。西太平洋が中部太平洋に比べて温暖化し続ければ、複数年にわたるラニーニャ現象がさらに発生し、社会経済への悪影響がさらに悪化するでしょう。
Bin Wang, et al. Understanding the recent increase in multiyear La Niñas. Nature Climate Change, 2023; DOI: 10.1038/s41558-023-01801-6
23/9/21 シラキュース大学(米国ニューヨーク州)
気候温暖化がいかに根深い関係を破壊するか
外生菌根菌は、温帯および北方のほとんどの樹木に遍在する重要な共生生物であり、同じまたは異なる種の複数の宿主と相互作用ネットワークを形成します。根に関連する外生菌根菌群集のDNAメタバーコーディングを使用して、土壌水分と樹木の宿主の炭素状態が、樹木とその共生菌類の間の密接な相互作用ネットワークの重要な生態学的決定要因として機能することを示しました。人為的な温暖化と降水量減少の実験は、相互作用するネットワーク接続性の大幅な減少に対応して、外生菌根菌群集の分類学的および機能的構成に変化をもたらしました。土壌水分を減らし樹木の宿主の能力を低下させる気候変動シナリオは、高緯度の森林で樹木と菌類によって形成される相互作用ネットワークを混乱させる可能性が高いことが示唆されます。
Christopher W. Fernandez, et al. Climate change–induced stress disrupts ectomycorrhizal interaction networks at the boreal–temperate ecotone. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (34) DOI: 10.1073/pnas.2221619120
23/9/20 ハイデルベルク大学(ドイツ)
植物と森林の研究者は植物を「擬人化」しない
森林樹木の根をつなぐ共通の菌根ネットワーク (CMN またはウッドワイドウェブ) の本当の役割についての疑問が高まっています。菌根ネットワークを介して「母樹」からその子孫や近くの苗木に相当量の炭素が移動するという主張に疑問を抱いています。最近の調査では、「母樹の概念」の証拠は決定的ではないか、存在しないことが示されています。この概念の起源は、植物を人間らしく表現したいという願望から生じているように見えますが、誤解や誤った解釈を招く可能性があり、最終的には森林保護という称賛に値する大義を助けるどころか害を及ぼす可能性があります。最近の2冊の本、「The Hidden Life of Trees」と「Finding the Mother Tree」がその例です。
David G. Robinson, et al. Mother trees, altruistic fungi, and the perils of plant personification. Trends in Plant Science, 2023; DOI: 10.1016/j.tplants.2023.08.010
23/9/20 アメリカ地質学会
気候変動を効果的に視覚的に伝える
心理科学を気候科学のグラフ作成に活用し、特に科学者以外とのコミュニケーションにおいて、より有意義で有用なグラフを得ることができます。この研究では、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5)のグラフを再作成し、事前/事後調査、視線の動き、グラフの使いやすさ、順位付け、質問などにおいて、元のデザインと新しいデザインの間で参加者の注目度と認識度を比較しました。ロバストな(堅牢な)グラフ再作成プロセスと、それに関連するグラフの使いやすさ、グラフと科学的信頼性、気候変動に関連するリスクに対する参加者の認識への影響を示しました。これらの調査結果は、気候変動グラフとの対話が、政治的な聴衆者や自称保守派の中で、気候変動に対処する行動を起こす個人の動機に影響を与える可能性があることを示しました。また、ベストプラクティスと一致するように作成されたグラフを見た参加者は、気候科学の信頼性と気候変動リスクに対する認識がより増しましたが、その差異は統計的に有意ではありませんでした(p > 0.05)。参加者は、再作成されたグラフがより信頼できると評価しました。これは、気候変動のコミュニケーションを成功させるために不可欠でしょう
Steph L. Courtney, Karen S. McNeal. Seeing is believing: Climate change graph design and user judgments of credibility, usability, and risk. Geosphere, 2023; DOI: 10.1130/GES02517.1
23/9/20 ノーサンブリア大学(英国)
アジアの冬季モンスーンの理解を深める
東南アジアの冬と夏のモンスーンは重要な気象現象ですが、降雨源は非常に変わりやすい。特に、冬季モンスーンに関する現在の理解は、地域的な大気循環パターンと局所的な降雨力学の切り離しから生じる煩雑な観測情報のために困難です。そして、これらの情報は従来の古気候復元では解釈することが困難です。本報告では、完新世をカバーする東南アジアの冬季モンスーンの鍾乳石記録を得て、太平洋とインド洋での変化によって、冬と夏の降雨量が周期駅に変化したことを見出しました。対照的に、地域的な大気循環は、北半球の日射量によって制御されるため、冬と夏では逆の関係を示しています。古気候の復元において、局地的シグナルと地域的シグナルを分離することが、東南アジアにおける冬季と夏季のモンスーン変動を理解および予測する上で重要であることを示しています。
Annabel Wolf, et al. Deciphering local and regional hydroclimate resolves contradicting evidence on the Asian monsoon evolution. Nature Communications, 2023; 14 (1) DOI: 10.1038/s41467-023-41373-9
23/9/20 マサチューセッツ工科大学
世界的な森林破壊の危機にどう立ち向かうか
熱帯林破壊に対する学術的および政策的関心が高まっている要因が2つあります。1つは、熱帯林破壊が気候変動の主な要因のひとつであるという認識です。第二に、衛星による計測が急速に進歩していることです。まず、世界中で高い空間解像度での森林減少の計測を可能にした技術進歩をレビューしました。次に、森林破壊のベンチマークモデルを開発しました。このアプローチを拡張して、発展途上国の森林破壊を特徴づける因子(土地利用変更の圧力、地域的および世界的な重大な外因性、弱い財産権、政治経済的制約など)を組み込み、熱帯林破壊に関して、急速に増加している経済学的な実証文献をレビューしました。この理論と経験の組み合わせは、熱帯林破壊の経済的要因と影響だけでなく、その進行に影響を与える政策についても洞察を与えています。さらに、この分野においてさらなる研究が必要な領域を特定しました
Clare Balboni, et al. The Economics of Tropical Deforestation. Annual Review of Economics, 2023; 15 (1): 723 DOI: 10.1146/annurev-economics-090622-024705
23/9/18 フリンダース大学(オーストラリア)
コアラ生息地のほぼ半分が山火事の脅威にさらされる
現在および 2070 年の火災感受性マップを作成し、現在および将来の気候変動下で山火事がコアラにもたらす脅威を特定しました。対象としたのは、コアラと関係する主な樹種60種です。手法としては、デシジョンツリー機械学習アルゴリズムを適用して、地域状況のデータセットを使用して火災感受性指数 (特定の地域または地域で山火事が発生する可能性の尺度) を生成しました。状況データは、高度、方位、降雨量、河川からの距離、距離道路、森林タイプ、地質、コアラの存在と将来の食物源、土地利用-土地被覆 (LULC)、正規化植生差分 (NDVI)、傾斜角、土壌、気温、風速などです。その結果、オーストラリアの植生が森林火災に対する感受性が全般的に増加しているがわかりました。現在の状況に関するシミュレーションでは、コアラの生息地全体の39.56%が火災に対する感受性評価が「非常に高い」または「高い」であり、それが2070 年までに44.61%に増加することが示された。山火事は将来、コアラの個体数にますます大きな影響を与えるでしょう。コアラを保護するには、この脅威に対処するために保護戦略を持つ必要があります。コアラの生息地と生息数が火災によって完全に破壊されないようにしながら、定期的な火入れによる森林の若返りと再生を可能にするというバランスを取ることが重要です。
Farzin Shabani, et al. Habitat in flames: How climate change will affect fire risk across koala forests. Environmental Technology & Innovation, 2023; 32: 103331 DOI: 10.1016/j.eti.2023.103331
23/9/17 ノースカロライナ州立大学
イースタンヘムロックの樹冠間の隙間は侵入昆虫から生き残るのに役立つ
ヘムロックアデルギッド(Adelges tsugae Annand) は、北アメリカ東部の樹種イースタンヘムロックの持続可能性を脅かす森林侵入昆虫です。この研究では、下層のヘムロックの上の林冠に小さな隙間をあけることが、アデルギッドの総合的な害虫管理に有効な手法であることを示しました。アパラチア山脈南部の緯度の異なる3か所で、アデルギッドの密度、ヘムロックの樹冠の健全性、ヘムロックの成長、および競合する樹種の再生に及ぼす影響について、2つのギャップサイズと2つのギャップ作成方法で評価しました。樹冠ギャップを空けた場合は、樹冠ギャップを空けない場合と比べて、アデルギッドの密度が同等以上であるにもかかわらず、ヘムロックの樹冠と直径成長に及ぼすプラスの効果が見られました。樹冠の隙間(主要な樹高の半径約 1/4 から 1/2)における太陽光(およびおそらく他の限られた資源)の利用可能性の増加が、アデルギッドの侵入に対するヘムロックの生理学的耐性を改善し、より多くの効果的な環境を提供するとともに、アデルギッドを含む捕食性昆虫の餌となる新芽のより安定した供給をもたらすことにより、生物学的防除を補完する可能性があると考えられます。
Albert E. Mayfield III, et al. Silvicultural canopy gaps improve health and growth of eastern hemlocks infested with Adelges tsugae in the southern Appalachian Mountains. Forest Ecology and Management, 2023; 546: 121374 DOI: 10.1016/j.foreco.2023.121374
23/9/15 オックスフォード大学
多種の苗木を混植すると伐採地回復が促進される
制御された条件下での実験では、生態系機能が生物多様性レベルとプラスの関係があることが示されていますが、これらが現実の環境下でどの程度あてはまるのか、またその知見を生態系回復に活用できるかどうかは不明でした。そこで、2002年に開始された長期の野外での熱帯林回復実験の最初の10年間で、植栽木の多様性が500haの択伐林の回復にどのような影響を与えるかを種々の衛星リモートセンシングデータを使用して調べました。系統的および機能的多様性がより高い苗木の種を豊富に混交した再植林では、地上部バイオマス、樹冠被覆、および葉面積指数の復元が速いことが分かりました。この結果は、東南アジアの低地フタバガキ熱帯雨林における生物多様性と生態系機能との正の関係と一致しており、多様な種を混交することで伐採後の初期回復を促進できることを示しています。
Ryan Veryard, et al. Positive effects of tree diversity on tropical forest restoration in a field-scale experiment. Science Advances, 2023; 9 (37) DOI: 10.1126/sciadv.adf0938
23/9/14 NASA
2023年の夏は記録上最も暑かった
ニューヨーク州にあるNASAのゴダード宇宙研究所(GISS)は、2023年の夏季は1880年に地球規模の記録が始まって以来、最も暑かったと報告した(北半球では、6月から 8月が気象上の夏季とみなされる)。夏季の間は、NASAの記録にある他の年の夏季よりも摂氏0.23度 (華氏0.41度) 高く、1951年から1980年の平均的な夏季よりも1.2度(2.1°F)暖かかった。8月だけでも平均より1.2°C(2.2°F)高かった。この新記録は、異常な暑さが世界の多くの地域を襲い、カナダとハワイで大規模な山火事をもたらし、南米、日本、ヨーロッパ、米国で灼熱の熱波が発生する中、イタリア、ギリシャ、中央ヨーロッパでは激しい豪雨をもたらした。
NASA (2023, August 14) NASA Announces Summer 2023 Hottest on Record. Accessed September 14, 2023.
NASA Earth Observatory World of Change: Global Temperatures. Accessed September 14, 2023.
23/9/13 オハイオ州立大学
オハイオ州の干ばつは極めて深刻:乾燥する気象への備えを強化するべき
干ばつ監視は、農業と水資源の管理や、州の緊急対応計画と危険軽減活動の開始に重要です。固定された閾値は、米国干ばつモニター (USDM) のガイドラインとして機能します。しかし、固定された干ばつの閾値(つまり、すべての季節および気候地域で同じ閾値を使用する)は、地域の状況や影響を適切に反映しない可能性があります。そこで、本研究は、オハイオ州の干ばつモニタリングにとって適切な、影響ベースの干ばつ閾値の開発を目指しました。オハイオ州で現在使用されている4つの干ばつ指数、標準化降水量指数 (SPI)、標準化降水量蒸発散量指数 (SPEI)、パーマーZ指数、およびパーマー水文干ばつ指数(PHDI)を比較検討しました。結果は、固定した閾値はオハイオ州のより穏やかな干ばつ状態を示す傾向があるのに対し、影響ベースの干ばつ閾値は例外的な干ばつ(D4)状態に対してより敏感であることが分かりました。影響ベースの干ばつの閾値に基づくD4の面積割合は、トウモロコシの収量および河川流量とより強く相関していました。この成果は、長期的な干ばつの影響記録が存在する他の地域にも適用でき、地域の影響に基づく干ばつ閾値を開発するための方法論を提供することで、地域を代表する状況描写を示すとともに、干ばつモニタリングの改善に役立ちます
Ning Zhang, et al. Developing Impacts-Based Drought Thresholds for Ohio. Journal of Hydrometeorology, 2023; 24 (7): 1225 DOI: 10.1175/JHM-D-22-0054.1
23/9/13 アメリカ地球物理学連合
100年に一度の沿岸洪水が21世紀末には毎年発生する可能性がある
海面上昇 (SLR) として知られる世界の平均海面(MSL)の緩やかな上昇は21世紀の気候変動に関連した最大の懸念の1つです。海面上昇は海辺のコミュニティに脅威をもたらし、沿岸洪水の頻度と深刻度の増加につながる可能性があります。したがって、将来予想される極端な海面上昇現象の数とその規模を評価することは、持続可能な沿岸洪水リスク管理にとって重要です。さまざまな傾向検出方法を使用して相互調査し、「疑似地球規模」スケールで極端な海面水位の大幅な上昇傾向が示されました。したがって、平均海面が将来的に上昇し続けるという仮定に基づいて、今後の沿岸洪水の危険性をモデル化しました。これは、物理的共変量、つまり進化する沿岸洪水の危険性の明示的な統計モデリングに平均海面を利用した地球規模の初の研究です。不確実性を考慮して修正された海面上昇予測を使用することにより、中程度または高濃度のCO2濃度経路の下で、今世紀末までに沿岸洪水の危険が大幅に増加することを示しました。
Georgios Boumis, et al. Coevolution of Extreme Sea Levels and Sea‐Level Rise Under Global Warming. Earth's Future, 2023; 11 (7) DOI: 10.1029/2023EF003649
23/9/13 ブリストル大学(英国)
サハラ砂漠が緑だった理由と時期
サハラ地域は第四紀以降、定期的に雨期を経験しました。北アフリカ湿潤期間 (NAHP) は、アフリカのモンスーンシステムの強さを制御する歳差運動によって天文学的なペースで変化します。しかし、ほとんどの気候モデルはこれらの現象を調整できていません。本研究では、過去80万年にわたる20回の 北アフリカ湿潤期間をシミュレートする最近開発されたバージョンのHadCM3B結合気候モデルを使用しました。これは、プロキシデータで特定された 北アフリカ湿潤期間とよく一致しています。結果は、歳差運動が 北アフリカ湿潤期間を決定することを示しましたが、その振幅は氷の被覆範囲と強い相関がありました。 氷河期には、氷のアルベドにより地球が冷却され、湿気の多い状態であった歳差運動最小時の北アフリカ湿潤期間の振幅が抑制されます。これは、歳差運動と氷被覆からの離心率の両方の重要性と、北アフリカ湿潤期間のタイミングと振幅の決定にかかわる高緯度地方の役割を示しています。 これが、第四紀全体における動植物のアフリカ外への拡散に影響を与えた可能性があります。
Edward Armstrong, et al. North African humid periods over the past 800,000 years. Nature Communications, 2023; 14 (1) DOI: 10.1038/s41467-023-41219-4
23/9/12 ニューカッスル大学(英国)
ガンジス川とメコン川では数は少なくなるもののより強力な熱帯暴風雨が予想される
熱帯低気圧(TS)は、世界で最も被害を与える自然災害の1つであり、特にガンジス川やメコン川などの低地デルタ流域において、人命、インフラ、資産に多大な社会経済的損失をもたらします。したがって、気候変動下での熱帯低気圧の変化に関する知識は、災害リスクの軽減と気候適応に役立ちます。これまでのモデリング研究では、熱帯低気圧の主要な特性を捕捉できない解像度の粗い地球規模気候モデルが使用されてきました。この研究では、この不確実性の一部を解決するために、より細かい分解能(6時間間隔で最大約25km)のCMIP6 HighResMIPモデルと2つの異なる追跡アルゴリズム (トラッカー) を利用しました。この結果は、将来の熱帯低気圧の頻度は低下するが、熱帯低気圧の強度は増加すると予測しています(強度と利用可能なサイクロンエネルギーの点で、両方のトラッカーで定性的に類似しています)。これらの知見は、これらの人口密度の高いデルタにおける熱帯低気圧に対する既存のインフラの将来的な有効性評価に使用可能です。
Haider Ali, et al. Fewer, but More Intense, Future Tropical Storms Over the Ganges and Mekong Basins. Geophysical Research Letters, 2023; 50 (17) DOI: 10.1029/2023GL104973
23/9/11 オレゴン州立大学
19世紀の風景画における生態学としての芸術と科学の融合
変化する気候条件と土地利用需要の下で森林景観の将来を考えるとき、歴史的な森林状況と、撹乱後にそれらの景観がどのように変化したかを研究する価値が高まっています。歴史的な風景画は、上層と下層の環境を非常に詳細にフルカラーで描写した、産業革命以前の森林に関するデータの潜在的な情報源です。これらは、カラー写真の出現よりずっと前の時代の森林群落の構成、微小生息地の特徴、構造の複雑さに関する詳細を表示している点で重要です。このような絵画の可能性にもかかわらず、その科学的応用は妥当性問題によって妨げられてきました。それらの絵画に描かれている描写はどれほど正確なのか? 自然の寓意やロマンチックな見方を最もよく表現するために、芸術家が描写に手を加えることは、どの程度なのか? 評価モデルに従って、美術史上の学問を森林景観の生態学的理解と統合し、19世紀のアメリカ美術における描写の真実性の問題に取り組むことができるかを検証しました。そして、生態学におけるこれらの歴史的な画像の潜在的な使用価値を説明するために、10枚の異なる絵画の微小生息地の特徴を評価するケーススタディを紹介しました。本論文では19世紀の風景芸術を広く調べていますが、特に1800年代半ばのいわゆる「ハドソン・リバー派」に関連した多作で影響力のある芸術家、アッシャー・デュランドに焦点を当てて考察しました。デュランは、自然を正確に描写する彼の視点について明確な記録を残しました。
Dana R. Warren, et al. An interdisciplinary framework for evaluating 19th century landscape paintings for ecological research. Ecosphere, 2023; 14 (9) DOI: 10.1002/ecs2.4649
23/9/7 ユタ州立大学
サバンナで炭素蓄積:気候変動にかかわる草本
熱帯サバンナは、樹木の増加に伴って土壌有機炭素 (SOC) が大幅に増大すると想定され、植林による炭素蓄積の対象地となることが増えています。サバンナの土壌有機炭素は草本に由来するため、この想定は植林中の土壌有機炭素の実際の変化を反映していない可能性があります。しかし、土壌有機炭素に対する草本の正確な寄与や、樹木の増加に伴う土壌有機炭素の変化については、まだ十分に解明されていません。本報告では、南アフリカのクルーガー国立公園での事例研究と、世界中の熱帯サバンナから得られたデータを組み合わせて、木の根元の土壌であっても、土壌の深さ1mまでの総土壌有機炭素量の半分以上は草本由来であることを明らかにしました。最大の土壌有機炭素蓄積量は、最大の草本の寄与 (総土壌有機炭素の70%以上) と関連していました。熱帯地域全体では、総土壌有機炭素は樹木被覆率によって説明されませんでした。 樹木の増加後には 土壌有機炭素の増加と減少の両方が観察され、平均して 1 m プロファイル内の 土壌有機炭素 貯蔵量は 6% しか増加しませんでした (s.e. = 4%、n = 44)。 これらの結果は、草本が 土壌有機炭素 に大きく関与していることと、熱帯サバンナ全体で樹木被覆率の増加による土壌有機炭素量の増加がかなり不確実であることを示唆しています。
Yong Zhou, et al. Soil carbon in tropical savannas mostly derived from grasses. Nature Geoscience, 2023; 16 (8): 710 DOI: 10.1038/s41561-023-01232-0
23/9/6 USDA森林局 - ロッキーマウンテン試験場
森林火災から炭素と地域社会を守る
気候と山火事の危機の激化により、森林の炭素損失のリスクを軽減するために、積極的な森林管理(間伐、火入れ、文化的火入れなど)を利用することへの世界的な関心が高まっています。米国西部の針葉樹林における山火事による炭素損失のリスクを推定するために、山火事災害と炭素放出および脆弱性の間の相互作用を評価しました。山火事での損失において最も脆弱な炭素の点から、積極的な森林管理に対する社会的な適応能力の高さを評価することで、山火事による炭素損失のリスクを軽減する常陽なポイントを特定しました。森林面積と比較して、カリフォルニア、ニューメキシコ、アリゾナの各州には、山火事に対して非常に脆弱な炭素が最も多くあります。また、米国西部では、山火事による炭素損失のリスクを軽減するために積極的な森林管理を活用する機会が広範に存在しており、多くの地域では山火事から炭素と人間社会への最大のリスクを同時に軽減する可能性があることが観察されました。また、タイムリーな気候変動と山火事の緩和目標を達成するための道筋を提供する、協働的かつ公平なプロセスを示しました。
Jamie L Peeler, et al. Identifying opportunity hot spots for reducing the risk of wildfire-caused carbon loss in western US conifer forests. Environmental Research Letters, 2023; 18 (9): 094040 DOI: 10.1088/1748-9326/acf05a
23/9/5 ミシガン州立大学
生物多様性、気候変動、食料のバランスをとる
気候変動の緩和と生物多様性の保全は、増加する世界人口に対する食糧供給の確保と並んで、今世紀に効果的に実施する必要がある主要な環境活動です。これら3つの問題は、土地管理にかかわり複雑に関連しています。したがって、生物多様性のホットスポットに位置し、炭素蓄積の可能性がある世界の主要な食料生産地域は、これらの貴重な生態系サービス間のトレードオフ問題に直面しています。ブラジルのマトグロッソ州もそのような地域の1つで、農業に違法に使用されていた私有地を自然植生に戻すことができ、食料生産にマイナスの影響を与える可能性があるものの、気候変動の緩和や生物多様性の保全に恩恵をもたらす可能性があります。この課題に対処するために、炭素蓄積、生物多様性保全、食料生産を考慮した多基準ネクサスモデリング法を使用して、生態系回復のメリットとデメリットのバランスを図る土地配分シナリオを開発しました。結果は、地主に個々の土地の復元を強制することで、アマゾン生物群系全体にわたる「緑の土地市場」の可能性を低め、食料生産能力が低い個人の地主がそれを補う復元プログラムから恩恵を受けることが可能であることを示しています。
Ramon Felipe Bicudo da Silva, Jet al. Balancing food production with climate change mitigation and biodiversity conservation in the Brazilian Amazon. Science of The Total Environment, 2023; 166681 DOI: 10.1016/j.scitotenv.2023.166681
23/9/4 スタンフォード大学
食料安全保障と生物多様性の鍵となる生息地を作り出す農場
多様な農地は多くの種の生息地を提供しますが、農業地域が環境変化に敏感な種の個体群を維持できるかどうかは不明です。コスタリカのさまざまな農地における鳥の個体数の変化を18年間追跡することで、この疑問を探りました。私たちは、多様な農地が、多くの敏感な森林関連種や昆虫を食べる種の長期的な個体数増加を長期的ににサポートできることを明らかにしました。予想外なことに、周囲の森林生息地における個体数減少の方が、多様な農地での増加を上回っています。この調査結果は、生物多様性に対する多様な農業活動は時間経過とともに利点が増加する可能性があり、種の回復に不可欠な要素を持っていることを示唆しています。
J. Nicholas Hendershot, et al. Diversified farms bolster forest-bird populations despite ongoing declines in tropical forests. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (37) DOI: 10.1073/pnas.2303937120
23/9/4 リーズ大学(英国)
極端なエルニーニョ現象で南米の炭素吸収源が停止
熱帯林の炭素吸収能は干ばつに弱いことが知られていますが、どの森林が極端な現象に対して最も脆弱であるかは不明です。より暑くより乾燥した地域にある森林は、事前に獲得した適応力によって生存できる可能性がありそうですが、生理学的限界に近い森林であるために、より脆弱である可能性もあります。本報告では、南米のより乾燥した気候下にあった森林が2015年から2016年のエルニーニョにより最大の影響を受けたことを明らかにし、極端な気温と干ばつに対してより脆弱であったことを示しました。南米熱帯地域の123の森林区画において、長期にわたって樹木ごとに地上計測していましたが、樹木による炭素収支がほぼゼロになりました (-0.02 ± 0.37 Mg C/ha/年)。一方、手付かずの南米の熱帯林は、2015年から2016年の極端なエルニーニョ現象に対して、際立った影響を受けず、森林保護は気候変動に対する重要な防御手段であることが示唆されました。
Amy C. Bennett, et al. Sensitivity of South American tropical forests to an extreme climate anomaly. Nature Climate Change, 2023; DOI: 10.1038/s41558-023-01776-4
23/9/1 ペンシルベニア州立大学
外来種のマダラランボは考えられていたほど広葉樹に被害を及ぼさない
外来種のマダラランボLycorma delicatula (White) [半翅目: Fulgoridae] は米国で生息範囲を拡大し続けていますが、この害虫が森林生態系や生産苗床に与える経済的脅威については不明な点が残っています。マダラランボは数種類の広葉樹を宿主として使用しており、以前の研究では短期間の給餌によりカエデの若い苗木の成長が低下する可能性があることが判明しました。本研究では、連続4シーズンにわたる長期給餌により、若いシルバーカエデ(Acer saccharinum L.)、シダレヤナギ(Salix babylonica L.)、カワラカバ(Betula nigra L.)、および天の木 (Ailanthus altissima [Mill.] Swingle)はマダラランボの摂食圧力に密度依存的に応答し、直径成長と根のデンプン貯蔵が大幅に減少しました。給餌圧力が最も低かった3年目では、シルバーカエデとヤナギは2年目よりも直径が大きく成長して回復しました。光合成と成長に必須の栄養素 (鉄、硫黄、リン) は、2年目に対照とした木と比較してすべての樹種の葉で減少しました。この4年間の研究は、マダラランボが4連続の成長期にわたって同じ木を食害したという最悪のシナリオを表しています。野生では、個々の樹木での個体数は年ごとに大きく異なり、寄主間を頻繁に移動します(秋にはシンジュA. altissima 、またはまだ老化していない晩期の寄主に定住します)。したがって、自然環境において閉じ込められていないマダラランボが森林や観賞用の樹木に及ぼす悪影響が、ここで報告されているほど顕著になるとは思えません。
Kelli Hoover, et al. Effects of long-term feeding by spotted lanternfly (Hemiptera: Fulgoridae) on ecophysiology of common hardwood host trees. Environmental Entomology, 2023; DOI: 10.1093/ee/nvad084
23/8/30 カリフォルニア大学デイビス校
この森は生きていけるのでしょうか? 干ばつ後の森林の枯死・回復を予測
頻繁で深刻な干ばつのため、森林の枯死率が世界中で増加しています。干ばつが森林の炭素循環に与える影響を予測し、生態系の崩壊を引き起こす環境ストレスの閾値を特定することは喫緊の課題です。生態系レベルでの干ばつの影響を定量化することは複雑で困難です。なぜなら、気候と植物の関係がダイナミックに変わり、炭素バランスに急速な変化や長期にわたる変化が生じる可能性があるからです。本研究ではCARbon Data Model fraMework (CARDAMOM) を使用して、森林の炭素蓄積と炭素収支に対する過去の干ばつの影響を調べました。タワーで観測された気象と炭素フラックスのデータを使用して、2012 ~ 2015 年のカリフォルニアの干ばつにおける地上と地下の生態学的プロセスの反応・感度を確認しました。研究地域は、シエラネバダ南部の中部山地の針葉樹林帯です。2012年から2015年の降水量は過去の平均より45%少なく(474mm)、土壌水分と炭素蓄積 (葉、不安定、根、落葉) が段階的に減少しました。特にストレスの大きかった年(2014年、年間降水量=293 mm)に降雨157mm を追加したところ、水分と炭素蓄積の低下が減少し、生態系が崩壊の状態から回復傾向へと変わることがわかりました。GPPの崩壊が植物の葉の炭素と土壌水分に敏感であることを示すプロセス分析法を提示し、GPPが完全に回復するには数年かかることを示しました。土壌水分と炭素蓄積の長期的な変化は、干ばつと森林の枯死との間に明確な関係をもたらす可能性があります。
J. Au, et al. Forest productivity recovery or collapse? Model‐data integration insights on drought‐induced tipping points. Global Change Biology, 2023; DOI: 10.1111/gcb.16867
23/8/29 野生動物保護協会
気候変動と闘いたい? ゴリラ(またはゾウ、サイチョウ、オオハシなど)を密猟しないでください
狩猟による大型野生動物の損失は、炭素を吸収・貯蔵する熱帯林の生態学的プロセスを悪化させます。野生動物の保護を奨励する炭素市場では、必要な森林と狩猟管理をサポートするための利益を生み出すことができるでしょう。多くの熱帯林は、持続不可能な生存管理や販売目的の狩猟のために、動物が消え、「空っぽ」になっていると言われています(補足1参照)。このような狩猟は、当該の種、広範な生物多様性、地域社会の生計および福祉に悪影響を与えます。気候変動の要因となる熱帯林の炭素吸収・蓄積に及ぼす動物種の減少の影響はあまり認識されていません。
補足1. 狩猟がもたらすこと
今日の熱帯林は人影がなく、静かです。しかし、まれな例外を除いて、森は狩猟によって野生動物を奪われてきました。それは森林に住む人々の生計のためでもありましたが、市場販売のための狩猟により持続不可能になってしまいます。ブラジルのアマゾン全域では32.4%の森林で大型霊長類が狩猟の影響を受けており、クモザルとウーリーモンキーではそれぞれ96.97%と95.80%の個体群密度の損失が発生しています。世界中の熱帯林の狩猟地域では、保護区を含む非狩猟地域と比較して、大型哺乳類の生息数が83%~90%減少しています。中央アフリカでは、2002年から2011年にかけて、象牙取引のための狩猟の結果、マルミミゾウは総個体数の62%と生存面積範囲の30%を失い、個体数は潜在的な数の10%未満に減少し、生存面積は潜在的な地域の25%以下になっています。
Elizabeth L. Bennett, John G. Robinson. To avoid carbon degradation in tropical forests, conserve wildlife. PLOS Biology, 2023; 21 (8): e3002262 DOI: 10.1371/journal.pbio.3002262