森林(リモートセンシング)にかかわる世界のプレスリリース

森林と地球環境にかかわる機関のプレスリリースを紹介。"タイトル"はプレスリリース原文に、"文献"は報告書等原文にリンクしています。2024年6月からリモートセンシング技術を利用したプレスリリースのみ紹介することとしました。(wordcloud以外の画像は各プレスリリースの機関サイト等にあるものです。沢田治雄)

2024/8/19 ヘルシンキ大学

森林消失は気温と雲レベルの上昇により気候変動を激化し水の減少につながる

熱帯高山林生態系は生物多様性の維持と淡水供給など重要な生態系サービスの提供に不可欠である。しかし、高山林の伐採と気候変動が森林の生態系サービス提供能力にどのような影響を及ぼすかは十分に理解されていない。本研究では、アフリカの高山林における過去20年間の伐採に伴う大気温度と雲底高の変化を観測データで示した。その結果、2003年から2022年にかけてアフリカの高山林の約18%(740万ヘクタール)が失われていることがわかった。この伐採によって、気候変動のみでは説明できない大気最高温度の上昇(1.37 ± 0.58°C)と雲底高の上昇(236 ± 87m)が観測された。これらの結果は、高山林の伐採が生物多様性、水資源供給、熱帯域の生態系サービスに深刻な脅威をもたらすことを示唆しており、高山林の保護に対する緊急の取り組みが必要であることを示している。リモセン利用

Temesgen Alemayehu Abera, et al. Deforestation amplifies climate change effects on warming and cloud level rise in African montane forests. Nature Communications, 2024; 15 (1) DOI: 10.1038/s41467-024-51324-7

2024/7/29 NASA/Goddard Space Flight Center

2024年7月22日は、地球観測史上で最高気温を記録した日

NASAが行った世界的な日別気温データの分析によると、2024年7月22日は、観測史上最高の気温を記録した日であった。7月21日と23日も、2023年7月に記録された過去最高の気温を超えていた。これらの記録的な高温は、主に温室効果ガスの排出によって引き起こされている長期的な温暖化傾向の一部と考えれらる。この調査速報は、地上、海上、空中、衛星からの膨大な世界規模の観測データを大気モデルで組み合わせた「Modern-Era Retrospective analysis for Research and Applications, Version 2 (MERRA-2)」および「Goddard Earth Observing System Forward Processing (GEOS-FP)」システムからのデータ分析に基づいている。GEOS-FPは準リアルタイムの気象情報を提供し、MERRA-2の気候再解析は時間がかかるが、最高品質の観測情報を保証するものである。これらのモデルは、NASAゴダード宇宙飛行センターにある Global Modeling and Assimilation Office (GMAO)によって運用されている。また、この結果は、欧州連合のコペルニクス地球観測プログラムによる独立した分析とほぼ一致している。リモセン利用

NASA/Goddard Space Flight Center. "NASA data shows July 22, 2024 was Earth's hottest day on record." 

2024/7/17 USDA森林局 北部研究所

地域的な圧力はあるが森林は炭素吸収源として持続している

陸上生態系による二酸化炭素(CO2)の吸収は、気候変動の緩和に重要である。長期にわたる森林のCO2吸収への貢献を把握するため、30年間の寒帯、温帯、熱帯の森林のデータを統合した。その結果、世界の森林による炭素吸収量は安定しており、1990年代と2000年代は年間3.6±0.4ペタグラムC、2010年代は年間3.5±0.4ペタグラムCであった。しかし、生物群系レベルでは大きな変化が見られた。温帯(+30±5%)と熱帯二次林(+29±8%)では森林面積の増加により炭素吸収量が増加したが、寒帯(-36±6%)と熱帯原生林(-31±7%)では攪乱の増加と原生林面積の減少により炭素吸収量が減少した。一方、陸域全体での炭素吸収量は増加しており、非森林地域における吸収量の増加を示唆している。世界の森林炭素吸収量は化石燃料由来排出量(1990-2019年の平均7.8±0.4ペタグラムC/年)の約半分に相当するが、その効果の3分の2は熱帯林の減少(1990-2019年の平均2.2±0.5ペタグラムC/年)によって相殺されている。世界の森林炭素吸収量は30年間にわたり変わらず持続してきたが、老齢化、継続する森林減少、攪乱の増大などによって弱まる可能性がある。炭素吸収量を保護するためには、森林減少の制限、森林再生の促進、伐採方法の改善などの、林地管理政策が必要である。リモセン利用

Yude Pan, et al. The enduring world forest carbon sink. Nature, 2024; 631 (8021): 563 DOI: 10.1038/s41586-024-07602-x

2024/7/10 ロンドン大学 (University College London)

モザンビークのミオンボ林に、これまでの推定値の2倍以上の炭素が貯蔵されている可能性

ミオンボ林は南部アフリカの生計手段、地域の生物多様性、そして地球規模の炭素循環に不可欠であり、その状態と変化を正確かつ詳細に監視することが不可欠である。本研究では、健全および劣化したミオンボ林5万haをカバーする地上と航空機ライダーのデータセットを収集し、森林構造の3D計測により、地上部バイオマス量を高い確実性で推定した。その結果、この地域には地上部バイオマスとして 1.71 ± 0.09 TgC が蓄積されていることがわかった。これは従来の手法による推定値 0.79–1.14 TgC の1.5~2.2倍に相当する。この差異の一部は、合成曲線による大木の過小評価に起因する。これらの結果をアフリカ全体のミオンボ林に外挿すると、炭素ストックは約 3.7 PgC 上方修正される可能性がある。つまり、これらの林の炭素吸収能力と排出ポテンシャルを現在過小評価しており、その保護と再生を阻害している可能性がある。リモセン利用

Miro Demol,et al. Multi-scale lidar measurements suggest miombo woodlands contain substantially more carbon than thought. Communications Earth & Environment, 2024; 5 (1) DOI: 10.1038/s43247-024-01448-x

2024/6/18 カリフォルニア大学リバーサイド校

大規模な山火事はより火災を助長する天候を生み出す:煙が太陽光を閉じ込め、日中をより暖かく乾燥させる

南西部アメリカ、特に北カリフォルニアでの山火事は、過去10年間で規模と深刻さが増大してきた。山火事の規模が大きくなるにつれ、対流圏への吸収性エアロゾルと熱の大規模な放出が関連するようになってきた。MODIS、CERES、AIRS衛星観測データ、MERRA-2再解析データを使用し、2003年から2022年の山火事シーズン(6月~10月)における北カリフォルニア・ネバダ地域の気象状況を明らかにした。この地域の山火事は、気温(T)の正の異常値と相対湿度(RH)の負の異常値が見られる日に発生する確率が高くなっている。これにより、山火事に併発するエアロゾルの放射効果を見極めるのが難しくなっている。大規模な山火事排出の気象変数(雲、降水など)への影響を明確にするため、山火事排出の多い日(90パーセンタイル)と少ない日(10パーセンタイル)の変数の異常値を比較した。さらに、地表相対湿度(RHs)が平年よりも高い(75パーセンタイル)か低い(25パーセンタイル)かで層別した。高排出・高地表相対湿度RHsの条件と低排出・高地表相対湿度RHsの条件を比較すると、大気エアロゾルの工学的厚さ(AOD)の異常値と同時に対流圏気温の正の異常値が見られた。短波吸収によりエアロゾルが大気を加熱していることが示唆され、相対湿度RH条件によっては0.041±0.016 ~ 0.093±0.019 K/dの速度で加熱していることが明らかになった。この気温の正の異常値は、地表相対湿度条件においても850-300 hPaの湿度(RH)の負の異常値と関連していた。また、高地表相対湿度条件下の高排出日には雲量(CF)に負の異常値が見られ、これは地域的な降水量の減少と上向き放射フラックスの正の異常値(温暖化効果)と関連していた。これらの気温、湿度、雲量の異常値は、AOD異常値と有意な空間的相関を示しており、MERRA-2のブラックカーボンの鉛直プロファイルとも一致していた。ただし、エアロゾルがこれらの異常値に関与しているかどうかの関係は不明確で、さらなる研究が必要である。リモセン利用

James L. Gomez, et al. California wildfire smoke contributes to a positive atmospheric temperature anomaly over the western United States. Atmospheric Chemistry and Physics, 2024; 24 (11): 6937 DOI: 10.5194/acp-24-6937-2024

024/6/13 アラスカ大学フェアバンクス校

ビートル被害のシラカバを発見し、森林と林野火災管理者を支援

アラスカ大学フェアバンクス校で開発された新しい機械学習システムは、衛星データから詳細な地図を自動的に生成し、アラスカのシラカバの被害が軽度から中程度の森林で、ビートル被害のシラカバの場所を特定できることを示した。この自動化処理は、林業と林野火災管理者の意思決定にも役立つ。これはビートル被害が広がっているため重要である。アラスカ林野局は、シラカバに寄生するクロマツノカミキリ虫を「アラスカの森林で最も被害の大きな害虫」と呼んでいる。この研究は、低~中度の被害地域におけるシラカバのビートル被害の自動マッピングを可能にしたものである。現在、アラスカの林業関係者は、航空機調査等による高解像度画像の時間のかかる目視判読や、粗い衛星画像の自動分析を使って、混交林内の枯死したシラカバを見つけている。粗い画像では、枯死した樹林を特定できるが、個々の枯死木を特定することはできない。本研究で開発した手法でも、樹木の死因を直接特定することはできない。ビートル被害の予測は、既に引き起こされた被害から推測されるだけであるが、本手法は自動化の効率性と高解像度衛星画像の詳細さをもっている。リモセン利用

S. Zwieback, et al. Low-severity spruce beetle infestation mapped from high-resolution satellite imagery with a convolutional network. ISPRS Journal of Photogrammetry and Remote Sensing, 2024; 212: 412 DOI: 10.1016/j.isprsjprs.2024.05.013

2024/5/31 ヨーテボリ大学

フィヨルドは酸素レベルに関係なく効果的に炭素をトラップ

フィヨルドは、有機炭素の埋没率が非常に高いため、純炭素吸収源となっている。フィヨルドは地球の気候の調節に重要であるにもかかわらず、有機炭素の埋没の要因は十分に明らかになっていない。本報告では、バルク元素分析とバイオマーカー分析を使用して、さまざまな酸素状態(長期の酸素、季節的な低酸素、長期の無酸素)でスウェーデンのフィヨルド堆積物に埋没した有機炭素を特徴付けた。これらのフィヨルドは、堆積物の蓄積率が高いため、有機炭素の供給源や水柱の酸素状態に関係なく、有機炭素を効果的に埋没させる。フィヨルドは、反応性有機炭素を保持する能力を備えた独特の沿岸システムであり、地球規模の変化の中でこれらの生態系を調査することの重要性は高い。

Emily G. Watts, et al. Bianchi. Burial of Organic Carbon in Swedish Fjord Sediments: Highlighting the Importance of Sediment Accumulation Rate in Relation to Fjord Redox Conditions. Journal of Geophysical Research: Biogeosciences, 2024; 129 (4) DOI: 10.1029/2023JG007978

2024/5/29 カリフォルニア大学リバーサイド校

大気質の改善により森林火災が増加:エアロゾル汚染と温室効果ガスを同時に削減する必要がある

気候変動が林野火災にどのように影響するかは大きな関心事である。本研究では、Community Earth System Model version 2を使って、将来の人為起源エアロゾルの軽減が、温室効果ガスの大幅な増加を伴うこれまでのシミュレーションよりも、北半球の亜寒帯林での林野火災の増加をもたらすことを示した。この強まる林野火災は、下向き短波放射の増加と地表面の蒸発散の増大に伴い夏季に土壌乾燥層が深まることに関連している。対照的に、二酸化炭素の増加に対する植物生理学的な反応と土壌氷の融解による土壌水の増加により、温室効果ガスの増加による土壌の乾燥は抑制される。モデルにおける火災プロセスには依然として多くの不確実性が残されているが、この結果は、亜寒帯林の森林火災が、温室効果ガスによる温暖化よりも、将来のエアロゾル緩和に対して、より敏感である可能性を示唆している。

Robert J. Allen, et al. Are Northern Hemisphere boreal forest fires more sensitive to future aerosol mitigation than to greenhouse gas–driven warming? Science Advances, 2024; 10 (13) DOI: 10.1126/sciadv.adl4007ko

2024/5/14 ユタ大学

ユタ州のモミの木を枯らす新種の昆虫

カサアブラムシ類(Adelges piceae; BWA) は、米国における森林侵入害虫で、モミ林で広範囲に枯死をもたらす。カサアブラムシ類BWAの影響の深刻さは気候に関連していることが示唆されており、季節的に気温が高い場所では森林劣化がより進行する。したがって、特に感受性の高い亜高山モミ(Abies lasiocarpa)林で、気候温暖化がカサアブラムシ類BWA による被害の拡大を促進する可能性がある。気候変動がカサアブラムシ類BWAの蔓延を促進する程度と、現在と将来の被害の深刻さの関係はほとんどわかっていなかった。現在および将来の亜高山モミ林に対するカサアブラムシ類BWAの気候変動による影響を理解するために、カサアブラムシ類BWAの蔓延の深刻度を局所的にスケールダウンした温度変数の関数として推定する空間的な予測モデルを構築し、現場で検証した。4つの季節的な温度変数のみを使用したモデルで、測定された重症度の分散の78%以上を説明できた。そのモデルを5つの異なる期間(2020年、2040年、2060年、2080年、2100年) の重症度の予測に適用した。2020年には調査地域の亜高山モミバイオマスの41%が カサアブラムシ類BWA によってある程度の被害にさらされている。中程度の気候予測(SSP245)のもとでも、2100年までに79%が暴露され、37%は比較的深刻度が高いと予測された。これの結果を「抵抗、受け入れ、直接土地管理」の対策枠組みに置くことで、米国西部におけるカサアブラムシ類BWA被害拡大の最先端にある亜高山モミ林への将来の被害を軽減するために、現在および将来の育林に情報を提供する空間的に明確な指針を提供した。

Michael J. Campbell, et al. Quantifying current and potential future impacts of balsam woolly adelgid infestation on forest biomass. Forest Ecology and Management, 2024; 560: 121852 DOI: 10.1016/j.foreco.2024.121852

2024/5/14 スタンフォード大学

山火事が土壌をどのように変化させるかを理解することが跡地の復興に役立つ

山火事は重要な生態系制御として働き、生息地の不均一性、種子の発芽、病気の制御を促進することで、火災に適応した生物群系に利益をもたらす。しかし、1970 年代以降、深刻火災の頻度と総焼失面積が増加し、土壌の有機組成と無機組成の両方が変化している。このレビューでは、山火事によって誘発された土壌有機物(SOM)と金属の分子スケールの変化と生物地球化学的相互作用を概説し、火災後の人間の健康と生態系の回復に対するそれらの影響を調べた。山火事は有機物の溶解度を高め、窒素を含む土壌有機物SOM分子の数を最大32%増加させる。さらに、山火事は土壌中の有毒な多環芳香族炭化水素(PAH)の濃度を2倍にし、酸化還元反応でAs(III)やCr(VI)などの有毒金属種の生成を誘発する。火災後の環境では、発熱性有機物は微生物分解を受けやすく、土壌ミネラルと相互作用して金属の酸化還元サイクルに影響を与える。さらに、カリキンや多環芳香族炭化水素PAHなどの火災後の生成物は、それぞれ植生の再生を促進および抑制し、生態系の回復に影響を与える。山火事の悪影響をより深く理解し、軽減するには、土壌と周囲の生態系の変化を監視する技術の向上が必要である。

Alandra Marie Lopez, et al. Molecular insights and impacts of wildfire-induced soil chemical changes. Nature Reviews Earth & Environment, 2024; DOI: 10.1038/s43017-024-00548-8

2024/5/9プリマス大学

気候変動対処のために植えられた若木の生存に飽和土壌が影響を与える

気候変動に対処するために、森林域の拡大をもたらす自然ベースの解決策を提供し、断片化されたアトランティックオーク林の保全と再生を行うことは、西ヨーロッパの高地の天然化と温帯雨林の保護の重要な特徴である。気候変動に伴って予測される降水量変化は、樹木侵入の主な決定要因である可能性が高いが、土壌水分がオークの定着に及ぼす影響の理解は、特に樹木が最も脆弱である生活史の初期段階では限られている。土壌の飽和状態が次のものに及ぼす影響を調査することで、この知識のギャップに対処した。1)泥炭土壌においてドングリからオーク苗木を育成する能力。2)高地の牧草地に植えられた若齢(1歳)苗木の生存と成長。室内実験では、4つの土壌飽和状態におけるドングリからのコナラの定着を定量化した。「浸水」土壌(水位がドングリより20mm上)では再生は完全に失敗し、「高」飽和(水位がドングリより81mm下)では「中」(生存率77%-水位がドングリ下155mm)および「低」(83% 生存-水位がドングリ下220mm)とした場合と比較して減少(生存率43%)した。高飽和土壌では、生き残った苗木は、根:シュート比の低下、葉の光合成、および季節の終わりのシュート成長の低下を示した。野外実験では、オークの若木(Q.robur、Q.petraea)を水はけの良い高地、季節的に浸水する土壌、および浸水する牧草地の土壌に植え、家畜が往来できるようにした。Q.roburは、近縁の Q.petraeaよりも土壌飽和に対する新芽の成長と葉の光合成反応が優れていた。この結果は、樹木に対する土壌の影響をより深く理解する必要があることを示した。気候変動下でのアトランティックオーク林の回復には、降水量と土壌条件の急速で不確実な変化に直面する苗木を選択するために、ヨーロッパのオーク種の両方を利用する必要がある。さらに、種や苗木の定着を制限する土壌要因、特にこれらの要因自体が気候変動によって影響を受ける場合、それらを理解することは、気候変動に対する植物群落の反応についての広範な理解と、その影響を軽減するための自然ベースの解決策樹立の両方にとって重要である。

Thomas R. Murphy, et al. Soil saturation limits early oak establishment in upland pastures for restoration of Atlantic oak woodlands. Forest Ecology and Management, 2024; 561: 121895 DOI: 10.1016/j.foreco.2024.121895

2024/5/2 アメリカ地球物理学連合

アフリカの湿潤林での山火事がここ数十年で倍増

西アフリカと中央アフリカの熱帯林では、歴史的に火災はまれであった。密集した植生、急速な分解、および高い湿気により、利用可能な可燃物が制限されているからである。しかし、暑さと干ばつの増加に森林の劣化と分断が加わり、この地域は山火事の影響を受けやすくなっている。2003年から2021年までのアフリカ熱帯林における中解像度分光放射画像で火災の活発な歴史的パターンを調べた。傾向は、特に北東部と南部のコンゴ盆地で増加傾向にあり、森林破壊が進んだ地域に集中してい。火災の年ごとの変動は、気温上昇および飽差増大と関連していた。2015年から2016年のエルニーニョ現象の間、この地域全体で異常に火災が発生した。これらの結果は、火災が減少している乾燥したアフリカの森林やサバンナとは対照的である。炭素動態に対する地球規模の影響と、生物多様性と人間の生活に対する地域的な影響を理解するには、アフリカの熱帯林火災にさらに注意を払う必要がある。

M. C. Wimberly, et al. Increasing Fire Activity in African Tropical Forests Is Associated With Deforestation and Climate Change. Geophysical Research Letters, 2024; 51 (9) DOI: 10.1029/2023GL106240

2024/5/2 オレゴン州立大学

人工知能が絶滅危惧種(カンムリウミスズメ)の監視を強化

個体数モニタリングは生物多様性の保全と管理に不可欠であるが、希少種や謎に満ちた種は検出確率が低いため、生息数と占有率の推定が困難である。機械学習アルゴリズムを組み合わせた受動的音響モニタリングは、森林地帯における希少な鳴き声種の発生を効果的かつ効率的にモニタリングする道具である。2018年から2021年にかけて米国太平洋岸北西部で森林に営巣する希少で絶滅の危機に瀕している鳥、マーブルカンムリウミスズメ (Brachyramphus marmoratus) の鳴き声を識別する畳み込みニューラルネットワーク(PNW-Cnet)を開発した。広範な受動的音響モニタリングデータからのPNW-Cnet予測を使用して、カンムリウミスズメの分布における時空間パターンを調べた。PNW-Cnetは、大規模な頭数モニタリングを可能にするのに十分な高い予測精度 (全体精度>0.9) を示した。時空間解析の結果、カンムリウミスズメの鳴き声量の年間ピークは通常第28~32週(7月下旬~8月中旬)に発生するが、これは調査地域によって異なった。最も多く検出されたのは、典型的には、古木が優勢で海洋生息地に近いオリンピック半島とオレゴン海岸山脈であった。頻繁に収集される典型的な検出/不検出データに加えて、受動的音響モニタリングを使用して、希少種や謎の種の広範な場所における検知可能性を明らかにした。PNW-Cnet と組み合わせた受動的音響モニタリングは、種分布モデリングと希少種の長期個体群モニタリングに大きな期待をもたらす。

Adam Duarte, et al. Passive acoustic monitoring and convolutional neural networks facilitate high-resolution and broadscale monitoring of a threatened species. Ecological Indicators, 2024; 162: 112016 DOI: 10.1016/j.ecolind.2024.112016

2024/4/29 ウィーン大学

気候に優しく森林再生する方法

樹木枯死の大発生により、ヨーロッパの森林生態系の大規模な再編が始まった。丈夫な次世代の樹木を育てるためには、今日植えられる樹種が21世紀の間、気候に適している必要がある。ヨーロッパの現在の森林管理の選択肢を調査するため、238,080区画のデータに基づいてヨーロッパの69樹種の分布モデルを開発した。今世紀を通じて継続的に適していた樹種の平均的プールは、現在および今世紀末の気候条件下よりも小さく、現在の管理にとって樹種のボトルネックを生み出していることを示した。現在植林されている樹木の寿命期間を通じて継続的に気候の適合性を維持する必要があることを考慮すると、気候変動により、管理可能な樹種プールが現在の33%~49%(今世紀末で潜在的な樹種の40%~54%) 縮小することがわかった。それぞれ中程度の気候変動 (代表濃度経路 2.6) および深刻な気候変動 (代表濃度経路 8.5) の下で。 このボトルネックは、木材生産、炭素貯蔵、生物多様性保全に強い悪影響を与える可能性がある。ヨーロッパでは、これらの機能を提供する可能性の高い潜在的な種が、1世紀を通じて平均して1平方キロメートルあたり3.18、3.53、2.56種しか残っていないからである。この結果は、気候変動のために造林樹種の選択肢が大幅に狭まっており、林業における重要な適応戦略である混合林の創出が、気候に適した樹種の広範囲にわたる損失によって縮小される可能性があることを示唆している。


Johannes Wessely, et al. A climate-induced tree species bottleneck for forest management in Europe. Nature Ecology & Evolution, 2024; DOI: 10.1038/s41559-024-02406-8

2024/4/26 カリフォルニア大学サンタクルーズ校

イタリア中部で女性と羊飼いが歴史的にどのように山火事の危険を軽減したか

地中海の林野の可燃性を軽減してきた歴史的な農牧畜の実践方式は、国の禁止政策や科学的関心の欠如により、ほとんど理解されていない。イタリアのモンテ・ピサーノにおける口述歴史、農学書の分析、防火管理者や地域住民の民族誌的研究により、現在の景観の中に伝統的な農牧業の遺産が残されていることがわかった。森林の落ち葉拾いは主に女性によって行われ、薪の伐採と燃料としての利用で林野火災の危険を大幅に軽減してきた。伝統的な野焼きに対して汚名が与えられてきたことと、男女別の農民労働が無視されてきたことにより、現代の科学者や火災管理者の生態学的プロセスや火災リスク軽減方法についての理解が低下している。地中海や農村部の過疎化の影響を受ける地域の防火管理者は、伝統的な農牧業と防火管理の実践をより深く理解することで恩恵を受けるであろう。ゴミ拾いは中央ヨーロッパ以外では十分に研究されておらず、性別に左右されることが多く、世界中で重要な生態学的影響を与える可能性がある。


Andrew S. Mathews, Fabio Malfatti. Wildfires as legacies of agropastoral abandonment: Gendered litter raking and managed burning as historic fire prevention practices in the Monte Pisano of Italy. Ambio, 2024; DOI: 10.1007/s13280-024-01993-x

2024/4/24 ドイツ統合生物多様性研究センター (iDiv)

気候変動は今世紀半ばまでに生物多様性減少の主な要因となるだろう

多くのモデルの相互比較に基づいて、過去の状況と、土地利用および気候変動の将来予測から生物多様性と生態系サービスの変動傾向を評価した。さまざまな指標から推定されるように、20 世紀に生物多様性は世界的に2~11%減少した。プロビジョニングでは生態系サービスは数倍増加し、規制は適度に減少した。今後、持続可能性にかかわる政策は、土地利用変化や供給サービスの需要に起因する生物多様性の損失を遅らせながら、規制されるサービスの減少を軽減または逆転させる可能性を秘めている。しかし、気候変動による生物多様性への悪影響は、特に排出量が多いシナリオでは増加する傾向にある。モデルで残された不確実性を明らかにしたが、生物多様性条約の目標達成には新たな政策努力が必要である。


Henrique M. Pereira, et al. Teppei J. Yasunari, et al. Global trends and scenarios for terrestrial biodiversity and ecosystem services from 1900 to 2050. Science, 2024; 384 (6694): 458 DOI: 10.1126/science.adn3441

2024/4/24 北海道大学

シベリアの山火事による広範な影響のモデル化

山火事は大気中にエアロゾルを放出し、気候や大気の質に影響を与える。シベリアは山火事の発生源地域であるが、シベリアの山火事による粒子状物質の気候と大気の質への影響、および現在および近い将来の温暖な大気条件下での死亡と経済への影響に関する包括的な知識は依然として乏しい。 そこで、気候学際研究モデルVer5 (MIROC5) を使用して、現在および近い将来の気候条件下でのシベリアの山火事からの排出量の変化の影響をシミュレートするモデル感度実験 (大気モデルおよび大気海洋連成モデル) を行った。シベリアの山火事の煙の増加は、北半球の広い地域で冷却効果を引き起こし、発生源付近や風下地域(つまり東アジア)の大気の質を悪化させる可能性がある。シベリアの山火事が発生すればするほど、その地域の大気汚染は進み、死亡率と福祉の損失が増加する可能性がある。しかし、現在および近い将来の気候条件下で、気温の変化が国内総生産に与える全体的な影響は不明瞭である。現在および近い将来の気候条件下でのシベリアの山火事による大気の質の変化に関する包括的な分析結果は、起こり得る死亡増加と経済的損失を防ぐためには、シベリアの山火事によるエアロゾル発生の影響を低減させる取り組みの強化が重要である。


Teppei J. Yasunari, et al. Comprehensive Impact of Changing Siberian Wildfire Severities on Air Quality, Climate, and Economy: MIROC5 Global Climate Model’s Sensitivity Assessments. Earth's Future, 2024; 12 (4) DOI: 10.1029/2023EF004129

2024/4/24 ダートマス大学

炭素を蓄積しているニューイングランド州の森林をハリケーンが危険にさらす

自然ベースの気候変動対策 (NCS) は、特に大量の炭素を蓄積・吸収できる森林地帯において、気候変動を緩和する主要なツールである。ニューイングランド州は、米国で最も森林が多い地域の1つ(陸地面積の75%以上が森林) であり、森林炭素は気候緩和対策の重要な要素である。特に気候変動によりハリケーンの強さと範囲が変化すると予測されているため、頻度は低いがハリケーンなどの大規模擾乱は、気候緩和を森林炭素に依存する政策にとって不確実性とリスクの大きな要因となる。これまで、森林炭素蓄積における撹乱の影響に関する研究のほとんどは火災に焦点を当ててきた。本研究では、この地域のひとつのハリケーンが121から250 MMTCO2e、または地上森林総炭素量の4.6%~9.4%を減少させる可能性があることを示した。これはニューイングランド州の森林によって年間に吸収される炭素(16 MMTCO2e/年)よりもはるかに大きい。しかも、ハリケーンからの排出は瞬間的なものではない。低下した炭素が正味排出量になるまでに約19年かかり、低下した炭素の90%が排出されるまでに100年かかる。HURRECONモデルとEXPOSモデルを使用して、過去の風速と予測される風速の範囲でハリケーンを考えると、ハリケーンの風速が8%および16%増加すると、地域(広範な樹木の枯死)で、重度の高い被害の範囲が10.7倍および24.8倍に増加することがわかった。また、風速の増加は、内陸と北の両方で、これまでハリケーンの影響が少なかった森林地域へ、被害地域の拡大をもたらす。1 回のハリケーンがニューイングランド州の森林に蓄積されている炭素の10+年分に相当する量を排出する可能性があることを考えると、これらの森林が継続性のある炭素吸収源としての地位を確保しているかどうかは不確かである。自然ベースの気候変動対策NCS として森林に依存する関係者にとって、撹乱による森林炭素貯蔵量へのリスクを理解することは必要である。


Shersingh Joseph Tumber‐Dávila, et al. Thompson. Hurricanes pose a substantial risk to New England forest carbon stocks. Global Change Biology, 2024; 30 (4) DOI: 10.1111/gcb.17259

2024/4/17 ルンド大学

気候変動が火災被災林に与える影響:温暖化する北方林において火災後の炭素吸収にもたらす植物多様性の影響

北方林における不完全な林野火災は、植物の生物多様性を制限する植物-土壌間のフィードバックを遺物として残す。このような制限は、気候変動下で温暖化によって促進される土壌の分解を相殺できる植生成長パターンへの生態系の移行を制限することであり、火災後の炭素の吸収を阻害する可能性がある。初期の植生回復の促進にかかわる要因を局地的規模から地域的規模で特定するため、北方フェノスカンディアのほぼ全気候帯にわたり、自然発生した山火事から2年後の植物再成長状況を49件現地調査した。広葉樹など、より温暖化に適したさまざまな植生の成長が制限されているものの、残存する有機土壌と植物の構造に関連して、最小限の針葉樹の回復が火災の深刻度の全範囲において見られた。 この二重の再生制限は、年間平均気温が上昇するなかで土壌中の細菌分解物質の濃度が高くなると同時に発生し、土壌の炭素放出を促進する可能性がある。 これらの結果は、現在、北方地域の大部分が、山火事や気候の変化によって生じる植物の生物多様性の制限により、大気中への炭素の正味排出量が火災後の期間を延長するリスクにさらされていることを示唆している。


Johan A. Eckdahl, et al. Restricted plant diversity limits carbon recapture after wildfire in warming boreal forests. Communications Earth & Environment, 2024; 5 (1) DOI: 10.1038/s43247-024-01333-7

2024/4/16 カリフォルニア大学アーバイン校

北極と北方の生態系の急速な変化: 米国北方森林生態系における山火事による光合成の増加

北方高緯度地域における大気二酸化炭素の年間サイクルは、北極のツンドラと北方森林生態系における代謝の増加を示す。このメカニズムにかかわる仮説の1つは、山火事などの撹乱が、植物群落構成の変化を通じて、正味の生態系交換の規模を拡大し、大きく変化する可能性があるというものである。しかし、この潜在的なメカニズムを地域規模で定量的に評価した研究はほとんどない。本研究では、北アメリカ西部北方域で火災による撹乱が景観レベルの光合成パターンに与える影響を調べた。アラスカとカナダの大規模火災データベースを使用して山火事の範囲を特定し、Landsat衛星による土地被覆の時系列情報を使用して植物の機能タイプ(PFT)を特徴付けるとともに、光合成の代用として軌道周回炭素観測衛星2(OCO-2)からの太陽誘起蛍光(SIF)を使用した。これらのデータセットを使用した時空間分析で植物の遷移と光合成活動の火災後の変化を明らかにした。そして、SIFにおける遷移中期の増加中の草本および、まばらな植生、低木、落葉広葉樹林のPFTの増加が、2年から59年間の6月から7月にかけて火災前の対照地と比較して8から40%増加することを明らかにした。また、個々の生態地域内の火災後の土地被覆変化のモデル分析から、火災がSIFの長期傾向に関与する2つのメカニズムを明らかにした。第一に、毎年の野焼きの増加により林齢分布が変化し、初夏から真夏にかなり高いSIFを持つ低木や落葉広葉樹林が増加する。第二に、火災は北方平原生態系における常緑針葉樹林から広葉樹落葉樹林への移行を長期的に促進する。これらの知見は、火災増加が長期的な炭素蓄積の増加と結びつくというよりも、季節的なCO2交換のプラスの傾向に大きくかかわる可能性があることを示唆している。


Jinhyuk E. Kim, et al. Wildfire‐induced increases in photosynthesis in boreal forest ecosystems of North America. Global Change Biology, 2024; 30 (1) DOI: 10.1111/gcb.17151

2024/4/15 チューリッヒ工科大学

果を食べる鳥がいないと熱帯林は自然回復できない:果食動物は断片化された景観における炭素回収の可能性を高める

森林回復は生物多様性の危機と気候変動を克服する基盤である。熱帯林では、動物が樹種の70%以上を分散させ、森林回復に貢献している。しかし、森林と炭素の回復に対する動物の貢献の定量的評価は不足しており、森林回復および気候変動政策において動物を代表させることは依然として困難である。本研究では、個体ベースモデルを使用して、断片化勾配に沿って、果を食べる動物を介した種子散乱を調べた。森林被覆率が40%未満の場所では大型の鳥の移動は制限されたが、小型の鳥は種子を散布し続けた。大型の鳥は、炭素貯蔵の可能性が高い後期後継種の種子を散布する。したがって、彼らの移動が制限されることにより、将来の森林の潜在的なバイオマスが38%減少するであろうことがわかった。そのため、森林面積を40%以上に維持することは、森林回復の成功において動物の貢献を最大限に高めるために不可欠である。また、炭素と生物多様性の目標を達成するには、より細分化された景観で積極的な修復(植樹など)が必要となる。


Carolina Bello, et al. Frugivores enhance potential carbon recovery in fragmented landscapes. Nature Climate Change, 2024; DOI: 10.1038/s41558-024-01989-1

2024/4/8 ヨーク大学

北方森林とツンドラ地域は今後500年間の気候変動で最悪の打撃を受ける

ほとんどの排出シナリオは、気温と降水量の状況が今後 500 年間に世界中で劇的に変化することを示唆している。これらの変化は生物圏に大きな影響を及ぼし、種は自らの好む環境条件に従って移動を余儀なくされ、その結果生態系が移動し断片化することが予測される。しかし、気候変動のほとんどの予測は2100年までにとどまっており、気候への影響の時間的理解が制限され、適切な適応策が妨げられる可能性がある。このデータ欠如に対処するため、大循環モデルを使用して、さまざまなCO2排出シナリオの下で、西暦2000年から2500年までの気候変動をモデルで20年ごとに求めた。次に、これらの気候将来予測に生物群系モデルを適用し、世界中の植生に対する気候の変化、植生変化の実現に必要な移動の実現可能性、人間の土地利用との潜在的な重複性を調べた。通常のシナリオでは、2500 年までに陸域面積の最大40%が別の生物群系に適すると予想された。寒冷に適応した生物群系、特に北方林と乾燥したツンドラでは、適地面積が最も大きく失われると予測された。温暖化緩和策がなければ、これらの変化は地球規模の生物多様性と生態系サービスの両方に深刻な影響を与える可能性があろう。


Bethany J. Allen, et al. Projected future climatic forcing on the global distribution of vegetation types. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences, 2024; 379 (1902) DOI: 10.1098/rstb.2023.0011

2024/4/2 カンザス大学

AIの執筆やイラストによる二酸化炭素排出量は人間の数百分の1

AIシステムの普及に伴い、AIシステムからの温室効果ガス排出は人間社会にとってますます重要な懸念事項となっている。そこで、AIシステム (ChatGPT、BLOOM、DALL-E2、Midjourney) と、同等の執筆およびイラストを行う個人の二酸化炭素排出量の比較分析を行った。テキスト1ページあたりの二酸化炭素排出量では、AIシステムは人間のライターと比較して130~1500分の1であり、イラスト画像あたりの二酸化炭素排出量では、310~2900分の1であることを明らかにした。この排出量分析では、仕事に関わる追放、合法性、反発などの社会的影響は考慮していない。AIは人間のすべての仕事を代替するものではないが、現時点で、AIの使用は人間よりもはるかに低い二酸化炭素排出量レベルでいくつかの主要な活動を実行できる可能性がある。


Bill Tomlinson, et al. The carbon emissions of writing and illustrating are lower for AI than for humans. Scientific Reports, 2024; 14 (1) DOI: 10.1038/s41598-024-54271-x

2024/4/2 バルセロナ大学

古木は絶滅危惧種の保護に役立っている

成熟林と極めて古い木々は、ヨーロッパの人里離れた高山地域では希少であり、絶滅の危機に瀕している。成熟した森林の生物多様性において極めて長寿の樹木が果たす役割を、長寿の根底にある特性との関連で分析した。樹木の大きさと樹齢は、長命な樹木の相対的な成長率、生育しない発芽、水分などを決定する。古木は樹齢に関連したこのような制約に苦しむが、適応性、自律性、回復力のある代謝によって特徴づけられる特異な進化的特徴を備えており、レサリア・バルピナのような脆弱な地衣類の寄生場所として、生態系の中で生物多様性にかかわるかけがえのない役割を果たす。ユニークな生物多様性の貯蔵庫としての古木の役割は、長寿に関連する特異な生理学的特性と関連している。何世紀、あるいは何千年にもわたる長寿によってのみ提供できる進化的に可塑的な状況は、成熟した森林の古木が、生態系の動態に必要な生態学的関係を進化させるかけがえのない役割を担っていることを示唆している。


Ot Pasques, Sergi Munné-Bosch. Ancient trees are essential elements for high-mountain forest conservation: Linking the longevity of trees to their ecological function. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2024; 121 (7) DOI: 10.1073/pnas.2317866121

2024/3/28 デューク大学

土壌炭素蓄積におけるマンガンの驚くべき役割

北方林の腐植層にある膨大な炭素蓄積量は、地球規模の炭素循環において重要な役割を果たす。しかし、この地域の地下炭素蓄積を制御する要因は依然として不確実である。特に、2つの独立した、補完的な方法から得られた証拠に基づいて、交換性マンガンが地域規模と北方緯度範囲全体の両方で北方森林における炭素蓄積を制御する重要な要因であることが明らかになった。さらに、新しい施肥実験では、マンガンの添加により土壌炭素蓄積量が減少したが、それは添加後4年間のみであった。この研究によって、北方林の腐植炭素蓄積に影響を与える過小評価されているメカニズムが明らかになった


Yunyu Zhang, et al. Exchangeable manganese regulates carbon storage in the humus layer of the boreal forest. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2024; 121 (13) DOI: 10.1073/pnas.2318382121

2024/3/26 カーティン大学

気候変動によりオーストラリアの土壌はCO2を排出し温暖化をさらに促進させる

温暖な気候における土壌有機炭素 (C) 蓄積の変化と、その蓄積に対する現在の土地管理の影響を理解することは、土壌と環境の保全および気候政策にとって重要である。シミュレーションにより、2010年から2100年までのオーストラリアの土壌有機炭素蓄積量の変化を予測した。この間の炭素量損失は温室効果ガスの排出量増加と気温上昇により、2020年から2045年の間の 0.014~0.077 tC/ha/year から 2070年から2100年の間の 0.013~0.047 tC/ha/year まで変化する。いずれの場合も、オーストラリアの土壌は正味のCO2排出源となる。農地では、将来の社会経済状況に応じて2020年から2045年の間は、0.19 tC/ha/years と予測されるが、2070年から2100年の間の発生量は、温暖化と温室効果ガス排出量の増加により、減少すると予想される。増加量は、温暖な気候の影響を受けやすい放牧地や沿岸地域のより広い地域からの炭素損失を相殺するには小さすぎる。原則として、放牧地の慎重な管理、例えば放牧管理の改善や生物多様性に富んだ固有の在来植物群落の再生により、より多くの炭素を吸収し、損失を軽減できる可能性がある。現実的にはそれはより困難であり、技術革新、学際的科学、文化的認識、効果的政策などが必要となる。。


R. A. Viscarra Rossel, et al. A warming climate will make Australian soil a net emitter of atmospheric CO2. npj Climate and Atmospheric Science, 2024; 7 (1) DOI: 10.1038/s41612-024-00619-z

2024/3/26 クラーク大学

アルベドを考慮した植樹を可能にする地図

樹木被覆を進めると、地表から反射される太陽光の割合であるアルベドが変化する。このようなアルベドの変化は炭素吸収の利点を相殺し、さらには打ち消して、温暖化をもたらすことがある。樹木被覆の回復による地球規模の気候緩和効果を定量化するこれまでの取り組みでは、利用可能なデータが不足していたため、アルベドを確実には説明できていない。本報告では、炭素のみでは推定値が最大81%も高すぎる可能性があることを示した。乾燥地と北方地域では特に深刻なアルベドオフセットがあるが、すべての生物群系で正味プラスの気候緩和効果を提供する場所を見つけることは可能である。地上のプロジェクトはより気候に有利な場所に集中しているものの、大部分は少なくとも20%のアルベドオフセットを考慮する必要がある。したがって、樹木回復を戦略的に展開し、温暖化対応で利点を最大限に高めるためには、アルベドの変化を考慮する必要がある。そのためのツールを提供した。


Natalia Hasler, et al. Accounting for albedo change to identify climate-positive tree cover restoration. Nature Communications, 2024; 15 (1) DOI: 10.1038/s41467-024-46577-1

2024/3/25 モンタナ大学

消火活動による予期せぬ結果

消火は、世界中の多くの地域で山火事への主要な対応策である。それほど極端ではない山火事を消すこの行為は、残りの山火事をより極端な条件下で発生するようにすることになる。これを「抑制バイアス」と呼び、シミュレーションモデルを使用して、このバイアスが可燃物の蓄積や気候変動とは関係なく、山火事にどのように根本的な影響を与えるかを示した。すべての山火事を抑えようとすると必然的に、より深刻で多様性を少なくする影響を生態系に与える火災が発生し、可燃物の蓄積や気候変動から予想されるよりも速い速度で燃焼面積が拡大する。人間の生涯以上の期間でモデル化した抑制バイアスの影響は、可燃物の蓄積や気候変動のみによる影響を上回っており、抑制が世界規模の火災で過小評価され、重大な影響を及ぼしている可能性がある。したがって、低中程度の条件下で安全に燃やす山火事とすることは、増大する大規模山火事の危機に対処するための重要なツールとなる


Mark R. Kreider, et al. Fire suppression makes wildfires more severe and accentuates impacts of climate change and fuel accumulation. Nature Communications, 2024; 15 (1) DOI: 10.1038/s41467-024-46702-0

2024/3/21 ペンシルベニア州立大学

森林や小川の生態系はエネルギー交換のバランスを保っている

エネルギーと栄養の成分の相互的な流れによって結合された生態系は、単一の「メタ生態系」とみなすことができる。これらの関係にもかかわらず、成分の相互の流れは非常に非対称的であり、季節的に変動している。本報告では、河川と河岸のメタ生態系に関する既存の文献から、「異地性:アロックソニー」として知られる生物による成分消費の世界的なパターンを定量化した。これらの資源の流れは消費者の食生活の大部分を占める可能性があるため重要であるが、河川や河畔地帯の人為的改変によって破壊される可能性がある。成分の流れが非対称であるにもかかわらず、河川と河畔の消費者のアロックソニーは同等であることがわかった。魚類と川の無脊椎動物はどちらも季節的に変動するアロックソニー資源に依存しているが、アロックソニーが季節的に変化するのは魚だけであり、冬と春よりも夏と秋の方が3倍近く大きい。また、消費者のアロックソニーは、水生無脊椎動物、魚類、陸生節足動物では摂食特性によって異なるが、陸生脊椎動物ではそうではないこともわかった。水生無脊椎動物のアロックソニーは気候によって異なり、乾燥気候では熱帯気候よりも2倍近く大きいが、魚類ではそうではない。生態系のつながりがますます分断されているため、これらの発見は地球規模の環境変化の影響を理解する上で重要である


Daniel C. Allen, et al. Global patterns of allochthony in stream–riparian meta‐ecosystems. Ecology Letters, 2024; 27 (3) DOI: 10.1111/ele.14401

2024/3/13 ニューハンプシャー大学

水域の炭素排出量を追跡する方法

河川は、大気への二酸化炭素(CO2)供給源として、地球規模の炭素循環において重要な役割を果たしている。水域環境の高頻度モニタリング技術の発展により、動的な生態系からの炭素変動と排出の研究に不可欠な時間分解能で溶存CO2濃度度を測定できるようになっている。ここでは、様々な生態系向けのオープンソースで比較的低コストの現場用pCO2センサー、lotic-SIPCO2、の適用、活用、検証について紹介する。さまざまな土地被覆と流域サイズである10の河川域で lotic-SIPCO2をテストした。湿潤環境での適応試験には、生物付着の防止、可変ステージ高、ヘッドスペース平衡時間の短縮などが含まれる。どの入力パラメータがCO2排出率推定における不確実性に最も関与するかを調べたところ、CO2濃度が飽和を大幅に上回る場合、ガス交換速度に関連するスケーリング係数が最も影響があることがわかった。飽和近くでは、pCO2センサーの測定がCO2排出量の推定における不確実性に最も大きく影響した。また、河川のCO2状況を考慮すると、排出率の中央値を正確に推定するにはpCO2の高頻度測定は必要ではなく、頻度は毎週のサンプリングで十分であることがわかった。pCO2 の高周波測定は、川内の代謝変動、発生源の分割、暴風雨のダイナミクスを調査するのに有効である。SIPCO2は、土壌生態系における溶存CO2監視に比較的手頃な価格で堅牢な手段を提供するものである。これらの調査結果は、より広範な溶存CO2およびCO2排出のモニタリングの設計における優先順位も示した。


Andrew L. Robison, et al. Lotic‐SIPCO2: Adaptation of an open‐source CO2 sensor system and examination of associated emission uncertainties across a range of stream sizes and land uses. Limnology and Oceanography: Methods, 2024; DOI: 10.1002/lom3.10600

2024/3/13 タフツ大学

土壌から予想よりも多くの炭素が放出される可能性があり気候変動モデルに影響を与える

大気中への二酸化炭素(CO2)排出量の継続的な増加は、人為的気候変動の主な要因である。大気中の二酸化炭素濃度増加の主な人為的発生源は化石燃料の燃焼だが、地球上の二酸化炭素排出の最大の発生源は土壌で、土壌には地球上の総炭素量の80%が蓄えられている。土壌炭素の約62%は有機態で、二酸化炭素として容易に放出されるが、残りは無機炭素 (土壌無機炭素 (SIC)) である。温暖化気候における干ばつ、土壌の乾燥による亀裂、二酸化炭素排出の間に増幅的なフィードバックループがあると仮定した。これは既存の文献では見落とされてきた重要な側面である。さらに、仮定したフィードバックループは土壌からのメタン(CH4)や亜酸化窒素(N2O)などの他のGHGの排出に影響を与える。この悪化するフィードバックループを認識し、特徴づける大きな必要性は2点ある。まず、干ばつは土壌有機炭素(SOC)の酸化を促進し、大気中への二酸化炭素排出量を増加させる。干ばつによる土壌水分不足は、植物のプロセスに異なる影響を与える。植物では光合成速度が低下し、炭素摂取量が減少し、呼吸速度を変化させる。干ばつは光合成の低下にもかかわらず、呼吸量を増加させ、土壌からの炭素排出量の増加につながる可能性がある。これらの影響は生態系タイプによって異なるが、干ばつ、光合成、呼吸の間の複雑な相互作用を明らかにする必要がある。第二に、干ばつは土壌に乾燥による亀裂を引き起こし、土壌の浸透性と大気と土壌の間の界面交換領域を大幅に増加させる。より深い古い土壌に多くの炭素が蓄積されており、土壌中の二酸化炭素放出が大幅に増加する可能性がある。乾燥による亀裂は、土のインフラと自然環境を脅かす。人為的気候変動が干ばつ、熱波、さらに干ばつがもたらす降水サイクルの深刻さと頻度の悪化をもたらすにつれて、乾燥による土壌の亀裂にかかわる問題はさら大きくなる。温暖化傾向が続くと、より多くの(おそらく古い)二酸化炭素が土壌から放出され、地球温暖化をさらに悪化させる可能性がある。仮説としたフィードバックループを考慮しないと、土壌からのGHG排出量をモデル化および予測する際に、大きな不正確さが生じる可能性がある。また、土壌の健康、作物生産、土の構造的完全性などの重要な事項に対する気候変動の影響を過小評価することにもつながる。


Farshid Vahedifard, et al. Amplifying feedback loop between drought, soil desiccation cracking, and greenhouse gas emissions. Environmental Research Letters, 2024; 19 (3): 031005 DOI: 10.1088/1748-9326/ad2c23

2024/3/12 ロンドン大学

ジャイアントセコイアが英国で急速に成長

ジャイアントセコイア(Sequoiadendron giganteum)は、19世紀半ばに導入されたばかりであるが、英国最大の樹木のひとつとなっている。英国には推定50万本のジャイアントセコイアと、近縁種の沿岸セコイア(セコイア・センペルビレンス)が存在する。最近、より多くの樹木を植林することに関心が集まっており、その炭素蓄積の可能性と大衆的魅力もあり、その成長力を理解することが重要となっている。しかし、英国でのそれらの成長量と炭素蓄積量についてはほとんど知られていない。そこで、地上の3次元レーザーを使用して、条件の異なる3つのサイトで97個体の詳細な構造測定を行い、地上部バイオマス (AGB) と年間バイオマス蓄積量を推定した。そして、観測されたAGBに r2>0.93、バイアス<2% で適合するジャイアントセコイアの英国固有のアロメトリックモデルを開発し、英国のジャイアントセコイア が、気候、管理、樹齢によって異なるが、年間85kgの炭素を蓄積できることを示した。これらは、一般的にジャイアントセコイアのバイオマス推定に使用可能である。本研究は、英国の土地で育成されたジャイアントセコイアの成長と炭素蓄積の最初の推定値であり、長期的な炭素蓄積量を推定するベースラインを提供した。


Ross Holland, et al. Giant sequoia ( Sequoiadendron giganteum ) in the UK: carbon storage potential and growth rates. Royal Society Open Science, 2024; 11 (3) DOI: 10.1098/rsos.230603

2024/3/12 エクスター大学

伐採後30年に熱帯雨林の次世代の木が脅かされる

造林処理(植林の強化、つる植物の伐採、間伐)による積極的な森林修復は、伐採された森林への重要な介入である。再生を促進するその能力は、伐採林の長期的な回復にとって鍵であるが、次の世代の苗木の生産と生存に関しては、十分に理解されていない。伐採と修復の長期的な影響を理解するために、北ボルネオの未伐採林と伐採後30~35年後の伐採林で木の実の結実直後に発芽した苗木の多様性、生存、特性を追跡した。 未伐採林(UL)、自然に再生する伐採林(NR)、および修復造林処理による積極的な伐採林 (AR)の回復後15~27 年が混在する地域で、発芽から5,119本の苗木を約1.5 年間モニタリングした。15種の399本の苗木について、14項目の葉、根、およびバイオマス配分形質を測定した。 結実後すぐに、ULおよびAR森林はNR森林よりも苗密度が高かったが、最初の6 か月間の生存率はAR森林で最も低かった。群落の構成は森林の種類によって異なった。 AR および NR 森林は、木の実結実後 5 ~ 6 か月の時点で UL 森林よりも種の豊富さと均一性が低くなったが、それらの間での差はなかった。群落構成の違いにより、全森林タイプで群落加重平均形質値が変化し、UL 森林と比較して NR の根バイオマス配分が高くなった。形質は 木の実結実後~3 か月後の枯死率に影響を与え、獲得形質と相対的に地上へのより大きな投資はUL森林と比較してAR森林で好まれた。 実生の生存率と多様性が減少しているという調査結果は、特にいくつかの分類群において、伐採後の侵入に長い時間遅れがあることを示唆している。伐採された森林を積極的に修復すると、初期の苗木生産量は回復するが、AR 森林の死亡率が上昇すると、苗木の採用や多様性を高めるための積極的な修復の有効性が低下する。これは、現在の積極的な修復手法では伐採された森林の再生に対する障壁を克服できない可能性があり、将来の森林植物群落に長期的な変化を引き起こす可能性があることを示唆している。


David C. Bartholomew, et al. Bornean tropical forests recovering from logging at risk of regeneration failure. Global Change Biology, 2024; 30 (3) DOI: 10.1111/gcb.17209

2024/3/4 イェール大学

ブナの病気の内部の様子

ブナ葉病 (BLD) は、線虫Litylenchus crenatae mccanniiと因果関係があるアメリカブナ (Fagus grandifolia L.)の葉面病で、北アメリカ中央部および北東部全域に急速に蔓延している。本研究は、無症候の葉と症候した葉の間の解剖学的および生理学的違いを特徴づけ、ブナ葉病BLDによる異常な葉の発育と影響を受けた樹木の長期的な衰退との間のメカニズムを明らかにした。症状があると、面積当たりの葉の質量 (LMA) と葉の厚さがそれぞれ45%と249%高くなる。葉の厚さの違いは、症状のある葉は無症状の葉と比較して海綿状葉肉が410%厚いことに主に起因していたが、柵状葉肉と背軸表皮組織も症状のある場合はさらに厚かった。主葉脈の密度には大きな違いはなかったが、副葉脈の密度は症状のある葉では著しく低く、葉の発達に対する影響は一次および二次葉脈の形成と発達初期に発生することが示唆された。気孔密度も症状のある葉では低かった。症状のある葉では最大光合成速度が約61%低下し、影響を受けた葉組織の割合が増加するにつれて呼吸速度が増加した。まとめると、これらのデータは、光合成能力の低下、呼吸数の増加、葉の構築コストの上昇を示しており、ブナ葉病の影響を受けた樹木の炭素バランスに長期的な悪影響を与える可能性がある。


Leila R. Fletcher, et al. Anatomical and physiological consequences of beech leaf disease in Fagus grandifolia L.. Forest Pathology, 2023; 54 (1) DOI: 10.1111/efp.12842

2024/3/2 ハワイ大学マノア校

強力なサイクロンの影響で太平洋島の森林が目覚ましい回復

森林がサイクロンにどのように反応し、回復するかを評価することは、森林の動態を理解し、気候変動の影響に対処するために重要である。予測される深刻なサイクロンの強度と頻度の増加は、森林と森林に依存するコミュニティの両方を脅かす可能性がある。太平洋諸島は低強度のサイクロンに頻繁に見舞われるが、高強度のサイクロンの影響や、森林管理の実践がどのような影響を与えるかについての情報はほとんどない。そこで、バヌアツのタンナ島にあるコミュニティが管理する3か所の森林で、世界に上陸した最も強力なサイクロンの 1つである2015年のカテゴリー5 サイクロン・パムの風関連の影響に対する森林の耐性と回復力を調べた。サイクロン前後に確立されたトランセクトデータを利用して、(1) 風速と樹木の構造的特徴で生存と被害の程度を予測できるか、またこれがサイト間で異なるかどうかを調べた。(2)サイクロン後の林冠、地被、苗木、苗木の再生と、群落の構成が時間の経過と場所全体でどのように変化するかを調べた。直撃を受けた場所では、88%の樹木が落葉し、34%が深刻な被害を受け、即時枯死率は13%であった。初期枯死率は、深刻な被害ではなく、間接的な打撃を受け、風速が弱かった地域では低かった。大きな木と軽い木は、それぞれ根こそぎに倒れる確率と折れる確率が高くなった。樹冠と地被は3年以内に再生され、苗木と苗木の再生は開拓者から成熟した森林種に至るまで、生活史全体にわたって広く行われた。タンナの歴史的なサイクロンの頻度と、種の多様性と再生経路の多様性を積極的に維持する慣習的な管理慣行が、この島の強烈な熱帯低気圧に対する耐性と回復力の原因となっている可能性がある


Tamara Ticktin, et al. High resilience of Pacific Island forests to a category- 5 cyclone. Science of The Total Environment, 2024; 922: 170973 DOI: 10.1016/j.scitotenv.2024.170973

2024/2/28 オクラホマ大学

気候温暖化による土壌プライミング(難分解性有機物質の分解)の加速

生物圏のフィードバックメカニズムを解明することは、地球温暖化の影響を予測するために重要である。土壌プライミングは、自然土壌の有機炭素 (SOC) 分解に対する新鮮な植物由来の炭素の影響であり、大量の土壌炭素を大気中に放出する可能性がある重要なフィードバックメカニズムである。しかし、気候温暖化が土壌プライミングに及ぼす影響は依然として解明されていない。本研究では、実験的な温暖化により、温帯草原における土壌プライミングが12.7%加速されることを示した。温暖化により細菌群集が変化し、温暖化下では固有の活性型の38%が検出された。土壌炭素の分解に必須の機能性遺伝子も刺激され、プライミング効果に関連している可能性がある。実験で得られた情報を生態系モデルに組み込み、モデルのパラメーターの不確実性が32~37%削減できることを示した。2010年から2016年までのシミュレーションでは、温暖化による土壌炭素分解の増加と、プライミングにともなうCO2排出量の9.1%増加が示された。これらの発見が他の生態系でも長期にあてはまるならば、土壌プライミングは陸域の炭素サイクルと気候変動に重要な役割を果たす可能性がある。。


Xuanyu Tao, et al. Experimental warming accelerates positive soil priming in a temperate grassland ecosystem. Nature Communications, 2024; 15 (1) DOI: 10.1038/s41467-024-45277-0

2024/2/28 PLOS

アフリカの類人猿生息地が気候変動の影響にさらされる

特定の動物群や地域の気候変動に対する脆弱性、特に極端な気候にかかわる理解は、依然として極めて不足している。本報告では、アフリカの生物多様性にとって代表的かつ非常に重要な種である類人猿を対象とした。RCPシナリオ2.6と6.0で、363のサイトにおける 

過去(1981~2010年) および将来の気候変動の影響への曝露を短期(2021~2050年)および長期(2071~2099年) について推定した。データは、完全に調和された気候データ(fully harmonized climate data)と、部門間影響モデル相互比較プロジェクト(ISIMIP: Inter-Sectoral Impact Model Intercomparison Project) からの極端気候に関するデータを使用した。過去10年間のうち少なくとも9年間、171のサイトでプラスの気温異常があり、最も強い異常(最大0.56℃)は東部のチンパンジー域であった。予測では、気温はすべてのサイトで上昇する一方、降水量はより不均一に変化することが示された。将来 、288サイトで大雨が増加し、連続乾燥日数が年間最大20日増加すると推定された (最大の増加はヒガシゴリラ域)。将来的にはすべてのサイトが頻繁に山火事や不作にさらされるが、後者は森林伐採の増加を通じて間接的に類人猿に影響を与える可能性が高い。84%のサイトが熱波にさらされ、78%のサイトが河川の洪水にさらされると予測された。熱帯低気圧と干ばつは、アフリカ西部と中央部でのみ予測された。気候変動が類人猿に与える影響は、たとえば、熱ストレスや脱水症状、水源や果樹の減少、生理学的能力・生殖能力・生存能力の低下などである。


Razak Kiribou, et al. Exposure of African ape sites to climate change impacts. PLOS Climate, 2024; 3 (2): e0000345 DOI: 10.1371/journal.pclm.0000345

2024/2/28 カリフォルニア大学アーバイン校

山火事後の干ばつが外来種を増加させている

人為的な気候変動により、干ばつ、山火事、外来種の侵入の頻度が増加した。干ばつに起因する深刻な林野火災は、生態系における在来植生の回復を阻害する可能性があるが、火災後の他の植生の回復に干ばつがどのような影響を与えるかは依然として明らかでない。既存の降雨実験を利用して、降水量、可燃物負荷、火災の激しさの減少により、南カリフォルニア沿岸のセージ林の植生が在来の低木林から外来の草地に変化するという仮説を検証した。3つの降雨を施した区画で、2020年のシルバラード火災の前後で植生の構成を調べた。干ばつにより可燃物負荷と植生が減少し、火災の深刻さが軽減された。在来の低木林は、水を減らした区画と比較して、水を加えた区画の方が火災前の被覆が多かった。火災後の添加水プロットおよび周囲水プロットと比較して、火災後の削減水プロットでは植生被覆率が低く、侵入植生の被覆率が高かった。これらの結果は、生態系スケールでの火災の激しさと植生の構成に対する可燃物負荷の重要性を示している。管理では、干ばつに直面している海岸セージ林の回復力を維持するために、火災の頻度を減らし、外来種を除去することに重点を置く必要がある。これらの植生地では、火入れは、侵入植物を促進するため推奨できない。


Sarah Kimball,et al. Long‐term drought promotes invasive species by reducing wildfire severity. Ecology, 2024; DOI: 10.1002/ecy.4265

2024/2/26 Taylor & Francis

世界の森林炭素: 政策、経済、金融

この本は、世界の森林炭素に関して直面する主要な政策、経済、財政の問題を取り上げている。世界の森林セクターは、パリ協定の気温目標を達成する上で重要な役割を果たすことが期待されている。したがって、広く知られているREDD+イニシアチブを含む森林セクターの行動に国際社会が取り組む中で、炭素収支と政策評価が直面する課題に対する実用的かつ有望な解決策を早急に模索する必要がある。この本は、適切な視点を特定し、統合的かつ効果的な方法でこれらの課題に対処するためのアプローチを策定することがいかに重要であるかを示している。そうすることで、さまざまな森林生態系内での炭素蓄積やさまざまな伐採木材製品内での蓄積の可能性の違い、木材と炭素の共同生産、炭素の測定と影響など、主要な問題の多くに対処している。また、世界中の地域レベルおよび国レベルの事例研究を検討し、森林政策および森林部門に携わった著者の数十年にわたる経験に基づいている。全体として、本書は森林部門の炭素排出と除去に関する技術的および政策的問題に焦点を当て、将来これらの問題にうまく対処するための有用な視点、枠組み、および方法を提示している。


Global Forest Carbon: Policy, Economics and Finance, Runsheng Yin (Routledge, 2024) ISBN: Paperback: 9781032565361| eBook 9781003436652

2024/2/22 IOP出版

人口によりマングローブ林の炭素貯蔵量が最大37%低下する

マングローブ林の土壌は炭素蓄積などの多くの重要な生態系サービスを提供するが、人為的活動がもたらす悪影響に対して脆弱である。ここ数十年、マングローブ林が水産養殖、農業、都市開発に転換され、ブルーカーボンが徐々に失われている。本研究では、世界の炭素収支におけるマングローブ林の役割を定量化するために、都市周辺のマングローブ林における人口密度と土壌炭素蓄積量との関係を調べた。そのために、マングローブ土壌炭素データを収集するとともに、欧州委員会のデータベースを利用して各サイトの人口密度を計算するグローバル分析を行った。結果は、人口密度とマングローブ土壌の炭素貯蔵量の間に負の相関があることが明らかとなった。人口密度が300人km-2 (欧州委員会のデータベースでは「都市領域」と定義されている) に達すると、マングローブの土壌炭素は孤立したマングローブ林よりも37%低くなると推定された。それにもかかわらず、モデルで気候要因を考慮すると、人口密度と土壌炭素の間の負の関係は縮小し、混合効果モデルでは有意でさえないことがわかった。これは、人口密度がマングローブ生態系に対する人間の直接的な影響を測るのに適切な尺度ではないことを示唆しており、さらに、非常に高い人口密度に近接したマングローブ生態系が依然として貴重な炭素貯蔵量を保有している可能性があることを示唆している。


Shih-Chieh Chien, et al. Human population density and blue carbon stocks in mangroves soils. Environmental Research Letters, 2024; 19 (3): 034017 DOI: 10.1088/1748-9326/ad13b6

2024/2/22 ノートルダム大学

ロシアは気候変動から恩恵を受ける立場にあるか?

クレムリンの誰が統治しているかに関係なく、気候変動はロシアの将来を形成するだろうし、その逆もまた然りである。世界最大の国は、地球全体の平均よりも早く温暖化が進んでおり、北極海の海岸線の半分以上を占め、国際社会や温室効果ガス排出削減の取り組みからますます孤立する一方で、二酸化炭素を大量に消費する戦争を繰り広げている。公式には、炭化水素の主要輸出国として、ロシアは化石燃料への世界的な依存を維持することと気候変動自体から恩恵を受けている。なぜなら温暖化によって耕作可能な土地の範囲と質が向上し、新たな通年北極航路が開かれる可能性があり、航路を改善し、厳しい気候をより住みやすいものにできるからである。ロシアに焦点を当てた社会科学者の大規模なグループの総合的な専門知識と包括的な文献レビューを利用して、この物語に挑戦した。その結果、ロシアは気候変動によるさまざまな影響を受けているが、これらの影響に適応する準備が十分に整っていないことがわかった。文献レビューでは、ロシアの炭化水素に依存した経済、中央集権的な政治システム、気候変動の影響を受ける人々の運命が絡み合っており、地球が温暖化し、それに応じて国際経済が脱炭素化する中で、この変化する相互関係についての研究が必要であることを示した。


Debra Javeline, et al. Russia in a changing climate. WIREs Climate Change, 2023; DOI: 10.1002/wcc.872

2024/2/22 シェフィールド大学

大規模植林の副作用で炭素除去効果が最大3分の1減少する可能性

二酸化炭素 (CO2) 除去のために植林が広く提案されているが、大気組成や地表アルベドの変化による気候への影響は比較的解明されていない。2 つの地球システムモデルを使用して、適切な地域での地球規模の森林拡大を伴うシナリオを他の考えられる将来と比較することにより、これらの反応を評価した。そして、植林によって生物起源の有機物排出が増加し、エアロゾル散乱と温室効果ガスのメタンとオゾンの増加を明らかにした。さらに、植林により地表アルベドが減少し、正の放射力(つまり、温暖化)が生じる。これにより、4℃の温暖化シナリオ下での追加の CO2除去による負の強制力の最大3分の1が相殺される。しかし、パリ協定の2℃目標を達成する他の戦略と並行して植林が推進された場合、それを相殺する力は小さくなり、同時排出削減の重要性が明確になった。


James Weber, et al. Chemistry-albedo feedbacks offset up to a third of forestation’s CO 2 removal benefits. Science, 2024; 383 (6685): 860 DOI: 10.1126/science.adg6196

2024/2/22 オレゴン州立大学

太平洋岸北西部の湿潤林地域はさらに火災発生の可能性が高まる

火災は、米国太平洋岸北西部の湿潤温帯林でよく発生する自然災害だが、将来どうなるかは依然として不確実である。この気候学的および生物物理学的に多様な地域の火災状況は複雑だが、通常は気候学的でのみ捉えられている。潜在的な変化を解釈する際に問題となるのは、予測の不確実性である。地域の気候によって性能が異なる12の地球規模気候モデル (GCM)で導き出されたエネルギー放出予測を使用して、21世紀半ばの確率的火災延焼空間モデルFSimによって、5つの北西パイロームpyromesのRCP8.5排出シナリオに基づいて、考えられる数千の火災季節をシミュレートした(2035~2064年)。火災の確率、規模、および数に対して予測される変化の大きさは、パイロームとGCMによって異なった。この地域の冷涼で湿潤な北部地域 (North Cascades, Olympics & Puget Lowlands)とオレゴン州西カスケードで火災の可能性と火災規模が最も大きく増加すると予測され、ワシントン州西カスケードとオレゴン海岸山脈ではより穏やかな変化が予測された。より頻繁かつ大規模な火災(特に4万ha以上)の可能性や、極端な気象現象で火災の延焼拡大の可能性が増大する秋の初めの火災が増加するなどの季節性の変化の特徴を示す火災発生の変化について新たな洞察が得られた。この研究は、世界で最も生産性の高い湿潤温帯林の一部における気候変動の影響による潜在的な地理学的変動を明らかにし、今後数十年間で火災が急速に加速することを指摘した。


Alex W. Dye, et al. Simulated Future Shifts in Wildfire Regimes in Moist Forests of Pacific Northwest, USA. Journal of Geophysical Research: Biogeosciences, 2024; 129 (2) DOI: 10.1029/2023JG007722

2024/2/15 ヘルムホルツセンター

アフリカでの森林伐採後の土地利用

世界の森林面積の推定14%を占めるアフリカの森林面積は、主に経済目的で森林を転用する人間活動が原因で、ますます減少し続けている。天然林は重要なCO2と生物多様性の貯蔵庫であるため、この開発は気候変動に重大な影響を与える。気候保護と生物多様性の利益に的を絞って介入するには、森林関連の転換がどこで起こっているのか、そしてなぜ起こっているのかを追跡するための、森林伐採地域後の利用形態に関する十分に優れたデータと詳細な知識が不足している。本研究では高解像度の衛星データを使用し、コーヒー、カシューナッツ、ゴムなどの作物から牧草地や鉱山など、15種類の土地利用参照データに基づいて深層学習法を利用して分析した。これにより、湿潤森林と乾燥森林を含むアフリカ大陸の広範囲にわたる森林伐採後の土地利用を示す、初の高解像度(5メートル)大陸地図を作成できた。これは、アフリカとEUの両方において、商品の拡大が森林破壊につながる場所についての透明性を高め、政府や森林保護機関による森林破壊緩和策の戦略的計画と実施を支えるための基盤を提供するものであり、特定の原材料から作られた製品について「森林破壊のないサプライチェーン」を確立する新しいEU規制に活用可能である。


Robert N. Masolele, et al. Mapping the diversity of land uses following deforestation across Africa. Scientific Reports, 2024; 14 (1) DOI: 10.1038/s41598-024-52138-9

2024/2/15 リバプール大学

誤った森林再生は熱帯草原を脅かす

ボン・チャレンジは、荒廃し森林破壊された3億5,000万haを2030年までに回復することを目標として、2011年にドイツ政府と国際自然保護連合(IUCN)によって開始された。植林を促進する森林景観回復は、森林に覆われていない開放的な生態系の喪失や転換を引き起こすべきではない(つまり、植林すべきではない)という認識はあるものの、樹木ベースの生態系に重点を置くと、草が生い茂る生態系の誤った分類と復元案が組み合わされて、誤った植生復元と無傷の古い生態系の破壊につながる可能性がある。しかし、問題の潜在的な規模や、懸念が実際に展開しているかどうかは不明である。サバンナや草原における植林の潜在的な規模を理解するために、アフリカ森林再生イニシアチブ(AFR100)に基づく回復の誓約と現地プロジェクトを調査し、植林が森林以外のシステム全体に広く波及していることを見出した。


Catherine L. Parr, et al. Conflation of reforestation with restoration is widespread. Science, 2024; 383 (6684): 698 DOI: 10.1126/science.adj0899

2024/2/14 バーミンガム大学

アマゾンの森林は転換点に近づいているか?

アマゾンの森林システムが間もなく転換点(tipping point)に達し、大規模な崩壊を引き起こす可能性があることに、懸念が高まっている。6,500万年の間、アマゾンの森林は気候変動に対して比較的耐えて来た。現在、この地域は、地球温暖化、極度の干ばつ、森林伐採、火災などのストレスにさらされている。森林と環境の間に長年存在していた良好なフィードバックは、生態系の回復力を変える新しいフィードバックに換わり、重大なリスクが増大している。本報告では、アマゾンの森林における水ストレスの5つの主要な要因に関する既知の情報を分析し、局地的、地域的、さらには生物群系全体の森林崩壊を引き起こす可能性が高くなる要因の臨界閾値を分析した。さまざまな撹乱に関する空間情報を組み合わせ、2050年までにアマゾンの森林の10%~47%が複合撹乱にさらされ、予期せぬ生態系の変化を引き起こし、地域の気候変動を悪化させる可能性があると推定された。アマゾンでの破壊された森林の例を使用して、さまざまなフィードバックと環境条件を含む3つの最も妥当な生態系の変動を明らかにした。アマゾンの固有の複雑さが将来の動向にどのように不確実性を与えるかについて論じた。人新世においてもアマゾンの森林の回復力を維持するには、森林破壊と劣化に終止符を打ち、修復を拡大する地元の取り組みと、温室効果ガスの排出を阻止する世界的な取り組みの組み合わせを必要としている。


Bernardo M. Flores, et al. Critical transitions in the Amazon forest system. Nature, 2024; 626 (7999): 555 DOI: 10.1038/s41586-023-06970-0

2024/2/13 アメリカ地球物理学連合

森林再生が米国東部の涼しさを保ってきた

1世紀にわたる米国東部の森林再植林は寒冷化効果をもたらし、20世紀に地域の温暖化がなかったことを示す材料となる。これは、同時期の北米の他の地域の温暖化傾向とは対照的である。本研究は、米国東部の大部分の森林が地表温度に対して有益となる大幅な冷却効果をもたらしていることを示しており、これが地表近くの気温にも及ぶことを実証した。温帯での植林は、大気からの二酸化炭素除去で気候変動を緩和すると同時に、広い地域の地表温度や気温を下げることで地球温暖化への適応を助けるという、相補的な利点をもたらしている可能性がある。


Mallory L. Barnes, et al. A Century of Reforestation Reduced Anthropogenic Warming in the Eastern United States. Earth's Future, 2024; 12 (2) DOI: 10.1029/2023EF003663

2024/2/12 マサチューセッツ工科大学

世界的な森林伐採はさらなる水銀汚染につながる

森林伐採は、有毒汚染物質である水銀 (Hg) を吸収する陸域生物圏の能力を低下させ、土壌からの二次的な水銀の放出を促進させる。現在、水銀循環に対する森林破壊の影響は、人為的排出の調査では考慮されておらず、世界的な水銀に関する水俣条約に基づいて具体的に取り上げられてもいない。現地観測によって得られた全球水銀モデルを使用して、森林破壊による大気への正味水銀フラックスは 2015年に217Mg・年・-1(95%信頼区間(CI):134~1650Mg・年・-1)で、世界の一次人為的排出量の約10%であると推定された。アマゾン熱帯雨林の森林伐採がこのままの速度で続けば、当該地域からの正味水銀排出量は2050年までに153Mg/年(CI:97~418Mg/年)増加し、水生生態系への水銀の排出と沈着が進むことになる。土地利用政策の2つのケースでは、大幅な水銀排出量低減が見られる。それは、アマゾン熱帯雨林の保全(92Mg年-1、95%CI:59~234Mg年-1) と世界的な森林再生(98Mg年-1、95%CI: 64~449Mg年–1)である。森林破壊に関連した排出は人為的発生源として水銀調査に組み込まれるべきであり、地球規模の水銀汚染に対処するために土地利用政策が活用できる可能性がある。


Aryeh Feinberg, et al. Deforestation as an Anthropogenic Driver of Mercury Pollution. Environmental Science & Technology, 2024; DOI: 10.1021/acs.est.3c07851

2024/2/7 ストックホルム大学

気候と水循環における森林の役割に新たな光

大気の改善により人為起源のエアロゾル排出量が減少するため、自然起源のエアロゾルのフィードバックは将来さらに重要になる。そのフィードバックの1つは、温度の上昇に伴う生物起源の揮発性有機化合物 (BVOC) 排出量の増加に起因し、二次有機エアロゾル (SOA) の生成増加と、雲の放射特性への影響による地表の冷却である。地球システムモデルでフィードバック強度の大幅な拡大が予測されることから、4つの地球システムモデルにおける「揮発性有機化合物-エアロゾル-雲」フィードバックのプロセスベースの評価を行うために、北方林と熱帯林における2つの長期観測データセットと衛星データを使用した。モデル評価では、モデルによる最も弱いフィードバックは除外できる可能性が高いが、最も強い推定を導き出すことを困難にする補正誤差が明らかになった。おおむね、プロセスチェーンに沿って評価する方法は有望である。


Sara M. Blichner, et al. Process-evaluation of forest aerosol-cloud-climate feedback shows clear evidence from observations and large uncertainty in models. Nature Communications, 2024; 15 (1) DOI: 10.1038/s41467-024-45001-y

2024/2/6 フリンダース大学

さらなる異常気象が目前に迫っている

ここ数十年、地球温暖化と極端な気温と降雨の激化にかかわる大きな問題が世界中で発生している。過去50年間に南オーストラリア州で温暖化の兆候があったかどうかを確認するために、毎日の気温と降水量の傾向を分析した。極度の寒さ、暑さ、降雨の様子を、37の気象台からの気象データを使用して算出した。その結果、1970年から2021年の間、最高気温は1.1℃、最低気温は0.7℃上昇し、降水量はマイナス傾向(期間当たり-52.2mm)であったことが分かった。極寒と猛暑の現象の分析で統計的有意性があり、温暖化が南オーストラリア州に影響を与えている兆候が明らかになった。降雨では、年間降雨量が減少する一方で極端な豪雨が増加する不均一なパターンが確認された。この調査により、この地域には干ばつの激しさと大きさに影響を与える可能性のある地球温暖化の兆候が見られると結論付けた。この情報は、地球温暖化の影響管理に関わる現在の適応・緩和戦略を継続するために有効である。


Federico Ferrelli, et al.  Appraisal of Daily Temperature and Rainfall Events in the Context of Global Warming in South Australia. Water, 2024; 16 (2): 351 DOI: 10.3390/w16020351

2024/2/6 パデュー大学

複雑な林冠は中程度撹乱からの森林回復に役立つ

中程度の撹乱(林分交換をもたらさない撹乱)は、生態系の動態において重要な役割を果たす。中程度の撹乱が多数発生し、森林機能に重大な影変化するかえているが、それらが林冠構造に及ぼす影響や、撹乱の深刻度や種類ごとにその影響が時間経過とともにどのように異変化するかについてはほとんど分かっていない。そこで、LiDARによる多時期の測定データを用いて、高さ、開放度、密度、複雑さなど、林冠構造の中程度の擾乱の影響を調べた。プレス(ブナ樹皮病、ヘムロックウーリーアデルギド、アオナガタマムシの被害)とパルス(スプリング・シャクトリムシ、マイマイガ、地表火災の被害)の両方の外乱が時間の経過とともに林冠の高さ成長を阻害する可能性があることを示した。林冠構造の他のパラメータに対するプレス外乱の影響は、明確に検出できなかったが、時間の経過に伴うパルス外乱の影響は、多時点のLiDAR データを使用するとより容易に明らかになった。さらに、林冠の複雑さが、林冠構造に対する中程度の撹乱の影響を時間の経過とともに軽減するのに役立つ可能性があることを示唆した。


Dennis Heejoon Choi, et al. Short‐term effects of moderate severity disturbances on forest canopy structure. Journal of Ecology, 2023; 111 (9): 1866 DOI: 10.1111/1365-2745.14145

2024/2/1 チャーマーズ工科大学/スウェーデン

拡大する昼夜の温度差は地球上のすべての生物に影響を及ぼす

20世紀後半に、地球規模の地表温度が日中よりも夜間に急激に上昇する「日内非対称温暖化」という気候現象が出現した。最近の世界的な明るさと地域的な干ばつと熱波は、この非対称的な温暖化傾向に顕著な変化をもたらしている。本研究は、日中の気温変化を再評価し、日ごとの最低気温が比較的安定している一方で、日ごとの最高気温の高温化が急速に進んでいることを明らかにした。この変化により、日内温暖化傾向が逆転し、ここ数十年にわたって日内気温の幅が拡大した。日ごとの最高気温の高温化の激化は、雲量の広範な減少のために地表での太陽放射量が増加していることに起因している。この結果は、最近の気温傾向とそれがより広範な地球システムに及ぼす影響についての精査を緊急に強化する必要があることを示している。


Ziqian Zhong, et al. Reversed asymmetric warming of sub-diurnal temperature over land during recent decades. Nature Communications, 2023; 14 (1) DOI: 10.1038/s41467-023-43007-6

2024/2/1ヨーテボリ大学

潮間帯湿地は大きな二酸化炭素吸収源

マングローブと塩性湿地は、炭素の湧出(放出)によって堆積物や海洋に炭素を蓄積する生物化学的ホットスポットである。沿岸海水のpHは、人為起源の二酸化炭素の取り込みと、湿地からの流入などの自然の生物化学的プロセスによって変化する。マングローブと塩性湿地が海岸の炭酸塩化にどのような影響を与えるかを調査し、ブルーカーボンの収支におけるアルカリと溶存無機炭素(DIC)の湧出の寄与を調べた。世界の45のマングローブと16の塩性湿地で、潮間帯湿地の70%以上がアルカリよりも多くの溶存無機炭素を湧出しており、沿岸水域のpHを低下させる可能性があることが明らかになった。間隙水由来の溶存無機炭素湧出(マングローブでは81±47 mmol m−2 d−1、塩性湿地では57±104 mmol m−2 d−1)は、ブルーカーボン収支の主要な要素である。しかし相当量の固定炭素は依然として解明されていない。またアルカリの湧出は堆積物の炭素蓄積と同等かそれ以上であり、重要ながら見落とされがちである。


Gloria M. S. Reithmaier, et al. Carbonate chemistry and carbon sequestration driven by inorganic carbon outwelling from mangroves and saltmarshes. Nature Communications, 2023; 14 (1) DOI: 10.1038/s41467-023-44037-w

2024/1/31 ダートマス大学

菌類が豊富な土壌は屋上緑化を改善する

アーバスキュラー菌根菌 (arbuscular mycorrhizal:AM) の菌群集は、生物学的および非生物学的メカニズムを介して時間の経過とともに受動的に集合する。劣化土壌で、人間が生態系回復のために菌根を管理すると、AM菌群集が活発に集まる。2年間の屋上緑化実験で都市AM菌群集のメカニズムを調査した。接種したトレイと接種していないトレイのAM真菌群集を、2つの潜在的な供給源 (接種材料と空気) からのサンプルと比較した。積極的接種は、より明確で多様なAM真菌群集を刺激し、その効果は時間の経過とともに高まった。処理トレイでは、AM真菌群の45%が接種源で検出され、2%が空中サンプルで検出され、23%が接種源と空気の両方で検出され、30% はどちらの供給源でも検出されなかった。AM真菌の分散は少数の種の確立に成功した可能性を示したが、天然のAM真菌種を積極的に接種すると、多様でユニークな真菌群集への即時移行が可能である。都市の土壌が人間の活動によって構築または改変されると、そのシステムにAM菌類が介入し、多様性を持続的に加える機会となるであろう。


Paul Metzler, et al. Tracking arbuscular mycorrhizal fungi to their source: active inoculation and passive dispersal differentially affect community assembly in urban soils. New Phytologist, 2024; DOI: 10.1111/nph.19526

2024/1/30 シドニー大学

オーストラリアBlack Summer火災による観光業の損失は28億豪ドル(約2700億円)

観光業はオーストラリアのトップ産業の一つであり、オーストラリア人が自国を旅行することで大幅な経済刺激を生み出し、世界遺産、固有の野生生物などの多様な地域に観光客を惹きつけている。世界的に前例のない2019年から20年の大規模林野火災(Black summer bushfires)は、これら観光地の一部で最悪の被害をもたらした。クリスマスから新年にかけての観光シーズンピーク期間中、多くの地域で観光業が閉鎖され、火災の物理的な影響を受けなかった多くの地域でも観光客が減少した。この研究では、災害分析の最も一般的な方法である入出力(IO)分析を使用して、サプライチェーン全体にわたる観光客の損失による短期的なショックのコストを算出した。この目的のために、また、火災の後、経済が新型コロナウイルス感染症の影響を受けたため、影響を定量化するためにさまざまな観光分野での直接的な火災被害を抽出するための方法も開発した。その結果、総生産額で28億オーストラリアドル、雇用で7,300人が損失したと推定された。この推計によれば、消費と賃金・給与の両方で最も多くの損失を被ったのは航空業界であったが、最も多くの雇用損失を被ったのは宿泊施設であった。

Vivienne Reiner, et al. Wish You Were Here? The Economic Impact of the Tourism Shutdown from Australia’s 2019-20 ‘Black Summer’ Bushfires. Economics of Disasters and Climate Change, 2024; DOI: 10.1007/s41885-024-00142-8

2024/1/25 英国生態学会

多様な森林は嵐に最もよく耐える

1. 樹種構成が森林生産性に影響を与えることは知られているが、嵐などの撹乱に対する森林の回復力に関わるかどうかは解明されていない。気候は森林の回復力に直接影響を与える可能性があるが、樹種構成が持たらす回復力にも影響を与える可能性がある。。
2. ヨーロッパスケールでの国家森林調査 (NFI) データを加味した積分投影モデルによるシミュレーションを行った。シミュレーションをNFIデータで観察された樹種に限定し、気候勾配内で見られる種多様性の勾配を対象とした。機能的多様性と、(i) ゆっくり成長対急速成長、(ii) 低再生対高再生という2つの機能軸上での種の平均を数量化した。
3. 平均して、種が豊富な集団は嵐の撹乱に対する回復力と抵抗力が強く、機能的多様性が抵抗力と回復力を向上させることがわかった。特に、保守的-生産的の軸は多様性の軸の2~3倍の影響を及ぼした。つまり、成長のゆっくりした種が優勢な森林はより抵抗力と回復力があるが、急速成長する種が優勢な森林よりも回復力は低かった。
4. 総合すると、これらの結果は、気候と樹種構成が相互作用して、直接的および間接的な効果を通じて、森林の擾乱に抵抗し回復する能力を制御していることを示している。
 これらは、森林生態系に対する気候変動の影響をより適切に予測するのに役立つ。

Julien Barrere, et al. Forest storm resilience depends on the interplay between functional composition and climate—Insights from European‐scale simulations. Functional Ecology, 2024; DOI: 10.1111/1365-2435.14489

2024/1/24 ブリティッシュコロンビア大学

洪水リスクから守る持続可能な伐採を提唱

1世紀にわたる研究で、森林が洪水に及ぼす影響についてはかなりの意見の相違が生じた。本報告では、森林の存在またはその伐採が洪水の深刻さと頻度に及ぼす影響の科学と洪水管理を進歩させるための因果推論を検討した。洪水の原因は複数かつ偶然であるため、確率論的なアプローチでのみ調査可能である。確率的水文学の文献を使用して、雨が主要な降水形態である環境における洪水に対する森林の影響の理解と予測に関する将来の研究の指針となり得る枠組みの青写真を示した。他の分野と同様に、森林水文学に確率を導入すると、森林と洪水の科学におけるゲシュタルトスイッチ(gestalt swich)が刺激される可能性がある。この確率論的な枠組みは、気候変動によって引き起こされる洪水リスクの増大を考慮し、政策立案者が洪水に対する防御可能かつ明確な理解に基づいて堅牢な森林および水管理計画を策定するのに役立つ

Henry C. Pham, Younes Alila. Science of forests and floods: The quantum leap forward needed, literally and metaphorically. Science of The Total Environment, 2024; 912: 169646 DOI: 10.1016/j.scitotenv.2023.169646

2024/1/23 オレゴン州立大学

野生動物生息のために立枯れ木を作る技術

立枯れ木(snags)は、垂直構造を提供し、栄養分の流れと炭素循環に貢献し、多様な生物の生息地要素として機能することで、森林生態系サービスをサポートしている。多くの森林地帯では、管理者は構造の多様性を高めるために、特に立枯れ木の喪失が多く、自然の立枯れ木の増加が少ない地域で、立枯れ木を作ることがよくある。本研究では、米国オレゴン州南西部のクース湾近くの2つの調査地域でダグラスファー (Pseudotsuga menziesii)に適用されたさまざまな立枯れ木生成法の長期的な影響を評価した。処理としては、チェーンソーによる樹冠切断、菌接種、樹冠切断+菌接種、基部の機械的損傷を行った。処理して18~20年後に再訪問したところ、ほぼすべての対象樹木が立ったままだった(97.6%、n=809)。樹木が折れているか、亀裂が入っているか、樹皮が剥がれているか、棚菌(サルノコシカケ)が潜んでいるかなどの腐敗の痕跡は、チェーンソーによる樹冠切断処理のうちの1つで最も顕著で、輪生した枝の数によって区別できた。対照的に、菌類の接種と機械的損傷処理を受けただけの樹木では限られた腐敗しか観察されなかったが、これは損傷した樹木の腐敗ペースが遅いためと考えられる。また、樹木の枯死と衰退の期間が異なるさまざまな立枯れ木生成法を組み合わせることで、野生生物による利用期間が長くなり、必要な実装コストが削減される可能性が高いことも示した

James W. Rivers. Fungal inoculations and mechanical wounding of trees have limited efficacy for snag creation two decades after treatment. Forest Ecology and Management, 2024; 553: 121651 DOI: 10.1016/j.foreco.2023.121651

2024/1/23 ヘルシンキ大学

熱帯林内の温度

温度は種の分布と生態系機能の基本的な要因である。しかし、熱帯林内で生物が経験する微気候条件についての知識は依然として限られている。これは、生態学的研究では、外気環境における高さ2mでのグリッドの温度推定値 (マクロ気候) を利用することが多いためである。本研究では、森林内の地上付近(地表から15cm上)の気温の高解像度の汎熱帯推定値を示し、日内変動と季節変動を定量化し、空間的および時間的な微気候パターンを明らかにした。平均すると、地表付近の温度は外気温より1.6°C 低く、森林内の日中の温度は、外気温と比較して平均して1.7°C 低い。さらに、熱帯林の微気候特性にはかなりの空間的変動がある。この変動は大規模な気候条件、植生構造、地形の組み合わせによるため、既存の大気候グリッドでは捉えられなかった。これらは、熱帯林内の生物が経験する実際の温度範囲の定量化に貢献し、それらの限界が気候変動や生態系の撹乱によってどのように影響を受けるかについての新たな洞察を提供した。

Ismaeel, A., et al. Patterns of tropical forest understory temperatures. Nat Commun, 2024 DOI: 10.1038/s41467-024-44734-0

2024/1/16 フロリダ大学

気候変動が世界の森林炭素吸収を脅かしている

森林炭素貯蔵量の増加により、ここ数十年にわたって気候変動が減速しているが、この炭素吸収源の将来は不透明である。森林の正味炭素吸収量は、正の要因(大気中CO2濃度の上昇による光合成の促進など)と負の要因(干ばつや山火事の頻度と激しさの増加など)とのバランスによって決まる。1999年から2020年にかけて、米国東部の多くの地域で森林の生産性が向上し、穏やかな温暖化が降水量の穏やかな増加をもたらした。対照的に、温暖化がより深刻で降水量が減少した米国西部の大部分では森林生産性が低下した。これらの結果は、世界の森林炭素吸収源が気候変動に対して脆弱であることを示している。

J. Aaron Hogan, et al. Climate change determines the sign of productivity trends in US forests. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2024; 121 (4) DOI: 10.1073/pnas.2311132121

2024/1/10 ロンドン大学

最も一般的な熱帯樹種を特定

樹木は地球上で最も生物多様性に富んだ生態系である熱帯林の構成要素である。ほとんどの熱帯樹種についてはあまり知られておらず、樹種数が膨大なため、環境変化への反応などを、これらの森林で理解するのは困難である。一般的な種に焦点を当てることで、この課題を回避できる可能性があると考えた。本報告では、アフリカ、アマゾン、東南アジアの閉鎖林冠で構造的に無傷な原生林の1,568か所における幹直径10cm以上の1,003,805本の樹木調査データを使用して、樹種の存在量パターンを調べた。これらの地域の熱帯樹木の50%は、それぞれ2.2%、2.2%、2.3%の種で構成されていることが推定された。敷衍すると、地球上のすべての閉鎖樹冠の熱帯林では、幹直径が10cm以上である8,000億本の熱帯樹木の半分を構成するのは、わずか1,053種だけであると推定された。生物地理学的、気候学的、人為起源の異なる歴史にもかかわらず、大陸全体にわたる共通の種と種の存在量の分布には顕著に一貫したパターンが見られた。これは、樹木群集形成の基本的なメカニズムがすべての熱帯林に当てはまる可能性があることを示唆している。。

Declan L. M. Cooper et al. Consistent patterns of common species across tropical tree communities. Nature, 2024; DOI: 10.1038/s41586-023-06820-z

2023/12/28 オレゴン州立大学

オレゴン州西部カスケード地域は頻繁に火災に見舞われてきた

山火事の歴史的な変動に関する詳細情報は、将来の気候や撹乱への適応に役立つ。本報告は、オレゴン州西部カスケード山脈の西斜面のダグラスファー林で発生した火災(1500年から1900年頃)を毎年分析した成果である。調査域内16地点における火災発生の平均的期間間隔 (MFRI)は6~165年であった。火災発生期間間隔MFRIの変動は、夏の最大蒸気圧の不足平均と強く関連していた。ベイツガ(Mountain hemlock)やベイモミ(silver fir)への遷移過程にあるダグラスファー林では火災がまれに発生したが、火災の頻度は他の種類の森林で予測されているよりもはるかに少なかった。ベイツガ(western hemlock)またはグランドモミへ(Grand fir)への遷移過程におけるダグラスファー林の火災発生期間間隔は19~45年で、ダグラスファーへの遷移林分では6~11年であった。互いに4kmほど離れた16の現場では、火災の発生や樹木の発生に同時性がほとんど見られず、 過去400年から500年間、風による大規模な火災が、調査地域における火災の重要な要因ではなかったことを示唆した。本研究は、太平洋岸北西部で記録されている最も頻繁な火災再発期間を含め、管理者や科学者が想定していたよりもはるかに頻繁に海岸のダグラスファー林で火災が発生したという証拠を示した。追加調査を行うことを推奨する。

James D. Johnston, et al. Exceptional variability in historical fire regimes across a western Cascades landscape, Oregon, USA. Ecosphere, 2023; 14 (12) DOI: 10.1002/ecs2.4735

2023/12/18 フロリダ大学

米国東部で山火事が増加

大規模な山火事が世界の多くの地域で増加している。米国における山火事の研究と資源の主な焦点は依然として西部だが、最近は米国東部でも山火事リスクが高まっていることが示唆されている。そこで、大規模な山火事の状況における地理的パターンを定量化し、時空間的に変化する大規模な山火事パターンを確認するために、米国東部温帯林全域で36年間にわたる大規模(200ha超)な山火事の特徴(規模、数、総消失面積、季節性、発生確率、発火源)の詳細な評価調査を実施した。その結果、東部温帯林の南部および東部地域で、大規模な山火事の規模、発生、数、および焼失総面積が増加していることが明らかになった。対照的に、北部の生態系では大規模な山火事は減少するか、最小限に抑えられていた。

Victoria M. Donovan, et al. Increasing Large Wildfire in the Eastern United States. Geophysical Research Letters, 2023; 50 (24) DOI: 10.1029/2023GL107051

2023/12/18 バージニア コモンウェルス大学

温暖化は蚊の増加をもたらす可能性がある

温暖化は生物の生理機能や形質に広範で非線形的な影響を及ぼし、予測が難しいさまざまな経路を介した捕食種との相互関係に影響を与える。予測は、短期間の実験やモデルに基づくことがよくあり、環境状況、時空間スケール、捕食者と被食者の種に応じて、矛盾する結果をもたらすことがある。このように、相互関係の強さの変化予測の正確性、およびそれらが起こるより広域生態系における変化の重要性が不明なことが多い。本研究では、理論、モデリング、実験を広い温度勾配にわたる自然界の獲物の存在量に結び付けることを試みた。そのために、まず、川沿いの岩場の水溜りにおけるパンタラトンボとヤブカ属のアトロパルプス蚊の幼虫との関係見られる捕食者と被食者の相互作用に温暖化がどのような影響を与えるかを予測した。次に、数百の川沿いの岩場の水溜り (n = 775) の温度変化を記録し、この自然勾配を利用してモデルの予測に合うまたは合わない事例を探した。モデルによる予測は、温暖化が蚊の幼虫の発達を加速し、水生トンボの幼虫が蚊の幼虫を捕食する期間が短くなることによって、捕食者の活動を弱めることを示唆した。これは、岩場の水溜りの生態系で収集されたデータと一致しており、トンボの幼虫の捕食が蚊の幼虫の個体数に及ぼす悪影響は、暖かい水溜まりでは弱かった。

Andrew T. Davidson, et al. Warming and top‐down control of stage‐structured prey: Linking theory to patterns in natural systems. Ecology, 2023; DOI: 10.1002/ecy.4213

2023/12/18 カリフォルニア大学デイビス校

生態系が人類にもたらす恩恵は2100年までに9%減少するだろう

生態系は、市場に直接反映されない利益を含め、人間に幅広い恩恵をもたらす。気候変動は世界中の生態系の状況を変え、これらの恩恵も変える。しかし、生態系の変化が人間に与える具体的な影響は、これらの変化の性質、恩恵の価値、そして社会が自然にどの程度依存しているかによって決まるため、依然として不明瞭である。本研究では、経済活動の国レベルの変化と、一般的な大循環気候モデルによる全球植生ダイナミックモデル(DGVM)によって予測される全球の植生被覆の変化から生じる非市場的な生態系の価値を推定した。結果は、生態系便益の人口加重平均グローバルフローが、気候変動のないベースラインと比較して2100年に9.2%減少することを示した。また、2100年までの世界の国内総生産 (GDP) の人口加重平均の変化は、ベースラインGDPの-1.3%であると推定された。ただし、自然への依存度が高い低所得国は、GDPへの影響がより大きい。

B. A. Bastien-Olvera, et al. Unequal climate impacts on global values of natural capital. Nature, 2023; DOI: 10.1038/s41586-023-06769

2023/12/13 カリフォルニア大学サンタバーバラ校

湿潤な地域の樹木は干ばつに敏感

気候変動は世界の森林の構造と機能を変化させており、より暑く乾燥した将来に、どの森林が最も脆弱かを予測することは重要である。そこで、122 種660万本の年輪を分析し、水とエネルギー利用可能性に対する樹木の感受性を評価した。その結果、より湿った場所で生育する樹木が、干ばつに最も敏感であることがわかった。これらの干ばつ感受性が気候変動に対する脆弱性にどのような影響を与えるかを調べるために、2100年までの樹木の成長を予測した。結果は、乾燥地域での干ばつへの適応では気候変動を部分的に緩衝することを示した。対照的に、より湿ったより暑い気候下で生育している樹木は、気候変動の下で非常に大きな悪影響を受ける可能性がある。

Robert Heilmayr, et al. Drought sensitivity in mesic forests heightens their vulnerability to climate change. Science, 2023; 382 (6675): 1171 DOI: 10.1126/science.adi1071

2023/12/13 ワイツマン科学研究所/イスラエル

乾燥地域のソーラーパネル設置は植林よりも気候危機に効果的

太陽光発電(PV)による炭素排出の抑制と植林による炭素吸収は、補完的な気候変動緩和(CCM)策である。ただし、気候変動緩和策ではほとんど考慮されていないが、太陽放射の表面反射率の低下(アルベド効果)による温暖化の影響相殺に必要な「損益分岐点時間」(BET) の定量化が求められている。そこで、大気中の炭素の削減、ソーラーパネルのライフサイクル分析(LCA)、表面エネルギーバランス、さまざまな気候帯に必要な土地面積を考慮し、気候変動緩和を目的とした植林のために残っている主要な土地である乾燥地に焦点を当て、太陽光発電と植林によるCCMの可能性を評価した。結果は、太陽光発電所の損益分岐点は約2.5年であるが、乾燥地の植林の方が表面熱放散と局所的な表面冷却においてより効率的であるにもかかわらず、乾燥地植林の場合は50倍を超えて長い。さらに、太陽光発電は大気中の炭素軽減では約100倍効率的であった。植林の相対効率はより湿潤な気候では太陽光発電所と比較して大幅に高いが、それでも太陽光発電所の損益分岐点は植林よりも約20倍速い。純粋に気候放射力の観点に焦点を当てたこの分析は、植林よりも太陽光発電の利点を示しているが、森林は重要な生態系、気候調整、さらには社会サービスを提供するため、気候帯に応じて両方のアプローチを組み合わせて補完する必要がある。

Rafael Stern, et ai. Photovoltaic fields largely outperform afforestation efficiency in global climate change mitigation strategies. PNAS Nexus, 2023; 2 (11) DOI: 10.1093/pnasnexus/pgad352

2023/12/12 カリフォルニア大学バークレー校

カリフォルニアの森林は火入れや間伐で健康になる

人為的な火災消火と大木の選択的伐採により、頻繁な火災に適応していたカリフォルニアの森林は大きく変化した。その結果、壊滅的変化をもたらす山火事、干ばつ、キクイムシに対して脆弱な森林が生み出され、さらに気候変動が脆弱性を悪化させている。これらの問題に対処するために利用できる森林管理法には、機械的治療 (Mech)、人為的な火入れ (Fire)、またはこれらの治療の組み合わせ (Mech+Fire) がある。シエラネバダ北部の20年間の森林回復研究から、森林の構造と構成、可燃物の蓄積、火災の挙動、樹木間競争、経済性の変化を定量化した。3つの積極的な処理 (Fire、Mech、Mech+Fire)はすべて、未処理の対照林よりも山火事に対して耐性のある状態を生み出した。人為的火入れを含む処理 (Fire、Mech+Fire) では、地上部その他の可燃物の負荷が最も低く、モデルによる山火事の危険性は最も低くなった。長期的な森林保全の重要な要素の 1つは、森林回復後の状態を維持または改善するための継続的な処理である。多くの先住民族は、土地管理における重要な原則の1つとして「積極的な管理」について語っており、これは米国西部の森林の回復強化の必要性とよく一致している。20年以上にわたる森林研究から得た知識と、伝統的な先住民族の文化的実践と知識を活用しなければ、頻繁に火災が発生する森林は劣化し、失われ続けるであろう。

Scott L. Stephens, et al. Forest restoration and fuels reduction work: Different pathways for achieving success in the Sierra Nevada. Ecological Applications, 2023; DOI: 10.1002/eap.2932

2023/12/8 砂漠研究所

気候変動により山火事のリスクが高まり、山火事の季節が長くなる

林野火災の危険性と重大度の評価に尺度として使用される火災危険指数(FDI)が、天候と可燃物状態を因子として開発されている。そして、山火事を予測しリスク管理をするために、複数の火災危険指数が利用されている。しかし、それらの指標がさまざまな規模でどの程度うまく機能するかは不明で、温暖化の下で発生する火災規模の予測は不確実性が高い。そこで、一般的に使用される4つの火災危険指数の感度分析を行い、毎日の最低相対湿度、降水量、風速が最も重要な要因であることを示した。さらに、火災危険指数は、年間および米国スケールでは火災規模と高い相関関係があるが、より細かい空間的および時間的スケールではその相関関係は低いことがわかった。また、地域気候モデルシミュレーションを使用して、現在および将来の気候条件に対する火災危険度指数を算定した。その結果は、将来の気候下では火災の可能性が増加し、山火事の季節が長期化することを示唆した。ただし、火災頻度が高まるのは、米国の南西部では春と夏であるのに対し、北部と東部では夏と秋であると予測された。

Guo Yu, et al. Performance of Fire Danger Indices and Their Utility in Predicting Future Wildfire Danger Over the Conterminous United States. Earth's Future, 2023; 11 (11) DOI: 10.1029/2023EF003823

2023/12/7 リンシェーピング大学

欧州連合が気候目標を達成するための3つの提案

気候危機が深刻化しているため新たな二酸化炭素除去法を欧州連合の気候政策に組み込む、という課題は長年待たれてきたが、もはや緊急課題である。本報告は、今すぐ対応できる解決策を提案した。現在の欧州連合法では、加盟国が気候政策の公約を遵守し、森林および土地利用管理においてのみ、除去に対応することが認められている。つまり、気候政策目標に効果的かつ効率的に取り組むために必要とされる新たな除去法の役割は除外されている。欧州で大きな可能性を秘めた新たな除去法には、炭素の捕捉と貯蔵を伴うバイオエネルギー、バイオ炭、風化強化、アルカリ性強化などの海洋除去オプション、大気炭素の直接捕捉と貯蔵が含まれる。気候変動緩和には、排出削減が不可欠であるが、過去10年間に、国際社会は、十分な速度での排出量削減ができていない。そのため、二酸化炭素除去法の導入を促進する一連の革新的な政策が緊急に必要である。本報告で提案する解決法は、欧州連合排出量取引システム(ETS)への条件付き統合を通じて除去を奨励すること、土地利用・土地利用変更・林業 (LULUCF) 規制における除去方法のポートフォリオを拡大すること、および残留量に関する予測である。

Mathias Fridahl, et al. Novel carbon dioxide removals techniques must be integrated into the European Union’s climate policies. Communications Earth & Environment, 2023; 4 (1) DOI: 10.1038/s43247-023-01121-9

2023/12/7 ユタ大学

過去6,600万年にわたる大気中のCO2の変化を地図化

大気中の二酸化炭素濃度は気候の基本的な要素であるが、氷床コアの記録が入手可能な約80万年より古い時代についてその値を決定することは困難である。新生代二酸化炭素統合化プロジェクト(CenCO2PIP)では、過去6,600万年間の大気中の二酸化炭素の記録を確定するために様々な調査記録を包括的に評価した。これまでに入手可能な最も完全なデータとなっており、気候学、生物学、雪氷圏における二酸化炭素の役割をより適切に示すのに役立つ。

 Bärbel Hönisch, et al. Toward a Cenozoic history of atmospheric CO 2. Science, 2023; 382 (6675) DOI: 10.1126/science.adi5177

2023/12/5 ウィットウォータースランド大学/南アフリカ

気候科学に関する洞察トップ 10 

社会科学および自然科学の世界的な専門家が年次報告書「気候科学における10の洞察」を発表した。この報告書は、COP28での交渉や2024年以降までの政策実施に役立つ情報を提供するためにまとめられた、過去18か月間の最新かつ最も重要な気候科学研究を政策立案者に提供するものである。10 の洞察リストとは、1) 1.5°Cを超える温暖化は急速に避けられなくなりつつある。超過する温暖化の大きさと継続期間を最小限に抑えることが重要。2) パリ協定の目標範囲内にとどまるには、迅速かつ規制による化石燃料の段階的廃止が必要。3) 効果的な二酸化炭素除去(CDR)に必要な規模を達成するには堅牢な政策が不可欠。4) 天然の炭素吸収源への過度の依存は危険な戦略。それらの今後の貢献が不確実なため。5) 相互に関連する気候と生物多様性の緊急事態に対処するには協調活動が不可欠。6) 複合事象は気候リスクを増幅させその不確実性を高める。7) 山岳氷河の消失が加速していることを考慮。8) 気候リスクのある地域で人間が移動不能となることが増加している。9) より効果的な気候適応を可能にするには正義を運用する新しい仕組みが必要。10) 食料システムの改革は気候変動対策に直結する

Mercedes Bustamante,et al.Ten New Insights in Climate Science 2023/2024, DOI: 10.1017/sus.2023.25

2023/12/5 マサチューセッツ大学アマースト校

気候変動による侵入種の蔓延

気候変動の影響を軽減するには、生存範囲を変える外来種の拡散を防ぐことが重要である。外来植物は大量に発生し、一部地域に悪影響を及ぼすことがあるが、侵入リスクの予測は、多くの場合、全ての外来種を使用して作成されるモデルから導き出され、個別の存在量情報は無視される。本研究では、5つの主要な成長形態から144種の侵入植物種の存在量を推定して用いた。そして、600種を超える種の分布モデルを当てはめ、現在および+2°Cの気候のもとで米国東部のどの地域が侵入種の影響を受けやすいかを予測した。その結果、五大湖地域、大西洋中部地域、フロリダ州とジョージア州の北東海岸沿いに、外来植物のホットスポットが特定された。それぞれの地域の気候は、30を超える外来植物に適した。+2°Cの気候変動シナリオでは、ホットスポットは米国北東部に向かって平均213km移動し、一部の地域は最大21種の新たな侵入植物種の生息に適すると予測された。一方、米国東部では、気候変動によって62%の種の適合性が低下すると予想された。

Annette E. Evans, et al. Shifting hotspots: Climate change projected to drive contractions and expansions of invasive plant abundance habitats. Diversity and Distributions, 2023; DOI: 10.1111/ddi.13787

2023/12/4 カリフォルニア大学デイビス校

暑い地域では哺乳類は森林を求め人間の居住域を避ける:温暖化が進む世界では森林は哺乳類にとってより重要

気候と土地利用の変化の影響を独自に調査した研究は多くあるが、それらが哺乳類の分布にどのように相互作用するかを調査した例はほとんどない。人為的景観において気候条件が種の存続を制限している場合、気温と降水量の変動により、生物多様性を保全する機能が妨げられる可能性がある。大陸規模のデータセットを活用して、北アメリカの哺乳類が生息域全体の森林被覆と人為的改変にどのように反応するかを調べた。その結果、暖かい地域では、種は一貫して人為的改変に対して敏感で、森林への依存度が高いことがわかった。これは、気候変動の下で人為的景観の保全価値を高めるか、あるいは自然地域を保護するかを決定する際には、種の生息地の変化を考慮する必要があることを示唆している。

Mahdieh Tourani, et al. Maximum temperatures determine the habitat affiliations of North American mammals. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (50) DOI: 10.1073/pnas.2304411120

2023/12/4 ユタ州立大学天然資源大学

奇妙な火事:ユタ州の山火事の独特のパターン

火災の影響を衛星で監視することは広く普及しているが、多くの場合、衛星データ解析に、被災地の状況や植生タイプ別の火災の深刻度が考慮されていない。特に、米国ユタ州など、植生が不連続であったり、植生分布域が狭い地域では、衛星で植生と火災の規模を捉えて、火災の感受性を特徴付けることが、地域における火災前後の管理の改善をもたらす可能性がある。本報告では1984年から2022年までにユタ州で発生した775件の中規模(40ヘクタール≦面積<400ヘクタール)と697件の大規模(≧400ヘクタール) の山火事を分析し、燃焼率正規化差分法(dNBR)を使用して植生タイプ別の火災重症度を区分した。その結果、1984年から2021年まで、ユタ州では40ヘクタール以上で年間平均38件の火災が発生し、年間平均58,242ヘクタールが焼失し、dNBR中央値は165だった。火災は、ヨモギと低木の植生タイプによって大きく影響された。面積の50.2%(17% SD)が焼失したが、その割合は比較的類似していた(1年あたり18%~79%)。非森林植生域では中規模面積火災の重大度の方が大規模面積火災より高かったが、森林植生域ではその逆であった。1985年から2021年にかけて、ユタ州で40ヘクタール以上が燃えた地域の総面積は、少数の大規模火災によるものであった。ユタ州では、火災の激しさは植生の種類と火災の規模の両方によって異なる。最近の火災は、将来の火災に対する有益なベースラインとして役立つ可能性があるが、20世紀に長期間火災が消火されたことは、将来の火災がより活発になる可能性を示唆している。

Joseph D. Birch, James A. Lutz. Fire Regimes of Utah: The Past as Prologue. Fire, 2023; 6 (11): 423 DOI: 10.3390/fire6110423

2023/12/1 シンシナティ大学

公共の庭園が侵入種問題の一因:オハイオ州南西部で増加している外来種

侵略的な外来植物は生物学的汚染の一形態であり、在来の生物多様性が失われることになる。また、景観変化に次いで在来の植物相に与える最も深刻な脅威は、外来種の侵入である。自然界における外来植物の管理は、金銭的にも時間的にも多大な費用がかかり、除草剤や機械の広範な使用によって、在来の植物、野生動物、人間に多くの巻き添え被害がもたらされる。外来植物の侵入の主な経路は観賞用の園芸種導入である。樹木園を含む植物園が、生物学的侵入の事例となることがよく知られている。

Denis G. Conover, et al. Evidence for an Arboretum as a Point Source of Exotic Invasive Plants in Cincinnati, Ohio. Ecological Restoration, 2023; 41 (4): 160 DOI: 10.3368/er.41.4.160

2023/11/29 コーネル大学

600年の年輪からカリフォルニアの気候リスクを明らかにする

カリフォルニアの水文部門が将来の極端気候を理解し、管理することを支援するために、年輪年代で捉えられた自然の気候変動および人為的気候変動の傾向から、将来の毎日の天候と水流の様子の地域的モデルを作成し、それを活用する方法を提示した。まず、600 年分の気象を復元し、確率的気象予測をカリフォルニア州サンホアキンバレーの 5 つの亜盆地向けに開発した。 気候変動の複合的な影響を評価するために、温暖化の予測シナリオを反映する気温系列と、降水量系列を作成した。 次に、これらの気象シナリオを使用して、5 つの亜流域ごとに水文モデルを作成した。 これらによって、現代の記録を上回る極端な洪水と干ばつを引き起こした過去の期間を明らかにした。洪水と干ばつに関連する意思決定に対する自然変動と気候変動の関与を特徴付けるために分散分解を使用した。 その結果、個々の流域における変動と空間的に複合する極端な現象の大部分は自然変動に起因する可能性があるが、計画期間が長くなると人為的気候変動の影響が大きくなることを示した。 極端な洪水や干ばつの形成における気候変動と自然変動の関係は、サンホアキンにおける回復力のある水システムの計画・管理にとって極めて重要である。

Rohini S. Gupta, et al. Understanding the Contributions of Paleo‐Informed Natural Variability and Climate Changes to Hydroclimate Extremes in the San Joaquin Valley of California. Earth's Future, 2023; 11 (11) DOI: 10.1029/2023EF003909

2023/11/29シドニー大学

景観ダイナミクスが生物多様性の進化を決定

生物圏の長期的な多様化は物理的な環境変化への応答である。しかし、大陸全体では生物のほぼ単調な拡大は海洋での拡大よりも早く、顕生代の初期に始まった。一方、属の数は時間経過とともに増減した。地球力学および気候強制力の変化を包括的に評価しても、生命の進化の長期パターンについて統一的な理論を提供することはできない。本報告では、気候とプレートテクトニクスのモデルを組み合わせて、顕生代全体における地球の景観の進化を数値的に構築し、それを海洋動物および陸上植物の属の多様性データセットと比較した。結果は、生物多様性が地形のダイナミクスに強く依存しており、大陸と海洋の両方の環境収容力を常に決定していることを示した。海洋での多様性は一次生産に栄養をもたらす河川の堆積物の流れと密接に関係していた。陸上では、広範囲にわたる内流盆地が堆積物で覆われて大陸を覆い、土壌が必要な根を張る植物相の発達を促進し、景観の多様性の増加がそれらの発達をさらに促進するまで、劣悪な土壌条件によって植物の拡大が妨げられていた

Tristan Salles, et al. Landscape dynamics and the Phanerozoic diversification of the biosphere. Nature, 2023; DOI: 10.1038/s41586-023-06777-z

2023/11/28 オハイオ州立大学

焼畑農業は森林の生物多様性を増加させる可能性がある:先住民の慣習がプラスの影響を与えた

地球の多くの場所で、気候変動と戦うために重要な熱帯林の広大な地域を先住民社会が、制御、利用、管理している。慣習的な先住民の農業慣行が焼畑農業を利用して森林での多様性を増加させることができるかどうかを調査した。ドローンで収集した高解像度のマルチスペクトル画像、土地利用と歴史に関する真のデータ、植物と樹木の生物多様性調査を使用して、ベリーズ南部の2つのケチ・マヤ村を囲むコミュニティの土地を調査した。シミュレーションやベイジアンモデリングなどの手法を使用して、スペクトルの多様性、森林の多様性、景観の撹乱の間の関係を分析した。両方の村で再現された結果は、最高レベルのスペクトル多様性 (森林多様性の代替) が中間レベルの森林撹乱と関連していた。結論として、先住民族の慣習的な土地利用慣行から生態系の強化がどのように生じるかを示す概念的枠組みが提案できた

Sean S. Downey, et al. An intermediate level of disturbance with customary agricultural practices increases species diversity in Maya community forests in Belize. Communications Earth & Environment, 2023; 4 (1) DOI: 10.1038/s43247-023-01089-6

2023/11/22 国際応用システム分析研究所/オーストリア

COP28グローバル・ストックテイクで土地排出量を評価する際の問題点

パリ協定の達成に向けた世界的な進展を評価するには、緩和法に対する各国の行動と誓約に関わるモデルの総計量を共通化する必要がある。しかし、国の温室効果ガス調査(NGHGI)と人為的排出量の評価では、炭素フラックスに関する収支計算法が異なっている。その結果、現在の排出量推定値に大きな差が生じており、その差は時間の経過とともに拡大する。そこで、最先端の方法論と陸域炭素循環エミュレーターを使用し、気候変動に関する政府間パネル (IPCC)が評価した緩和法とNGHGIを比較した。NGHGIを使用して計算すると、主要な世界的な緩和の達成が難しく、より早期のCO2ネットゼロ達成と累積排出量の削減の両方が必要になることがわかった。さらに、自然的な炭素除去法が低下することにより、人為的な土地ベースの除去努力が隠れる可能性があり、その結果、NGHGIの土地ベースの炭素フラックスは最終的に2100年までに排出源になる可能性がある。これらの結果は、グローバル・ストックテイクにとって重要である。各国は、地球の気温目標との一貫性を保つために、気候目標への野心を集団的に高める必要があろう。

Matthew J. Gidden, et al. Aligning climate scenarios to emissions inventories shifts global benchmarks. Nature, 2023; DOI: 10.1038/s41586-023-06724-y

2023/11/21 オレゴン州立大学

炭素蓄積の最大化をもたらす収穫周期

 森林管理は炭素の蓄積と吸収に影響を与える。長期の炭素吸収を最適化する伐採周期は議論のひとつである。若い樹木の方が成熟した樹木や老木に比べて成長速度が速いため、周期を短くすると吸収率が高まると言う人がいる。一方、頻繁に伐採するとその後の森林炭素の回復が遅れるため、皆伐間隔は長くするほう良いと主張する人もいる。これらの対照的な意見は、間伐の影響に関する相違の反映であり、間伐が残存木の改善的かつ持続的な成長を促進して炭素吸収量を高めるか、または地上部バイオマスを除去することで吸収量が押さえられるという違いである。本研究で、240年にわたって他の目標を達成しながら炭素蓄積を最適化する周期と間伐の実践的な組み合わせを特定した。さまざまな周期および間伐下での林分成長モデルには、森林植生シミュレーター (FVS)を利用した。そして、さまざまな管理計画の下で、現地の生産性が地上部炭素動態を決定する主な要因であることを示した。つまり、周期と間伐の最適な組み合わせは林分によって異なる。生産性の高い林分では、樹齢40年で低強度間伐を行い60年周期とすることが最適とされた。中程度の生産性の林分では、80年周期とし、その間に2回の低強度間伐を行う場合に最も優れた吸収量を示した。また、高および中程度の生産性の林分では、80年または120年の周期内に2回の低強度または中強度の間伐を適用すると、総炭素量が増加する。高強度の間伐を行うと、120年周期以下の低生産性林分を除き、240年にわたる期間におけるすべての生産性レベルと周期において、蓄積される炭素総量は減少する。

Catherine Carlisle, et al. Modeling Above-Ground Carbon Dynamics under Different Silvicultural Treatments on the McDonald–Dunn Research Forest. Forests, 2023; 14 (10): 2090 DOI: 10.3390/f14102090

2023/11/21 USDA森林局 - ロッキーマウンテン研究所

2020年から2021年のカリフォルニア大火災が野生生物の生息地に与えた影響の包括的調査

2020年から2021年にかけて カリフォルニア州で発生した火災は、前例のない大規模なものだった。19,000km2以上の森林が焼失し(平均の10倍)、508種の脊椎動物の生息地に影響を与えた可能性がある。高-重大度で燃えた9,000km2を超える面積のうち、89%はこれまで推定されていた火災面積を超える大きなパッチだった。この2年間で100種の脊椎動物が生息域の10%以上で火災に見舞われ、そのうち16種は保全上懸念のある種だった。また、これら100種は生息域の5~14%で深刻な火災に見舞われ、生息地の構造に重要な変化が生じた。この地域の種は重大度の高い巨大火災に適応していない。人為的な火入れや間伐などの管理措置は、深刻な火災の発生を抑制し、野生動物に対する異常な火災による悪影響を軽減させる。

Jessalyn Ayars, et al. The 2020 to 2021 California megafires and their impacts on wildlife habitat. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (48) DOI: 10.1073/pnas.2312909120

2023/11/21 ウィスコンシン大学マディソン校

炭素除去技術の拡大の見通し

さまざまな温暖化緩和オプションのコストと相互作用を考慮したシナリオは、温暖化を2°C以下に抑えるためには、今世紀中に大気中から数百ギガトンの二酸化炭素(CO2)を除去する必要があることを示している。さらに、温暖化を1.5°Cにし、地球の持続的な幸福を確保するよう努力することが求められている。しかし、現時点では年間2Gtしか除去されておらず、そのほぼすべてが林業によるもので、新技術による炭素除去は0.1%である。今後10年間にわたる新しいCO2除去技術(CDR)の導入が、形成段階かもしれないが、パリ協定の温度目標と一致するCO2排出を実質ゼロに達することにおいて、大規模かつ時間に間に合うように利用可能かどうかを確認することが重要である。

Gregory F. Nemet, et al. Near-term deployment of novel carbon removal to facilitate longer-term deployment. Joule, 2023; DOI: 10.1016/j.joule.2023.11.001

2023/11/17 トリニティカレッジ・ダブリン /アイルランド

植物は考えられてきた以上のCO2を吸収できる可能性がある

総一次生産 (GPP) は炭素吸収量の重要な表現要素であるが、陸上生物圏モデル(TBM) におけるGPPは、最新の生理学的知見を反映していない。本研究では経験的によく裏付けられているが省略されがちな3つのメカニズム、すなわち光合成温度順応、葉肉コンダクタンス、および葉窒素の再分配による光合成の最適化をTBM CABLE-POPに実装した。気候シナリオRCP8.5を使用して、GPPの予測に対する3つのメカニズムの個別および組み合わせの影響を特徴付ける要因モデルシミュレーションを行った。3つのメカニズムを欠いたモデルと比較して、光合成をより包括的に表現し、シミュレーションされた全球GPPは大幅に増加することを示した(2070~2099年までに最大20%)。複合効果が個々の効果の合計よりも強力で、メカニズム間の非相加的相互作用が明らかになった。モデル化された応答は、追加されたメカニズムによって引き起こされる温度とCO2に対する光合成の感受性の変化によって説明される。この結果は、現在のTBMが将来のCO2と気候条件に対するGPPの反応を過小評価していることを示唆している

Jürgen Knauer: Higher global gross primary productivity under future climate with more advanced representations of photosynthesis. Science Advances, 2023; 9 (46) DOI: 10.1126/sciadv.adh9444

2023/11/16 GFZ ヘルムホルツ センター 

新たな世界の材積調査: 健全な森林はより多くの炭素を貯蔵可能:衛星データと地上データを組み合わせた大規模な国際研究

天然の炭素貯蔵は、アラブ首長国連邦で開催される世界気候会議COP28で重要な役割を果たすことになる。海洋と土壌に次いで、森林は炭素の最大の「吸収源」である。つまり、森林は大気から膨大な量の二酸化炭素を吸収する。これが正確にどの程度なのか、そして森林管理を改善すればさらにどの程度増加するのかは難しい問題である。世界中の200名を超える研究者チームが、貯蔵の可能性についての新しい推定値を発表した。この研究はチューリッヒ工科大学によってコーディネートされ、重要な方法論的な貢献はGFZから提供された。この研究によると、森林は理想的には3,280億トン(ギガトン、略してGt)の炭素を吸収できるという。しかし、かつては森林に覆われていた地域の多くが現在では農業や定住地として利用されているため、その可能性は226Gtまで減少している。このうち139Gt(61%)は、既存の森林を保護するだけで達成できる。残りの87Gt(39%)は、断片化されている森林を再接続し、持続可能な方法で管理することが必要である。

Lidong Mo, et al. Integrated global assessment of the natural forest carbon potential. Nature, 2023; DOI: 10.1038/s41586-023-06723-z

2023/11/14 オーフス大学/デンマーク 

ヨーロッパは 現生人類が現れるまで鬱蒼とした森に覆われていたのではない

過去のヨーロッパにおける植生被覆については広く議論されている。特に、温帯森林生態系は伝統的に密集した樹冠が閉じた森林と考えられてきた。しかし、大型の草食動物はより開放的な環境、あるいは灌木地を必要としていたと主張する人もいる。本報告では、ホモ・サピエンスにかかわった巨大動物相の減少と人為的景観変化に先立って、最終間氷期(129,000~116,000年前)で、この疑問に取り組んだ。植生再構築手法REVEALSを96件の最終間氷期の花粉記録に適用した。その結果、この期間中、明るい森林と開けた植生地が平均して50%以上を占めていたことがわかった。開放度は非常にばらつきがあり、気候要因と部分的にのみ関連しており、自然撹乱の重要性を示した。この結果は、温帯森林生態系が歴史的に均一に密集しているのではなく不均一であったことを示しており、これは現代ヨーロッパの生物多様性の多くが開けた植生と明るい森林に依存していることと一致している

Elena A. Pearce, Substantial light woodland and open vegetation characterized the temperate forest biome before Homo sapiens. Science Advances, 2023; 9 (45) DOI: 10.1126/sciadv.adi9135

2023/11/13 バンガー大学/イギリス

アマゾンの天然性二次林は原生林の保護に貢献している

二次林の拡大による熱帯林回復は、気候変動の緩和にとって極めて重要で、生物多様性にも利益をもたらす。ただし、これらの利点の効果は、景観内での二次林の位置による。二次林における炭素貯蔵量と生物多様性の両方の回復は、原生林に近づくことで促進され、原生林は境界域の緩衝と断片化の軽減などによって二次林から恩恵を受ける可能性がある。しかし、原生林と比較した二次林の位置に関する生態系全体での評価は十分でない。本報告では、まずアマゾンの二次林をマッピングし、原生林への近接性を調べた。次に、二次林が原生林境界(端から120m未満)で緩衝する様子と、二次林が断片化に及ぼす影響を計算した。2020年には、アマゾンの二次林の41.2%が原生林に隣接し、94.1%が原生林に接する断片化地内にあった。ただし、構造的に無傷の原生林のみを考慮した場合、隣接性と接続性はそれぞれ20.1%と57.4%であった。二次林は原生林境界の41.1%で緩衝し、回廊として機能することで原生林の断片の総数を200万箇所削減している。これらの結果は、二次林の利点を検討する際に、空間的背景を理解することが重要であることを示している。二次林を原生林の隣に配置する利点についての理解が深まれば、より効果的な気候変動の緩和および回復戦略の開発を支援できる可能性がある。

Charlotte C Smith, et al. Amazonian secondary forests are greatly reducing fragmentation and edge exposure in old-growth forests. Environmental Research Letters, 2023; 18 (12): 124016 DOI: 10.1088/1748-9326/ad039e

2023/11/13 オレゴン州立大学

山火事と干ばつにより太平洋3州の私有林に112億ドルの被害が発生

気候変動による山火事などの極端現象の最近の増加に天然資源市場がどのように対応しているかについての確かな情報が不足している。山火事は、既存の樹木に直接的なダメージを与えたり、将来の山火事の到来に対するリスク予測によって、森林の経済的価値に影響を与える可能性がある。そこで、米国西部の太平洋3州における17年間にわたる土地区画データを使用して、私有林の市場価格に対する大規模な山火事と干ばつストレスの影響を推定した。私たちは、土地市場で販売された森林を直接燃やすのではなく、近くで発生した山火事による影響を推定することで、リスク予測の変化を特定した。その結果、過去20年にわたる大規模な山火事と干ばつストレスの最近の増加により、太平洋3州全体で林地の経済的価値が約10%、つまり約112億ドル低下し、そのうち約5.5%(約62億ドル)が気候変動による賠償金として支払われたことがわかった。山火事被害のほとんどは、リスク予測の変化によって生じた。これらは、発生した気候変動による極端現象のコストを示している。

Yuhan Wang, David J. Lewis. Wildfires and climate change have lowered the economic value of western U.S. forests by altering risk expectations. Journal of Environmental Economics and Management, 2023; 102894 DOI: 10.1016/j.jeem.2023.102894

2023/11/10 チューリッヒ工科大学/スイス

多様な森林に膨大な炭素貯蔵の可能性

森林は陸域の炭素吸収源であるが、土地利用と気候の変化により、その規模は大幅に縮小している。世界の森林の炭素損失を推定するリモートセンシングは不確実性が高く、推定値のベンチマークとなる地上評価が不足している。本報告では、いくつかの地上由来のアプローチと衛星由来のアプローチを組み合わせて、農地および都市以外の世界の森林炭素の潜在的規模を評価した。地域的なばらつきがあるにもかかわらず、予測は地球規模で驚くべき一貫性を示しており、地上から得た計測と衛星から得た推定との差はわずか12%であった。現在、世界の森林炭素貯蔵量は自然的な可能性を著しく下回っており、人間のフットプリントが少ない地域でも総不足量が226Gt(モデル範囲=151〜363Gt)となっている。この潜在力のほとんど(61%、139GtC)は既存の森林が存在する地域にあり、そこでは生態系保護により森林が成熟するまで回復することができる。潜在力の残りの39%(87GtC)は、森林が伐採または分断された地域である。この結果は、多様な森林の保全、回復、持続可能な管理が地球規模の気候と生物多様性の目標達成に貴重な貢献をもたらすという考えを裏付けている。

Lidong Mo, et al. Integrated global assessment of the natural forest carbon potential. Nature, 2023; DOI: 10.1038/s41586-023-06723-z

2023/11/10 スタンフォード大学

低強度火災で山火事のリスクが60%軽減される

深刻な山火事の頻度が増加しているため、その影響を軽減する管理が必要である。火災に適応する生態系とするために有効な可燃物の処理である「管理された低強度火災(火入れ)」の役割は、科学と政策の両方で関心を集めている。総合的な関連分析法により、カリフォルニア州の124,186平方キロメートルの森林における20年間の衛星観測の火災データを分析し、低強度火災が将来の高強度火災のリスクを大幅に軽減するという証拠を示した。針葉樹林で、最近低強度で火災が発生した地域では、火災未発生の森林と比較して、高強度火災のリスクが64.0% (95%信頼区間で、41.2~77.9%)減少し、保護効果が少なくとも6年間(95%片側信頼区間の下限で、6年)継続した。これらの結果は、カリフォルニア州における消火から森林修復への火災政策の移行を裏付けるもので、消火を行わなかった時代および植民地時代以前の火災対策における、規定の火災、文化的火入れ、および管理した山焼きのなどの有効性を示している。

Xiao Wu, et al. Low-intensity fires mitigate the risk of high-intensity wildfires in California’s forests. Science Advances, 2023; 9 (45) DOI: 10.1126/sciadv.adi4123

2023/11/9 イースト・アングリア大学/イギリス

落雷が北方林の山火事の主な原因で炭素貯蔵を脅かす

林野火災は人によって発生することもあれば、自然由来(そのほとんどが落雷)で発生することもある。社会経済的および気候学的条件の変化が火災に及ぼす影響を推定する場合、落雷と人為的火災を区別することが最も重要である。ここでは、世界7地域の火災の発火場所、原因、火災面積の参照データを使用して、機械学習で主な火災の発火源としての雷と人為的発火の世界的な情報を取得した。現在、熱帯以外の天然林の焼失地域の77%(不確実性は標準偏差=8%) が雷に由来しており、これらの地域ではおそらく1度の温暖化ごとに11~31%多くの雷が発生する。 熱帯以外の天然林は炭素貯蔵のために世界的に重要である。現在、火災による森林損失が大きく、単位面積当たりの火災排出量は地球上で最大の部類に入る。したがって、手付かずの森林で将来雷が増加すると、気候変動と山火事の間の正のフィードバックループが悪化する可能性がある。

Thomas A. J. Janssen, et al. Extratropical forests increasingly at risk due to lightning fires. Nature Geoscience, 2023; DOI: 10.1038/s41561-023-01322-z

2023/11/8 ケンブリッジ大学

対策を講じないと今後50年以内に英国の森林は壊滅的に生態系崩壊する

森林は、気候や生物多様性の危機などの社会の最大の課題への対応において極めて重要な役割を果たすことが期待されている。しかし、森林自体と森林管理は、相互に関連するさまざまな脅威に直面している。現在はあまり認識されていない新たな途上の問題もある。本報告では、今後50年間に英国の森林管理に影響を与える可能性のある途上の問題を特定した。これらは現在十分に認識されていない問題であるが、森林セクターを超えて重大な影響を与える可能性がある。私たちは、多様な専門家パネルが関与する実証済みのホライズンスキャニング手法に従い、180件の問題のロングリストを照合し、優先順位を付けた。特定された上位15件の問題を、グラフィカルに要約した。これらは、環境問題から政治的および社会経済的要因の変化に至るまで、さまざまなテーマを含んでいるとともに、それらの間に複雑な相互関連がある。最も高く評価された問題は「壊滅的な森林生態系の崩壊」で、このような崩壊は起こり得る可能性が高いだけでなく、業界全体および広い社会全体に多大な影響を及ぼすであろう。我々は、圧倒されて何も行動を起こさない、あるいは広範な影響を考慮せずに単に「楽勝」とすることを避けなければならない。ここで紹介した15の問題は、さらなる研究を構築し、議論と行動を促し、事実に基づいた政策と実践を開発するための出発点である。

Eleanor R Tew, et al. A horizon scan of issues affecting UK forest management within 50 years. Forestry: An International Journal of Forest Research, 2023; DOI: 10.1093/forestry/cpad047

2023/11/7 コルドバ大学/スペイン

過去60年間にわたるヨーロッパの森林被害情報データベース

森林における病虫害発生は、生態系を大きく変える可能性がある。気候が変化し、種や生物群系の分布が変化するにつれて、世界の多くの地域でこうした撹乱体制が激化している。その結果、炭素蓄積、水流調節、木材生産、土壌保護、生物多様性保全などの主要な森林生態系サービスがますます損なわれる可能性がある。しかし、これらの有害な影響が引き起こされるにもかかわらず、森林の病虫害を全ヨーロッパ規模で記録する空間的に詳細なデータベースは存在しない。本報告では、ヨーロッパの森林の病虫害被害に関する新しいデータベース (DEFID2) を紹介する。これは、1963年から2021年に、ヨーロッパの森林で発生した病虫害を、ポリゴンまたはポイントでマッピングした65万件を超える地理情報で構成されている。現在、8カ国で、さまざまな方法 (地上調査、リモートセンシング技術など) で取得されている。DEFID2の記録は、被害の重症度やパターン、病原体、寄主樹種、気候による誘発因子、造林慣行、最終的な処理など、一連の定性的属性で記述されている。これらは、Landsat正規化燃焼率(LNBR)の時系列データなど衛星ベースの定量的評価と、LandTrendrのスペクトルを使用した被害指標 (火災の発生、継続時間、規模、被災割合等) によって補完され、暴風や山火事との相互作用の可能性を含めている。また、DEFID2データベースを継続的に拡張および改善するために、さらなるデータ共有が奨励されている。

Giovanni Forzieri, et al. The Database of European Forest Insect and Disease Disturbances: DEFID2. Global Change Biology, 2023; 29 (21): 6040 DOI: 10.1111/gcb.16912

2023/11/3 アリゾナ大学

稚樹は大丈夫ではない:気候変化が森林を蝕む可能性を幼樹が示す

干ばつや熱波による枯死、火災激化などにより、樹木が急速に損失している。多くの森林の運命は、気温上昇や異常気象に耐える稚樹の能力にかかっている。近年の研究は、個々の樹種の枯死に対する干ばつや熱波の影響に焦点を当てることが多いが、気候、生態水文、植物生理の同時変動を考慮すると、これらの条件下での稚樹の枯死率が標高勾配で種間でどのように変化するかは未だ不明である。本研究では、米国南西部の森林に広がる5種の稚樹を対象に、極度の干ばつを課す室内実験を実施し、この知見不足に対処した。全体として、枯死を引き起こす干ばつ期間は、樹種によって最大20週間異なった。熱波の影響により、すべての樹種で枯死までの平均期間は約1週間早まったが、標高の低い温暖な環境条件で生育する樹種(ポンデローサマツは10週間で、エデュリスマツは14週間で枯死)は、標高の高い涼しい環境条件で生育する樹種(マツは19~30週間、マツは30~30週間)よりも早く枯れた。しかし、干ばつを伴う熱波にさらされた場合、より涼しい周辺条件の樹種でのみ枯死率が大幅に増加した(Pinus flexilis: 2.7 週間早く、Pseudotsuga menziesii: 2.0 週間早く)。周辺温度が低いことで、干ばつ時の水分損失が緩和され、標高の高い樹種の生存期間が長くなった可能性がある。この研究は、干ばつが稚樹枯死の主な要因で、より温暖な気候の境界にある樹種に最も直接的な影響を及ぼす一方、干ばつと熱波が連続して発生すると、特に標高の高い樹種の枯死が増える可能性があることを示唆している。

Alexandra R. Lalor, et al. Mortality thresholds of juvenile trees to drought and heatwaves: implications for forest regeneration across a landscape gradient. Frontiers in Forests and Global Change, 2023; 6 DOI: 10.3389/ffgc.2023.1198156

2023/10/31 メリーランド大学

人類は地球規模の塩分循環を破壊している

塩分の生産と使用の増加により、地球システム全体の塩イオンの自然なバランスが変化し、淡水塩類化症候群として知られる影響を引き起こしている。本レビューは、天然塩分の循環を概念化し、塩分生産と河川塩分の濃度とフラックスの世界的な増加傾向を示した。天然塩分の循環は主に、塩分を地表にもたらす比較的ゆっくりとした地質学的および水文学的なプロセスによっている。しかし、人間活動により、塩分流出におけるプロセス、時間スケール、およびフラックス規模が加速され、方向性が変化し、人為的な塩分循環が形成されている。世界の塩分生産量は過去1世紀にわたって急速に増加しており、年間約300MtのNaClが生産されている。河川の塩分フラックスは人為的塩分フラックスと同程度で、流域にかなりの量の塩分が蓄積している可能性がある。過剰な塩分は人為的な塩分の循環に沿って伝播し、淡水塩類化症候群を引き起こし、さらに広がり、食料とエネルギーの生産、大気の質、人間の健康とインフラに影響を与える。地球の限界を超えて地球システム全体に深刻なまたは不可逆的な損傷を引き起こす前に塩類化を減らす必要がある。

Sujay S. Kaushal, et al. The anthropogenic salt cycle. Nature Reviews Earth & Environment, 2023; DOI: 10.1038/s43017-023-00485-y

2023/10/30 リーズ大学/イギリス

アマゾン森林伐採は広域の気候温暖化をもたらす

熱帯林破壊は気候を温暖化させ、近隣の人々に悪影響を及ぼす。ほとんどの研究は森林伐採によって引き起こされる局所的な温暖化に焦点を当てており、森林伐採が周辺地域に与える影響についてはあまり知られていない。本研究は衛星データを使用して、アマゾンの森林破壊が森林消失の場所から最大100km離れた場所まで大幅な温暖化を引き起こしていることを示した。そして、この非局所的な温暖化が森林破壊に起因する将来の温暖化を4倍増加させることを明らかにした。アマゾンで森林伐採を減らすと、アマゾン南部の将来の温暖化を0.56°C削減できる。これらは、地域の気候変動における森林破壊の影響を示し、アマゾンの気候適応と回復力のために森林破壊を減らすことの重要性を示している。

Edward W. Butt, et al. Amazon deforestation causes strong regional warming. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (45) DOI: 10.1073/pnas.2309123120

2023/10/30 ケンブリッジ大学

オフセット市場:炭素クレジットへの信頼を回復させ熱帯林の保護に役立つ新しいアプローチ 

自然生態系の保護と回復によって危険な気候変動を回避する取り組みは、長期的影響を定量化する手法の信頼性に対する懸念によって妨げられているのが現状である。そこで、次の3つの確実な進歩を組み入れ、非永続的な自然ベースでの純社会的利益を評価する柔軟な手法を開発した。(1) プロジェクトの影響の永続性を時間の経過に伴う追加性とする概念。 (2) 将来の炭素増加の反転による社会的コストのリスク回避型推定。 (3) 過度に悲観的なリリース予測の誤りを修正するためのクレジット後のモニタリング。 この手法は、すでにクレジットされている炭素を保護するためのインセンティブを生み出すと同時に、投資家になりたい人が多様な炭素プロジェクトを比較できる。パイロット分析では、自然由来のクレジットは、非永続性を調整した後でも競争力のある価格が設定される可能性があることが示された。

Andrew Balmford, et al. Realizing the social value of impermanent carbon credits. Nature Climate Change, 2023; DOI: 10.1038/s41558-023-01815-0

2023/10/26 チューレーン大学(米国ルイジアナ州)

食事の簡単な変更で二酸化炭素排出量を削減し健康を改善する

食べ物を変えることで、環境への悪影響を減らし、人間の健康を改善できるが、食事を大幅に変えるのは困難である。本研究では、米国の子供と成人の全国的サンプル7,753人の食事摂取データを使用して、高炭素食品から低炭素食品への簡単で実行可能な食事代替品を特定した(たとえば、ブリトーなどの混合料理で牛肉の代わりに鶏肉を使用するが、それ以外の食品は変えない)。そして、代替品が炭素排出量と食事の質に及ぼす影響をシミュレーションした。高炭素食品を食べる全ての消費者が、代わりに低炭素代替品を摂取した場合、食事による二酸化炭素排出量の総量は35%以上削減される。さらに、これらの代替品を採用すると、食事の質が4~10%向上し、あらゆる年齢、性別、人種および民族グループの人々にメリットが期待できる。これらの結果は、「小さな変化」アプローチが、気候と健康に対する食生活の貴重な出発点となる可能性を示唆している。

Anna H. Grummon, et al. Simple dietary substitutions can reduce carbon footprints and improve dietary quality across diverse segments of the US population. Nature Food, 2023; DOI: 10.1038/s43016-023-00864-0

2023/10/26 チャーマーズ工科大学(スウェーデン)

高級な広葉樹の75%が違法伐採されている可能性がある

違法伐採は熱帯地域で依然として広く行われており、広範な森林破壊と違法木材製品の取引につながっている。環境分野に拡張されたインプット・アウトプットモデルをブラジルの原生林由来の木材に適用することで、サプライチェーン全体にわたって明確な違法性のリスクを樹種レベルでマッピングし、定量化する手法を証した。有数の木材生産地で、森林フロンティアであるアマゾン・パラ州産の高価値のイペ広葉樹材に焦点を当てた。伐採許可および州レベルと国レベルの森林原産地証明のデータを使用し、伐採許可の欠落または無効、イペ収量の誇張、または合法木材の移入不足に関する矛盾などから得られる違法性のリスクを推定した。2009年から2019年の間にサプライチェーンに入ったイペ材のうち、違法性のリスクのないものは4分の1未満で、地域を超えた違法木材のロンダリングに関する多様な仕組みがあることが明らかになった。合法性は持続可能性を保証するものではないが、この情報は森林での規制の実施と施行の改善を支援する。

Caroline S. S. Franca, et al. Quantifying timber illegality risk in the Brazilian forest frontier. Nature Sustainability, 2023; DOI: 10.1038/s41893-023-01189-3

2023/10/25 国連大学/日本

人と地球に不可逆的影響を与えるリスクの転換点

私たちの基本的な社会生態学的システムに対するリスクに対処しないと、劇的な変化が近づく。生態系システム、食料システム、水システムなど、システムは私たちの周りに多々あり、私たちと密接に関係している。それらが劣化した場合は、単純で予測可能なプロセスが起こるのではない。むしろ、不安定性が徐々に高まり、突然転換点に達し、システムが根本的に変化するか、場合によっては崩壊し、壊滅的な影響をもたらす。本報告書では、リスク転換点は、「特定の社会生態学的システムがリスクを緩衝するなどの期待される機能を提供できなくなり、その後、これらのシステムに対する壊滅的な影響を及ぼすリスクが大幅に増加する瞬間」として定義されているす。それらの事例は、リスクの転換点が気候、生態系、社会、テクノロジーという単一の領域を超えて広がっている。そして、それらは本質的に相互に関連しており、人間の活動や生計にも密接に関連している。物理的および自然的世界が人間社会とぶつかるとき、どこかで、多くの新たなリスクが発生する。本報告書で説明されているリスク転換点の一例は、地下水の枯渇である。

The United Nations University – Institute for Environment and Human Security(UNU-EHS), 2023, Interconnected Disaster Risks Report 2023 

2023/10/25 イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校

単一モデルで雇用、マイクロバイオーム、森林の傾向を予測

微生物群集、森林、都市などの複雑な集団の成長は、非常に異なる空間的および時間的スケールで発生する。各システム固有の詳細なモデルは開発されてきたが、統一的な分析は不足している。統一的な分析により、各システムの理解が一層深まるともに、分野を超えたツールと洞察の相互理解が促進される可能性がある。そこで、共有フレームワークを使用して、ヒトの腸内微生物叢、熱帯林、都市の雇用に関する時系列データを分析した。そして、確率論的個体群動態の単一の3パラメーターモデルが、3 つのデータセットすべてにおける個体群の存在量と変動の経験的分布を再現できることを証した。種を特徴付ける3つのパラメーターとして、種の平均存在量、決定論的安定性、および確率性を利用した。その結果、規模に大きな違いがあるにもかかわらず、時間を世代単位で測定した場合、3つのシステムすべてがパラメーター空間で同様の領域を占有することが明らかになった。言い換えれば、変動は異なって見えるが、その違いは主に、各システムに関連する物理的な時間スケールの違いによるものであった。

Ashish B. George, James O’Dwyer. Universal abundance fluctuations across microbial communities, tropical forests, and urban populations. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (44) DOI: 10.1073/pnas.2215832120

2023/10/25 コペンハーゲン大学 - 理学部/デンマーク

ヨーロッパ全土の隠れた樹木を発見:10億トンのバイオマスが見逃されている

樹木はヨーロッパの景観に不可欠であるが、国の資源調査によって体系的に評価されるのは森林の資源だけである。都市および農村の樹木が国レベルの炭素蓄積にどのように寄与しているかは、ほとんど知られていない。そこで、ヨーロッパ全土の解像度3メートルの衛星画像から樹冠被覆、樹高、地上バイオマスの分布図を作成した。30か国の国家森林資源調査と比較して、バイオマス推定値には、7.6%の系統的バイアス(過大評価;R=0.98)があった。データセットは、空間分解能が十分に高く、森林外の樹木バイオマスを含めることを可能としており、総量は0.8ペタグラムであった。これは総樹木バイオマスの2%にすぎないが、国によって大きなばらつきがあり(英国では10%)、とりわけ都市部の樹木は国の炭素蓄積量に大きく寄与していると言える(オランダでは8%)。国家森林資源評価データとの一致度、スケーラビリティ、森林外の樹木を含む景観全体の詳細な空間的把握ができること等により、本アプローチは国家レベルの炭素蓄積調査をサポート可能である。

Siyu Liu, et al. The overlooked contribution of trees outside forests to tree cover and woody biomass across Europe. Science Advances, 2023; 9 (37) DOI: 10.1126/sciadv.adh4097

2023/10/23 北アリゾナ大学

北米の北方林における火災の驚くべき影響

温暖化と山火事により、北米の北方林では落葉樹の被覆率が増加すると予想されている。この組成変化は、アルベド増加を通じて地球の冷却を引き起こす可能性がある。ランドサット衛星により作成された樹冠被覆と落葉樹の組成の連続的な分布図を使用して、ここ数十年のアルベド変化を評価した。大規模火災により局所的には落葉性植生が増加したが、2000年から2015年の北アメリカ北方全域、および1992年から2015 年のカナダ全土では、落葉樹の割合が平均してわずかに純減した。全域では、アルベドに関連する正味の放射力はほぼ変化がなかった。したがって、過去数十年にわたり、森林構成に広範な変化が見られたものの、構成の正味の変化とそれに伴う火災後のアルベド放射力は、対象とした空間的・時間的範囲において、気候温暖化に対する負のフィードバックを引き起こしていないとみられる。

Richard Massey, et al. Forest composition change and biophysical climate feedbacks across boreal North America. Nature Climate Change, 2023; DOI: 10.1038/s41558-023-01851-w

2023/10/20 カールスルーハー技術研究所 (KIT)(ドイツ)

土地利用: より多くの食料生産と炭素蓄積を可能にする

現在の土地利用パターンは、歴史、伝統、生産コストなどの反映の結果であり、生物学的潜在力や、食料・水の世界的な需給、気候変動緩和などはあまり反映されていない。そこで、動的植生モデルと最適化アルゴリズムを組み合わせて、需要のトレードオフを考慮した代替土地利用法を定量化し、2090~2099年と2033~2042年の気候条件下でのパレート最適の土地利用を示した。結果は、現在の土地利用構成と比較して、3つの指標 (全世界で作物生産量+83%、利用可能な流出量+8%、炭素貯留量+3%) を増加させられる可能性を示し、土地利用の優先地域を示した。熱帯林と北方林を保存し、作物を温帯地域で生産し、牧草地を半乾燥草原とサバンナに優先的に割り当てることが最適である。最適な土地利用パターンに向けた変革は、土地管理の大規模な再構成と変更を意味するが、必要な毎年の土地利用変更は、既存の土地利用変更シナリオと同規模で実行可能と考えられる。

Anita D. Bayer, et al. Benefits and trade-offs of optimizing global land use for food, water, and carbon. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (42) DOI: 10.1073/pnas.2220371120

2023/10/19 ジョージ ワシントン大学

セミの羽化が北米の森林生態系へ及ぼす影響

2024年春に予測されているセミの大発生(数十億匹)に先立って、定期的なセミの大量羽化が森林生態系に及ぼす影響を明らかにした。周期的なセミ大発生は13年または17年ごとに発生し、騒音を発するだけでなく、鳥その他の捕食者に大量の食物をもたらす。この突然の増加が米国東部の森林における栄養動態に与える影響を調べるために、2021年のBrood Xセミの羽化の前後および発生中に調査を行った。セミが羽化しなかった年と比較して、鳥による毛虫の捕食が減り、毛虫の密度が高くなり、オークの苗木での被害率が高くなった。80種以上の鳥類が一時的にせよ食事をセミに切り替えると、毛虫の草食に対する制御力が低下するなど、短期的な突発イベントが広範囲に影響を与える。

Zoe L. Getman-Pickering, et al. Periodical cicadas disrupt trophic dynamics through community-level shifts in avian foraging. Science, 2023; 382 (6668): 320 DOI: 10.1126/science.adi7426

2023/10/18 チューリッヒ工科大学

世界で最も黒い川の一つに関する研究

コンゴ盆地の熱帯低地林にあるブラックウォーターの支流 ルキ川で、排出量を毎日、また濃度、同位体比、炭素と有機物の分子組成を隔週で、1年間(2019~2020年)測定した。コンゴ川と同様に、流量は11月から1月にピークに達し、6月には小さな二次ピークが見られる。溶存有機炭素(DOC)、無機炭素(DIC)、二酸化炭素(pCO2)、およびメタン(pCH4)濃度は高く、総排出量と正の相関があり、流量による制限を示している。総浮遊固体および粒子状有機炭素(POC)の濃度は低く、排出量に反比例し、発生源の限界を示している。ルキ川は年間3.25 TgCの流量があり、そのうち溶存有機炭、無機炭素、粒子状有機炭素はそれぞれ76%、20%、3%である。溶存有機炭素フラックスは、コンゴ盆地の約5%の面積から年間フラックスの約20%を排出していることがわかった。溶存有機炭素と粒子状有機炭素の同位体比から、現代の森林のC3植生が供給源であることを示した。これらの結果は、ルキ川の炭素濃度にかかわる水文的制御を示し、ルキ川がコンゴ盆地内の単位面積当たりの炭素排出にどのように関与しているかを示した。

Travis W. Drake,et al. Hydrology drives export and composition of carbon in a pristine tropical river. Limnology and Oceanography, 2023; DOI: 10.1002/lno.12436

2023/10/17 コロラド大学ボルダー校

ロッキー山脈北部の亜高山林は今のところ火災に強い

林野火災は、炭素と栄養素の循環、植生の動態などの森林生態系プロセスに大きな影響を与える。気候変動で林野火災が増加する中、多くの森林生態系の回復力は依然として不明である。 そこで、数十年から数千年にわたる気候変動や山火事活動に対する森林生態系の回復力を調べるために、モンタナ州シルバーレイク(北緯47.360°、西経115.566°)における4800年間の湖堆積物記録を高精度で作成した。木炭粒子、花粉粒、元素濃度、および炭素Cと窒素Nの安定同位体は、亜高山帯森林流域内の火災、植生、窒素循環や土壌侵食などの生態系プロセスにおける過去の変化を知る手がかりとなった。火災と生態系応答の古記録から、気候の長期的な変動に耐える生態系の回復力が示された。20世紀および21世紀と比較して過去数千年の方が火災の頻度が高かった。被災後数十年以内に生態系回復が継続実行されるのであれば、ロッキー山脈北部の亜高山生態系が将来の火災の増加に対して回復力を維持できる可能性があることを示唆している。

Kyra D. Clark‐Wolf, et al. Fire‐regime variability and ecosystem resilience over four millennia in a Rocky Mountain subalpine watershed. Journal of Ecology, 2023; DOI: 10.1111/1365-2745.14201

2023/10/17 アメリカ物理学研究所

気候ネットワーク分析で異常気象のリスクが高い地域を特定

テレコネクションは、通常数千キロメートルにわたって発生する長距離気候システムのリンクを指す。一般的には、ほとんどのテレコネクションはエネルギー伝達と波伝播に起因すると考えられるが、背後にある物理的な複雑さと特性は完全には理解されていない。そこで、気候ネットワークベースの分析により、それらの方向と分布パターンを明らかにし、テレコネクションの強度を評価するとともに、地球規模の毎日の表層気温データを使用して敏感な地域を特定した。1948年から2021年におけるテレコネクションの安定した平均強度分布パターンを時空間的に明らかにし、テレコネクションの影響の範囲と強度が過去37年間で南半球でより顕著に増加していることを示した。さらに、オーストラリア南東部など、地球温暖化による気候変動の影響を受けやすい地域を特定した。

Shang Wang, et al. Exploring the intensity, distribution and evolution of teleconnections using climate network analysis. Chaos: An Interdisciplinary Journal of Nonlinear Science, 2023; 33 (10) DOI: 10.1063/5.0153677

2023/10/17 ヴュルツブルク大学(ドイツ)

AIで熱帯雨林の動物の鳴き声から生物多様性を特定

熱帯林回復は、気候と生物多様性危機の絡み合った状況に対処する基礎である。再生する樹木は炭素を比較的速く蓄積するが、生物多様性の回復ペースについては議論の余地がある。本報告では、生物音響学とメタバーコーディングを使用して、エクアドルの世界的な生物多様性ホットスポットにおける農地後の森林回復を計測した。鳴き声を発する脊椎動物の種の豊富さではなく、群集構成が多様性の回復過程を反映していることを示した。音響指数モデルと鳥の群集構成を自動計測し、回復過程との相関を示した (それぞれ、adj-R²=0.62 と 0.69)。どちらの計測値でも、メタバーコーディングによって、鳴かない夜行性昆虫の組成を反映している。堅牢で再現可能なデータを得ることのできるこのような自動監視ツールは、森林回復過程の監視に有効である。

Jörg Müller, et al. Soundscapes and deep learning enable tracking biodiversity recovery in tropical forests. Nature Communications, 2023; 14 (1) DOI: 10.1038/s41467-023-41693-w

2023/10/16 イースト・アングリア大学

山火事が気候変動に重要なアマゾンの環境を脅かす

アマゾン地域の持続的管理は、地球規模の気候変動を緩和し、生物学的および文化的多様性を保護するために不可欠である。しかし、土地転換が、主に伐採、採掘、牧畜のために行われ、さまざまな規模で社会的、経済的、環境的負荷を引き起こした。心強いことに、現在の連邦政権下でアマゾン保護に向けた回復の兆しが見え始めている。ただし、森林伐採が減少する中、制御不能な火災の脅威が増加している。ブラジル国立宇宙研究所 (INPE)のTerraBrasilisウェブサイトは、森林破壊、森林被覆変化、火災に関するインタラクティブな図面を提供している。たとえば、2023年にはすでに森林破壊率が低下していることが示されており、1月から7月にかけての森林破壊警報は2022年の同時期と比べて42%減少した。さらに、生態系と先住民コミュニティ (特にヤノマミ族の領域) を脅かす大規模な違法採掘作業が縮小している。しかし、この減少の根本的な原因は依然として不明で、森林伐採減少の兆候があるにもかかわらず、アマゾンは火災の急増に直面している。気候変動による干ばつと熱波は、主にアグリビジネスによって引き起こされた森林破壊と断片化と相まって、火災が森林劣化と森林喪失の主な原因となっている。

Gabriel de Oliveira, et al. Increasing wildfires threaten progress on halting deforestation in Brazilian Amazonia. Nature Ecology & Evolution, 2023; DOI: 10.1038/s41559-023-02233-3

2023/10/12 ロンドン大学

世界中で気候適応にかかわる調整が不足

気候変動への適応に対する世界的な進捗状況評価が必要とされている。適応には多様な社会が主体的に関与し、責任感を共有すべきであるにもかかわらず、国家と非国家などの主体の種類や、さまざまな適応応答、地域における役割についてはほとんど知られていない。事例研究の大規模なn-構造分析を行い、個人または世帯が適応を実施する最も顕著な主体であるにもかかわらず、特にグローバル・サウスにおいては、制度的対応に関与していないことを示した。ほとんどの場合、政府は計画の策定に関与し、市民は対応の調整に関与する。個人や世帯における適応は、特に農村部では調査されており、都市部では政府が調査している。制度、複数の主体、また変革的適応にかかわる理解は依然として限られている。これらの知見は、適応のための「社会契約」、つまり役割と責任の配分に関する合意をめぐる議論に貢献し、将来の適応ガバナンスに情報を与えるものである。

Jan Petzold, et al. A global assessment of actors and their roles in climate change adaptation. Nature Climate Change, 2023; DOI: 10.1038/s41558-023-01824-z

2023/10/12 ロンドン大学

世界の水資源の状況に関する第2回報告書発刊

世界気象機関(WMO)は、世界の水資源の状況に関する第2回報告書を発表した。2022年は世界の大部分で、過去30年間の各季節で平均記録よりも乾燥した。調査対象地域の40%近くが、通常よりも乾燥した状況に苦しんだ。これは、世界中の多くの河川の流量が通常の予想を大幅に下回ったことを意味する。さらに、土壌中の水分レベルは、熱波の影響を頻繁に示し、水の使用量も増えたため、地下水面が平常時よりも低下した。なお、この報告書は、WMOが調整機関となり、11の国際モデリンググループが提供する専門知識に基づいて作成されている。 前回のレポートでは38観測点であったが2022年版では273観測点に増加した。しかし、観測点は14か国のみで、アフリカ、中東、アジアなどの地域は依然として不足している。空間解像度は向上し、世界中の1,000以上の河川流域をカバーするようになった。

The World Meteorological Organization (WMO), 2023, Status of global water resources 2022 Report. ISBN 978-92-63-11333-7

2023/10/12 ロンドン大学

花粉媒介者の喪失によりコーヒーとカカオの木が危機に瀕する

花粉媒介昆虫の多様性は急速に変化しており、作物受粉に影響を与える可能性がある。しかし、花粉媒介者の多様性の変化における、土地利用と気候変動の相互作用、および作物受粉の変化の結果としての経済的影響については、依然として十分に理解されていない。そこで、花粉媒介者の豊かさに対する、気候変動と土地利用の相互作用の世界規模の評価と、推定される変化による作物受粉のリスクを予測した。2,673箇所、3,080種の花粉媒介昆虫種データセットを使用して、農業と気候変動の相互作用が昆虫の花粉媒介者の大幅な減少をもたらすことを示した。その結果、花粉媒介者の喪失による作物生産へのリスクが熱帯地域で最も大きくなることが予想された。局地的リスクが最も高く、最も急速に危険性が進行すると予測されたのは、サハラ以南のアフリカ、南アメリカ北部、東南アジアの地域である。花粉媒介者の喪失のため、気候変動と農地利用が人間の幸福に対するリスクとなる可能性がある

Joseph Millard, et al. Key tropical crops at risk from pollinator loss due to climate change and land use. Science Advances, 2023; 9 (41) DOI: 10.1126/sciadv.adh0756

2023/10/11 ユタ大学

コケやブロメリアなどの着生植物が脅威に直面している

着生植物とそれに関連する生物相は、生物多様性に貢献し、世界の森林で重要な生態系機能を果たす。しかし、樹冠を生育環境とするため、自然的および人為的な環境変動に対して脆弱である。本研究では、着生植物に対する撹乱の要因と影響を分類し、総括した。熱帯と温帯で、森林撹乱はマイナスの影響をもたらす可能性が非常に高い。多くの研究が、資源量、多様性、群集の構成および持続性に対する悪影響を報告しているが、一部の研究では、撹乱がこれらの特性を強化することを示している。特定の撹乱因子が、全体の変動のかなりの部分を説明するが、人為的な影響と比較して、自然的な影響の方が悪影響をもたらす可能性がより高い。多くの研究は、林業で大きな古木を残すこと、着生植物が生育できるようなパッチ状伐採をすること、森林断片サイズを最大化すること、撹乱の生物指標として着生植物を使用すること、地域林業の原則を土地管理に適用することなど、悪影響を軽減するための効果的な推奨事項を提示している。今後の行動では、これらの結果を政策立案者や土地管理者へ伝えることが必要である。

Nalini M. Nadkarni. Complex consequences of disturbance on canopy plant communities of world forests: a review and synthesis. New Phytologist, 2023 DOI: 10.1111/nph.19245

2023/10/11 カリフォルニア大学デイビス校

バイオマスの良い利用法と悪い利用法:大気の質と気候政策に良いバイオ燃料への転換

カリフォルニアには大規模かつ多様なバイオマス資源があるが、カリフォルニア州も環境および社会経済的目標を達成するためにバイオマスと廃棄物の利用を最適化する必要がある。レビューにより、カリフォルニアにおけるバイオマス利用と、それに伴う気候と大気の質への影響を評価した。バイオマス利用には、再生可能燃料、電力、バイオ炭、堆肥、その他の市場性のある製品の生産が含まれる。最近開発されたバイオマス利用については、温室効果ガス (GHG) 排出への影響 に関する情報が入手可能であるが、基準汚染物質への影響については公開されている情報は少ない。本レビューでは、温室効果ガスまたは汚染物質の排出、またはその両方に有益な影響を与える34のバイオマス利用、つまり「良いこと」を特定した。これらには、発電のための森林バイオマスの燃焼や、嫌気性消化による家畜関連バイオマスのバイオガスへの変換が含まれる。また、このレビューでは、GHG排出量、基準汚染物質排出量、またはその両方に悪影響を与える13のバイオマス利用、つまり「悪いこと」も特定した。

Peter Freer‐Smith, et al. The good, the bad, and the future: Systematic review identifies best use of biomass to meet air quality and climate policies in California. GCB Bioenergy, 2023; DOI: 10.1111/gcbb.13101

2023/10/9 リーズ大学/イギリス

14,300年前の年輪から史上最大の太陽嵐を特定

南フランスアルプスのドゥルーゼ水路の土手で得られたスコッツパインの亜化石から計測された14Cの計測結果を紹介。15本の樹木から年ごとにサンプリングした約400の14C年齢を分析した。結果として得られたΔ14C記録から、14,300〜14,299 cal BPの1年間で発生した突然のスパイクと、14,000〜13,900 cal BPの100年間にわたるイベントが確認された。これらのイベントの原因を特定するために、ドゥルーゼのΔ14C記録と炭素循環モデルの入力として使用されるグリーンランドの氷の10Be記録に基づくΔ14Cのシミュレーションを比較した。その結果、14,300 cal BPのイベントを太陽エネルギー粒子の影響(太陽風)として説明できた。対照的に、14,000 cal BPのイベントは約1世紀続き、太陽磁場による銀河宇宙粒子の変調に関連した一般的なマウンダー型太陽極小期の影響である可能性が最も高いと考えられる。

Edouard Bard , et al. A radiocarbon spike at 14 300 cal yr BP in subfossil trees provides the impulse response function of the global carbon cycle during the Late Glacial. The Royal Society's Philosophical Transactions A: Mathematical, Physical and Engineering Sciences, 2023 DOI: 10.1098/rsta.2022.0206

2023/10/9 ペンシルベニア州立大学

気候変動がもたらす猛暑により地球の一部が人間には暑すぎるようになる

気温と湿度が高くなると、人々と社会を脅かす。本報告では、バイアス補正した気候モデルから将来の熱ストレスリスクを予測するために、さまざまな気温と相対湿度の条件に実験室で測定された生理学をベースとした湿球温度の閾値を組み込んだ。この閾値を超えると、危険で取返し不可能な湿度-熱ストレスが及ぼすリスクを大幅に増大させる。最も人口の多い地域、通常は湿潤な熱帯や亜熱帯の下位中所得国では、3°Cの温暖化になるかなり前にこの閾値を超える。地球温暖化がさらに進むと、北米や中東など、より乾燥した地域に拡大する。これらの異なるパターンは、熱への適応性が地域によって大きく異なることを意味する。温暖化を2°C以下に制限すれば、このリスクはほぼ無くなる。

Daniel J. Vecellio, et al. Greatly enhanced risk to humans as a consequence of empirically determined lower moist heat stress tolerance. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (42) DOI: 10.1073/pnas.2305427120

2023/10/4 ヘルシンキ大学/フィンランド

保護区域内の鳥の種は予想よりも早く変化する

生物多様性保全はその保護地域に大きく依存するが、温暖化下での保護地域の役割と有効性については議論が続いている。本研究では、カナダ南部の保護区域内外の気候による鳥類群集の温度ニッチ変化を推定した。そのため、カナダの繁殖鳥類調査(the Breeding Bird Survey of Canada)の大規模かつ長期(1997~2019年)のデータを使用した。鳥類群集の温度ニッチを得るために、保護区域内外の毎年の群集温度指数(CTI)を計算し、時間的変化をモデル化した。一般に、暖地生息種は高い群集温度指数値を示すが、どの種が群集温度指数の時間的変化に最も関与したかを特定した。予想通り、保護地域内の群集温度指数は域外よりも低かった。しかし、予想に反して、保護区域内では群集温度指数の増加が保護区域外よりも速く、その群集温度指数変化に最も関与したのは温暖地生息種であった。これらの結果は、温暖化の影響が遍在的であることを示している。現在、保護区域は寒冷地の生息種を助けているが、温暖化するにつれて、保護区域内の群落の温度組成はすぐに保護区域外の組成に類似し始めることが示唆された。

Leena Hintsanen, et al. Temperature niche composition change inside and outside protected areas under climate warming. Conservation Biology, 2023; 37 (5) DOI: 10.1111/cobi.14134

2023/10/4 米国国立大気研究センター/大気研究センター校

米国西部で同時多発的な大規模林野火災が増加:消防力が逼迫する

林野火災が同時発生すると、火災に対応するリソースの利用可能性と配分に影響を与える。複数の小規模な火災は、1つの大規模火災よりも多くのリソースを必要とする。1984年から2016年までの気象と火災のデータに基づいて、過去の林野火災の同時発生性をモデル化した。そして、それらをNA-CORDEXデータアーカイブからの21世紀の地域気候モデルシミュレーションデータに適用した。その結果、米国西部のあらゆる地域で、4平方km以上の同時発生火災が増加すると予測された。特にロッキー山脈北部では、再発が劇的に増加する。また、すべての地域で、同時発生する長いシーズンが予測され、始まりの次期はわずかに早く、終了次期は極めて遅くなると予測された。これらの変化は火災対応に悪影響を及ぼす可能性がある。本結果は火災管理において同時発生性の変化を組み込むことの重要性を強調するもので、リソースの配分、事前配置、鎮圧等の決定では火災の同時発生を考慮する必要がある。

Seth McGinnis, et al. Future regional increases in simultaneous large Western USA wildfires. International Journal of Wildland Fire, 2023; 32 (9): 1304 DOI: 10.1071/WF22107

2023/10/3 カリフォルニア大学ロサンゼルス校

火入れは林野火災の防止に役立つ:しかし、気候変動はその有効性を制限する

 米国西部では林野火災の激化により、社会への悪影響が加速している。林野火災の深刻度の拡大と地域社会への影響拡大には、遺物的な消火体制、高リスク地帯での開発増加、気候温暖化による乾燥化など、さまざまな人為的要因がある。また、植生管理手段として「火入れ」を意図的に使用することで、大規模火災のリスクを軽減し、生態系の回復力を向上させることが期待される。しかし、火入れで望ましい結果が得られるのは、天候や植生条件によるなど、いくつかの制約事項がある。本報告では、米国西部で火入れ可能な日数と季節性について、観測および予測された傾向を示した。2060年までに約2℃の地球温暖化により、そのような日は全体的に減少し(-17%)、特に春(-25%)と夏(-31%)に減少する一方、冬(+4%)では良好な気候になる可能性があることが予測された。特に北部の州では、火入れは比較的有効である。

Daniel L. Swain, et al. Climate change is narrowing and shifting prescribed fire windows in western United States. Communications Earth & Environment, 2023; 4 (1) DOI: 10.1038/s43247-023-00993-1

2023/10/3 セルプレス

炭素を回収するはずの熱帯の植林地はほぼ無益で生物多様性を脅かしている

 

植林による炭素蓄積は、炭素排出を相殺する有力な方法とされている。しかし、自然生態系を炭素という1つの指標に落とし込んでしまう危険性がある。生態系サービス、生物多様性保全、炭素蓄積のバランスをとるための生態系回復に重点を置く方が適切である。

Jesús Aguirre-Gutiérrez, Nicola Stevens, Erika Berenguer. Valuing the functionality of tropical ecosystems beyond carbon. Trends in Ecology & Evolution, 2023; DOI: 10.1016/j.tree.2023.08.012

2023/10/2 南メソジスト大学/米国テキサス州

過去も現在も気候と土地利用が太平洋島の林野火災に影響を与えている

 

太平洋の離島(オセアニア)では、3,000年前に人類が定住して以来、劇的な環境変化がもたらされた。そこでは、人間による環境悪化が、人間社会に内在する破壊的傾向の証拠とみなされてきた。本報告では、深層土壌コアから採取した木炭と炭素安定同位体を使用して、林野火災と森林減少とを分析した。林野火災は人間が定住する何千年も前からあったたが、火災規模と景観変化は、焼畑農業の拡大とともに加速した。紀元前3,200年から2,900年の間に移住したオセアニアの他の場所とフィジーでの研究を比較したところ、定住前後の火災と景観変化に同様の関係があったことが明らかになった。定住前の火災は一般的に干ばつに対応しており、おそらくエルニーニョによって引き起こされた。定住後は、木炭とC4草本は劇的に増加したが、木炭と草本のほぼすべての主要なピークは大きなエルニーニョに対応していた。これらは、火災と森林減少が土地利用変化だけでなく、焼畑農業と気候との相互作用の産物であることを示している。

Christopher I. Roos, et al. Fire activity and deforestation in Remote Oceanian islands caused by anthropogenic and climate interactions. Nature Ecology & Evolution, 2023; DOI: 10.1038/s41559-023-02212-8

2023/10/2 オランダ王立海洋研究所

沈下する海岸線をマングローブ林で持続的に保護

 

沿岸の農村地域はマングローブや湿地などの保護的な沿岸生態系の存続に大きく依存しているが、人為的に引き起こされる地盤沈下により、多くの沿岸地域が年間数センチ沈下し、相対的海水準上昇(relative sea level rise:RSLR)が悪化している。相対的海水準上昇に直面している低地農村地域の将来に光を当てるために、年間8~20cm で沈下しているインドネシアの都市に隣接する長さ20kmの海岸線を調査した。マングローブ林での水位と、村の家の床高を計測し、村では水位の急速な上昇が見られる一方、保護されたマングローブ林では相対的海水準上昇の急激な変化はそれほど大きくないことが分かった。しかし、海岸線の後退に伴って、相対的海水準上昇の発生率は以前の最大4倍に達し、沿岸地域の人々が移住を余儀なくされている。地域の相対的海水準上昇は地下水資源の管理を改善することで削減される可能性があるが、相対的海水準上昇の影響は、地方政府や地域政府の政策が及ばない世界規模で誘発された海面上昇に直面している農村地域に暗い見通しを与えている。

Celine E. J. van Bijsterveldt, et al. Subsidence reveals potential impacts of future sea level rise on inhabited mangrove coasts. Nature Sustainability, 2023; DOI: 10.1038/s41893-023-01226-1

23/9/27 アリゾナ大学

年輪から太平洋岸北西部の新たな地震の脅威が明らかに

ほぼ同時の破壊をもたらす複数の断層で起こる複合地震は、多くの場合、その地域の最大マグニチュードをもたらします。しかし、有史以来こうした現象が起こったのはまれで、連鎖する断層地震の可能性については依然としてよく分かっていません。地質学的記録が長期的な予測に使われますが、不確実性が大きすぎるため、複数の断層活動を明確に特定することはできません。本研究では、年輪年代測定と宇宙放射線を利用して、ワシントン州シアトル近郊の2つの隣接する断層帯に沿った地震で被災した樹木の枯死日を、西暦923年から924年の生育期の6か月以内と特定できました。これは、推定マグニチュード7.8の複合地震、または推定マグニチュード7.5と7.3の近隣の連続地震で連鎖的破壊が発生したことを示しています。現在のハザードモデルでは認識されていないこの事象は、現在住民が400万人を超えるピュージェット湾地域内での耐震対策と工学的な設計に必要な最大地震規模を増大させるものです。

Bryan A. Black, et al. A multifault earthquake threat for the Seattle metropolitan region revealed by mass tree mortality. Science Advances, 2023; 9 (39) DOI: 10.1126/sciadv.adh4973

23/9/25 カリフォルニア大学サンディエゴ校

植物を気候変動から守るにはどうすればよいか? 植物に聴く

気候変動を考えると、気候ニッチの推定を改善することは重要です。植物の気候への適応は、その生理学的特性と分布に依存しますが、種の気候ニッチの推定に生理学的特性が使用されることはほとんどありませんでした。多くの生態学的要因や遷移過程上の問題で、種の特性がその本来あるべき気候から分離されてしまうことがあるので、生理学的特性に基づくアプローチの有効性については議論の余地があります。本報告では、カリフォルニアの6つの生態系にまたがる107種を対象に、標準的特性の測定や一緒に生育する植物のサンプリングなどを用い、これまでの研究の方法論を改善して、葉と幹の機構的特性で種の平均的な気候分布を予測できることを示しました。さらに、種の特性と気候の不一致度を定量化する手法も示しました。そして、種の特性から種の平均的気候が精度よく予測できることを示しました。種の平均気候に近い個体の特性がサンプリングされると、種の平均気候の予測がよりよくなります (不一致が少なくなる)。種の気候ニッチの精度を向上させることは、今後数十年間の気候変動の脅威にさらされるであろう脆弱な種の保全に重要な情報を提供することができます。

Camila D. Medeiros, et al. Predicting plant species climate niches on the basis of mechanistic traits. Functional Ecology, 2023; DOI: 10.1111/1365-2435.14422

23/9/25 カリフォルニア大学サンディエゴ校

気候変動対策に行動を起こさせるには「名指しや非難」が効果的なこともある


効果的な国際協力にとって強制力の行使は課題です。人権法や環境法、その他多くの国際協力分野では、より強力な代替手段がない場合、執行メカニズムとして「名指しと非難」がよく使われます。名指しと非難は、努力が不十分な国を特定し、より良い行動に向けて効果的に恥をかかせる能力にかかっています。このアプローチに関する研究では、国家の行動に影響を及ぼし、より協力を促す要因を特定するのに苦労しています。パリ協定の策定に関与した経験豊富な外交官の大規模な(N = 910)サンプル調査により、名指しと非難が最も受け入れられており、質の高い政治制度や、気候変動に対する国内の強い懸念、野心的で信頼できる国際的な気候変動への取り組みを持つ国々の行動に効果的な影響を与えることを見出しました。しかし、それ以外の国では、名指しと非難はそれほど効果的ではないため、真の世界的な協力のためにはさらなる強制力メカニズムが必要となります。気候変動対策への意欲が低い国々では名指しと非難が効果的に機能しないことや、 名指しや非難をする者を優先することが最も効果が低いと思われるなどが、気候変動に関する協力をより強制力のあることにする中心的な政策議論になるべきでしょう。

Astrid Dannenberg, et al. Naming and shaming as a strategy for enforcing the Paris Agreement: The role of political institutions and public concern. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (40) DOI: 10.1073/pnas.2305075120

23/9/25 カリフォルニア大学アーバイン校

シエラネバダ山脈の林野火災の原因を解明

ここ数十年で、カリフォルニア・シエラネバダ山脈における年間の林野火災面積は大幅に増加しました。この被災面積の増加は、歴史的な森林管理が燃焼物の組成と生成にどのような影響を与えたかを理解することの重要性を高めています。本研究では、カリフォルニアの2021年の山火事シーズン中に発生し、シエラネバダ南部のジャイアントセコイアのいくつかの林に影響を与えた、KNP複合火災によって放出された粒子状物質(PM)の総炭素(TC)濃度と放射性炭素量(Δ14C)を調べました。時系列におけるPM2.5、CO、CH4間の高い相関関係から、PM2.5の測定が山火事排出量の変動を捉えていることが確認されました。火災で燃焼した平均樹齢は40年(29~57年の範囲)であると推定されました。これらの結果は、燃焼物が、数十年にわたって蓄積された、木質バイオマス、大きな直径の良く燃える材、および粗い木質破片に由来する可燃物であることを示しています。これは、強い火災強度で、ジャイアントセコイアを広範に焼失させた野外観察と一致しています。カリフォルニアでは林野火災の影響を軽減するために今後10年間に「人為的火入れ」の利用拡大が計画されていますが、本成果は有効な可燃物処理の地域的な統合化に有効です。

A Odwuor, et al. Evidence for multi-decadal fuel buildup in a large California wildfire from smoke radiocarbon measurements. Environmental Research Letters, 2023; 18 (9): 094030 DOI: 10.1088/1748-9326/aced17

23/9/25 ポートランド州立大学

将来の気象パターンはどう変化するか

最近の地球温暖化シナリオに基づいて、大気循環パターン、その頻度、および関連する気温と降水量の異常に関する気候モデル予測を、21世紀最後の30年間の北米の太平洋岸北西部を対象として行いました。モデルシミュレーションは「結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)」のフェーズ6によるもので、循環パターンは自己組織化マップ(SOM)を使用して特定し、500-hPaの地ポテンシャル高(Z500)での異常検出を行いました。全体として、予測された循環パターンは特に冬には現在の気候と同様ですが、夏にはZ500での異常の大きさが全体的に減少すると予測されました。夏には頻度パターンの大幅な変化も予測されており、Z500での大きな異常を伴う頻度パターンは全体的に減少しました。冬には、高緯度の歴史的に非常に寒いところが最も気温上昇すると予測され、夏には内陸部で最大の気温上昇が予測されました。降水量は、すべての季節およびほとんどの循環パターン(SOM)で増加します。しかし、現在の気候で平均を上回る降水量を伴っている一部の夏では、今世紀末までに大幅に乾燥化することがあると予測されました。

Graham P. Taylor, et al. Projections of Large-Scale Atmospheric Circulation Patterns and Associated Temperature and Precipitation over the Pacific Northwest Using CMIP6 Models. Journal of Climate, 2023; 36 (20): 7257 DOI: 10.1175/JCLI-D-23-0108.1

23/9/21 ハワイ大学マノア校

過去1世紀にわたって長期のラニーニャ現象がより一般的になった

1998年以降のラニーニャ現象6件のうち5件は2~3年続きました。なぜ最近、これほど多くの長期(複数年に渡る)ラニーニャ現象が発生しているのだろうか、また今後さらに一般的になるのだろうか。本報告では、過去100年間に発生した10件の複数年ラニーニャ現象が増加傾向にあり、そのうち8件は1970年以降に発生したことを示しました。この期間における2種類の複数年ラニーニャ現象は、スーパー エルニーニョまたは中部太平洋エルニーニョのいずれかに続いて発生しました。複数年のラニーニャ現象は、顕著な発生率で単年のラニーニャとは異なることがわかりました。気候シミュレーションの結果は、観測された複数年にわたるラニーニャ現象と西太平洋の温暖化の関連を裏付けています。西太平洋が中部太平洋に比べて温暖化し続ければ、複数年にわたるラニーニャ現象がさらに発生し、社会経済への悪影響がさらに悪化するでしょう。

Bin Wang, et al. Understanding the recent increase in multiyear La Niñas. Nature Climate Change, 2023; DOI: 10.1038/s41558-023-01801-6

23/9/21 シラキュース大学(米国ニューヨーク州)

気候温暖化がいかに根深い関係を破壊するか

外生菌根菌は、温帯および北方のほとんどの樹木に遍在する重要な共生生物であり、同じまたは異なる種の複数の宿主と相互作用ネットワークを形成します。根に関連する外生菌根菌群集のDNAメタバーコーディングを使用して、土壌水分と樹木の宿主の炭素状態が、樹木とその共生菌類の間の密接な相互作用ネットワークの重要な生態学的決定要因として機能することを示しました。人為的な温暖化と降水量減少の実験は、相互作用するネットワーク接続性の大幅な減少に対応して、外生菌根菌群集の分類学的および機能的構成に変化をもたらしました。土壌水分を減らし樹木の宿主の能力を低下させる気候変動シナリオは、高緯度の森林で樹木と菌類によって形成される相互作用ネットワークを混乱させる可能性が高いことが示唆されます。

Christopher W. Fernandez, et al. Climate change–induced stress disrupts ectomycorrhizal interaction networks at the boreal–temperate ecotone. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (34) DOI: 10.1073/pnas.2221619120

23/9/20 ハイデルベルク大学(ドイツ)

植物と森林の研究者は植物を「擬人化」しない

森林樹木の根をつなぐ共通の菌根ネットワーク (CMN またはウッドワイドウェブ) の本当の役割についての疑問が高まっています。菌根ネットワークを介して「母樹」からその子孫や近くの苗木に相当量の炭素が移動するという主張に疑問を抱いています。最近の調査では、「母樹の概念」の証拠は決定的ではないか、存在しないことが示されています。この概念の起源は、植物を人間らしく表現したいという願望から生じているように見えますが、誤解や誤った解釈を招く可能性があり、最終的には森林保護という称賛に値する大義を助けるどころか害を及ぼす可能性があります。最近の2冊の本、「The Hidden Life of Trees」と「Finding the Mother Tree」がその例です。

David G. Robinson, et al. Mother trees, altruistic fungi, and the perils of plant personification. Trends in Plant Science, 2023; DOI: 10.1016/j.tplants.2023.08.010

23/9/20 アメリカ地質学会

気候変動を効果的に視覚的に伝える

心理科学を気候科学のグラフ作成に活用し、特に科学者以外とのコミュニケーションにおいて、より有意義で有用なグラフを得ることができます。この研究では、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5)のグラフを再作成し、事前/事後調査、視線の動き、グラフの使いやすさ、順位付け、質問などにおいて、元のデザインと新しいデザインの間で参加者の注目度と認識度を比較しました。ロバストな(堅牢な)グラフ再作成プロセスと、それに関連するグラフの使いやすさ、グラフと科学的信頼性、気候変動に関連するリスクに対する参加者の認識への影響を示しました。これらの調査結果は、気候変動グラフとの対話が、政治的な聴衆者や自称保守派の中で、気候変動に対処する行動を起こす個人の動機に影響を与える可能性があることを示しました。また、ベストプラクティスと一致するように作成されたグラフを見た参加者は、気候科学の信頼性と気候変動リスクに対する認識がより増しましたが、その差異は統計的に有意ではありませんでした(p > 0.05)。参加者は、再作成されたグラフがより信頼できると評価しました。これは、気候変動のコミ​​ュニケーションを成功させるために不可欠でしょう

Steph L. Courtney, Karen S. McNeal. Seeing is believing: Climate change graph design and user judgments of credibility, usability, and risk. Geosphere, 2023; DOI: 10.1130/GES02517.1

23/9/20 ノーサンブリア大学(英国)

アジアの冬季モンスーンの理解を深める

東南アジアの冬と夏のモンスーンは重要な気象現象ですが、降雨源は非常に変わりやすい。特に、冬季モンスーンに関する現在の理解は、地域的な大気循環パターンと局所的な降雨力学の切り離しから生じる煩雑な観測情報のために困難です。そして、これらの情報は従来の古気候復元では解釈することが困難です。本報告では、完新世をカバーする東南アジアの冬季モンスーンの鍾乳石記録を得て、太平洋とインド洋での変化によって、冬と夏の降雨量が周期駅に変化したことを見出しました。対照的に、地域的な大気循環は、北半球の日射量によって制御されるため、冬と夏では逆の関係を示しています。古気候の復元において、局地的シグナルと地域的シグナルを分離することが、東南アジアにおける冬季と夏季のモンスーン変動を理解および予測する上で重要であることを示しています。

Annabel Wolf, et al. Deciphering local and regional hydroclimate resolves contradicting evidence on the Asian monsoon evolution. Nature Communications, 2023; 14 (1) DOI: 10.1038/s41467-023-41373-9

23/9/20 マサチューセッツ工科大学

世界的な森林破壊の危機にどう立ち向かうか

熱帯林破壊に対する学術的および政策的関心が高まっている要因が2つあります。1つは、熱帯林破壊が気候変動の主な要因のひとつであるという認識です。第二に、衛星による計測が急速に進歩していることです。まず、世界中で高い空間解像度での森林減少の計測を可能にした技術進歩をレビューしました。次に、森林破壊のベンチマークモデルを開発しました。このアプローチを拡張して、発展途上国の森林破壊を特徴づける因子(土地利用変更の圧力、地域的および世界的な重大な外因性、弱い財産権、政治経済的制約など)を組み込み、熱帯林破壊に関して、急速に増加している経済学的な実証文献をレビューしました。この理論と経験の組み合わせは、熱帯林破壊の経済的要因と影響だけでなく、その進行に影響を与える政策についても洞察を与えています。さらに、この分野においてさらなる研究が必要な領域を特定しました

Clare Balboni, et al. The Economics of Tropical Deforestation. Annual Review of Economics, 2023; 15 (1): 723 DOI: 10.1146/annurev-economics-090622-024705

23/9/18 フリンダース大学(オーストラリア)

コアラ生息地のほぼ半分が山火事の脅威にさらされる

現在および 2070 年の火災感受性マップを作成し、現在および将来の気候変動下で山火事がコアラにもたらす脅威を特定しました。対象としたのは、コアラと関係する主な樹種60種です。手法としては、デシジョンツリー機械学習アルゴリズムを適用して、地域状況のデータセットを使用して火災感受性指数 (特定の地域または地域で山火事が発生する可能性の尺度) を生成しました。状況データは、高度、方位、降雨量、河川からの距離、距離道路、森林タイプ、地質、コアラの存在と将来の食物源、土地利用-土地被覆 (LULC)、正規化植生差分 (NDVI)、傾斜角、土壌、気温、風速などです。その結果、オーストラリアの植生が森林火災に対する感受性が全般的に増加しているがわかりました。現在の状況に関するシミュレーションでは、コアラの生息地全体の39.56%が火災に対する感受性評価が「非常に高い」または「高い」であり、それが2070 年までに44.61%に増加することが示された。山火事は将来、コアラの個体数にますます大きな影響を与えるでしょう。コアラを保護するには、この脅威に対処するために保護戦略を持つ必要があります。コアラの生息地と生息数が火災によって完全に破壊されないようにしながら、定期的な火入れによる森林の若返りと再生を可能にするというバランスを取ることが重要です。

Farzin Shabani, et al. Habitat in flames: How climate change will affect fire risk across koala forests. Environmental Technology & Innovation, 2023; 32: 103331 DOI: 10.1016/j.eti.2023.103331

23/9/17 ノースカロライナ州立大学

イースタンヘムロックの樹冠間の隙間は侵入昆虫から生き残るのに役立つ

ヘムロックアデルギッド(Adelges tsugae Annand) は、北アメリカ東部の樹種イースタンヘムロックの持続可能性を脅かす森林侵入昆虫です。この研究では、下層のヘムロックの上の林冠に小さな隙間をあけることが、アデルギッドの総合的な害虫管理に有効な手法であることを示しました。アパラチア山脈南部の緯度の異なる3か所で、アデルギッドの密度、ヘムロックの樹冠の健全性、ヘムロックの成長、および競合する樹種の再生に及ぼす影響について、2つのギャップサイズと2つのギャップ作成方法で評価しました。樹冠ギャップを空けた場合は、樹冠ギャップを空けない場合と比べて、アデルギッドの密度が同等以上であるにもかかわらず、ヘムロックの樹冠と直径成長に及ぼすプラスの効果が見られました。樹冠の隙間(主要な樹高の半径約 1/4 から 1/2)における太陽光(およびおそらく他の限られた資源)の利用可能性の増加が、アデルギッドの侵入に対するヘムロックの生理学的耐性を改善し、より多くの効果的な環境を提供するとともに、アデルギッドを含む捕食性昆虫の餌となる新芽のより安定した供給をもたらすことにより、生物学的防除を補完する可能性があると考えられます。

Albert E. Mayfield III, et al. Silvicultural canopy gaps improve health and growth of eastern hemlocks infested with Adelges tsugae in the southern Appalachian Mountains. Forest Ecology and Management, 2023; 546: 121374 DOI: 10.1016/j.foreco.2023.121374

23/9/15 オックスフォード大学

多種の苗木を混植すると伐採地回復が促進される

制御された条件下での実験では、生態系機能が生物多様性レベルとプラスの関係があることが示されていますが、これらが現実の環境下でどの程度あてはまるのか、またその知見を生態系回復に活用できるかどうかは不明でした。そこで、2002年に開始された長期の野外での熱帯林回復実験の最初の10年間で、植栽木の多様性が500haの択伐林の回復にどのような影響を与えるかを種々の衛星リモートセンシングデータを使用して調べました。系統的および機能的多様性がより高い苗木の種を豊富に混交した再植林では、地上部バイオマス、樹冠被覆、および葉面積指数の復元が速いことが分かりました。この結果は、東南アジアの低地フタバガキ熱帯雨林における生物多様性と生態系機能との正の関係と一致しており、多様な種を混交することで伐採後の初期回復を促進できることを示しています。

Ryan Veryard, et al. Positive effects of tree diversity on tropical forest restoration in a field-scale experiment. Science Advances, 2023; 9 (37) DOI: 10.1126/sciadv.adf0938

23/9/14 NASA

2023年の夏は記録上最も暑かった

ニューヨーク州にあるNASAのゴダード宇宙研究所(GISS)は、2023年の夏季は1880年に地球規模の記録が始まって以来、最も暑かったと報告した(北半球では、6月から 8月が気象上の夏季とみなされる)。夏季の間は、NASAの記録にある他の年の夏季よりも摂氏0.23度 (華氏0.41度) 高く、1951年から1980年の平均的な夏季よりも1.2度(2.1°F)暖かかった。8月だけでも平均より1.2°C(2.2°F)高かった。この新記録は、異常な暑さが世界の多くの地域を襲い、カナダとハワイで大規模な山火事をもたらし、南米、日本、ヨーロッパ、米国で灼熱の熱波が発生する中、イタリア、ギリシャ、中央ヨーロッパでは激しい豪雨をもたらした。

NASA (2023, August 14) NASA Announces Summer 2023 Hottest on Record. Accessed September 14, 2023.
NASA Earth Observatory World of Change: Global Temperatures. Accessed September 14, 2023.

23/9/13 オハイオ州立大学

オハイオ州の干ばつは極めて深刻:乾燥する気象への備えを強化するべき

干ばつ監視は、農業と水資源の管理や、州の緊急対応計画と危険軽減活動の開始に重要です。固定された閾値は、米国干ばつモニター (USDM) のガイドラインとして機能します。しかし、固定された干ばつの閾値(つまり、すべての季節および気候地域で同じ閾値を使用する)は、地域の状況や影響を適切に反映しない可能性があります。そこで、本研究は、オハイオ州の干ばつモニタリングにとって適切な、影響ベースの干ばつ閾値の開発を目指しました。オハイオ州で現在使用されている4つの干ばつ指数、標準化降水量指数 (SPI)、標準化降水量蒸発散量指数 (SPEI)、パーマーZ指数、およびパーマー水文干ばつ指数(PHDI)を比較検討しました。結果は、固定した閾値はオハイオ州のより穏やかな干ばつ状態を示す傾向があるのに対し、影響ベースの干ばつ閾値は例外的な干ばつ(D4)状態に対してより敏感であることが分かりました。影響ベースの干ばつの閾値に基づくD4の面積割合は、トウモロコシの収量および河川流量とより強く相関していました。この成果は、長期的な干ばつの影響記録が存在する他の地域にも適用でき、地域の影響に基づく干ばつ閾値を開発するための方法論を提供することで、地域を代表する状況描写を示すとともに、干ばつモニタリングの改善に役立ちます

Ning Zhang, et al. Developing Impacts-Based Drought Thresholds for Ohio. Journal of Hydrometeorology, 2023; 24 (7): 1225 DOI: 10.1175/JHM-D-22-0054.1

23/9/13 アメリカ地球物理学連合

100年に一度の沿岸洪水が21世紀末には毎年発生する可能性がある

海面上昇 (SLR) として知られる世界の平均海面(MSL)の緩やかな上昇は21世紀の気候変動に関連した最大の懸念の1つです。海面上昇は海辺のコミュニティに脅威をもたらし、沿岸洪水の頻度と深刻度の増加につながる可能性があります。したがって、将来予想される極端な海面上昇現象の数とその規模を評価することは、持続可能な沿岸洪水リスク管理にとって重要です。さまざまな傾向検出方法を使用して相互調査し、「疑似地球規模」スケールで極端な海面水位の大幅な上昇傾向が示されました。したがって、平均海面が将来的に上昇し続けるという仮定に基づいて、今後の沿岸洪水の危険性をモデル化しました。これは、物理的共変量、つまり進化する沿岸洪水の危険性の明示的な統計モデリングに平均海面を利用した地球規模の初の研究です。不確実性を考慮して修正された海面上昇予測を使用することにより、中程度または高濃度のCO2濃度経路の下で、今世紀末までに沿岸洪水の危険が大幅に増加することを示しました。

Georgios Boumis, et al. Coevolution of Extreme Sea Levels and Sea‐Level Rise Under Global Warming. Earth's Future, 2023; 11 (7) DOI: 10.1029/2023EF003649

23/9/13 ブリストル大学(英国)

サハラ砂漠が緑だった理由と時期

サハラ地域は第四紀以降、定期的に雨期を経験しました。北アフリカ湿潤期間 (NAHP) は、アフリカのモンスーンシステムの強さを制御する歳差運動によって天文学的なペースで変化します。しかし、ほとんどの気候モデルはこれらの現象を調整できていません。本研究では、過去80万年にわたる20回の 北アフリカ湿潤期間をシミュレートする最近開発されたバージョンのHadCM3B結合気候モデルを使用しました。これは、プロキシデータで特定された 北アフリカ湿潤期間とよく一致しています。結果は、歳差運動が 北アフリカ湿潤期間を決定することを示しましたが、その振幅は氷の被覆範囲と強い相関がありました。 氷河期には、氷のアルベドにより地球が冷却され、湿気の多い状態であった歳差運動最小時の北アフリカ湿潤期間の振幅が抑制されます。これは、歳差運動と氷被覆からの離心率の両方の重要性と、北アフリカ湿潤期間のタイミングと振幅の決定にかかわる高緯度地方の役割を示しています。 これが、第四紀全体における動植物のアフリカ外への拡散に影響を与えた可能性があります。

Edward Armstrong, et al. North African humid periods over the past 800,000 years. Nature Communications, 2023; 14 (1) DOI: 10.1038/s41467-023-41219-4

23/9/12 ニューカッスル大学(英国)

ガンジス川とメコン川では数は少なくなるもののより強力な熱帯暴風雨が予想される

熱帯低気圧(TS)は、世界で最も被害を与える自然災害の1つであり、特にガンジス川やメコン川などの低地デルタ流域において、人命、インフラ、資産に多大な社会経済的損失をもたらします。したがって、気候変動下での熱帯低気圧の変化に関する知識は、災害リスクの軽減と気候適応に役立ちます。これまでのモデリング研究では、熱帯低気圧の主要な特性を捕捉できない解像度の粗い地球規模気候モデルが使用されてきました。この研究では、この不確実性の一部を解決するために、より細かい分解能(6時間間隔で最大約25km)のCMIP6 HighResMIPモデルと2つの異なる追跡アルゴリズム (トラッカー) を利用しました。この結果は、将来の熱帯低気圧の頻度は低下するが、熱帯低気圧の強度は増加すると予測しています(強度と利用可能なサイクロンエネルギーの点で、両方のトラッカーで定性的に類似しています)。これらの知見は、これらの人口密度の高いデルタにおける熱帯低気圧に対する既存のインフラの将来的な有効性評価に使用可能です。

Haider Ali, et al. Fewer, but More Intense, Future Tropical Storms Over the Ganges and Mekong Basins. Geophysical Research Letters, 2023; 50 (17) DOI: 10.1029/2023GL104973

23/9/11 オレゴン州立大学

19世紀の風景画における生態学としての芸術と科学の融合

変化する気候条件と土地利用需要の下で森林景観の将来を考えるとき、歴史的な森林状況と、撹乱後にそれらの景観がどのように変化したかを研究する価値が高まっています。歴史的な風景画は、上層と下層の環境を非常に詳細にフルカラーで描写した、産業革命以前の森林に関するデータの潜在的な情報源です。これらは、カラー写真の出現よりずっと前の時代の森林群落の構成、微小生息地の特徴、構造の複雑さに関する詳細を表示している点で重要です。このような絵画の可能性にもかかわらず、その科学的応用は妥当性問題によって妨げられてきました。それらの絵画に描かれている描写はどれほど正確なのか? 自然の寓意やロマンチックな見方を最もよく表現するために、芸術家が描写に手を加えることは、どの程度なのか? 評価モデルに従って、美術史上の学問を森林景観の生態学的理解と統合し、19世紀のアメリカ美術における描写の真実性の問題に取り組むことができるかを検証しました。そして、生態学におけるこれらの歴史的な画像の潜在的な使用価値を説明するために、10枚の異なる絵画の微小生息地の特徴を評価するケーススタディを紹介しました。本論文では19世紀の風景芸術を広く調べていますが、特に1800年代半ばのいわゆる「ハドソン・リバー派」に関連した多作で影響力のある芸術家、アッシャー・デュランドに焦点を当てて考察しました。デュランは、自然を正確に描写する彼の視点について明確な記録を残しました。

Dana R. Warren, et al. An interdisciplinary framework for evaluating 19th century landscape paintings for ecological research. Ecosphere, 2023; 14 (9) DOI: 10.1002/ecs2.4649

23/9/7 ユタ州立大学

サバンナで炭素蓄積:気候変動にかかわる草本

熱帯サバンナは、樹木の増加に伴って土壌有機炭素 (SOC) が大幅に増大すると想定され、植林による炭素蓄積の対象地となることが増えています。サバンナの土壌有機炭素は草本に由来するため、この想定は植林中の土壌有機炭素の実際の変化を反映していない可能性があります。しかし、土壌有機炭素に対する草本の正確な寄与や、樹木の増加に伴う土壌有機炭素の変化については、まだ十分に解明されていません。本報告では、南アフリカのクルーガー国立公園での事例研究と、世界中の熱帯サバンナから得られたデータを組み合わせて、木の根元の土壌であっても、土壌の深さ1mまでの総土壌有機炭素量の半分以上は草本由来であることを明らかにしました。最大の土壌有機炭素蓄積量は、最大の草本の寄与 (総土壌有機炭素の70%以上) と関連していました。熱帯地域全体では、総土壌有機炭素は樹木被覆率によって説明されませんでした。 樹木の増加後には 土壌有機炭素の増加と減少の両方が観察され、平均して 1 m プロファイル内の 土壌有機炭素 貯蔵量は 6% しか増加しませんでした (s.e. = 4%、n = 44)。 これらの結果は、草本が 土壌有機炭素 に大きく関与していることと、熱帯サバンナ全体で樹木被覆率の増加による土壌有機炭素量の増加がかなり不確実であることを示唆しています。

Yong Zhou, et al. Soil carbon in tropical savannas mostly derived from grasses. Nature Geoscience, 2023; 16 (8): 710 DOI: 10.1038/s41561-023-01232-0

23/9/6 USDA森林局 - ロッキーマウンテン試験場

森林火災から炭素と地域社会を守る

気候と山火事の危機の激化により、森林の炭素損失のリスクを軽減するために、積極的な森林管理(間伐、火入れ、文化的火入れなど)を利用することへの世界的な関心が高まっています。米国西部の針葉樹林における山火事による炭素損失のリスクを推定するために、山火事災害と炭素放出および脆弱性の間の相互作用を評価しました。山火事での損失において最も脆弱な炭素の点から、積極的な森林管理に対する社会的な適応能力の高さを評価することで、山火事による炭素損失のリスクを軽減する常陽なポイントを特定しました。森林面積と比較して、カリフォルニア、ニューメキシコ、アリゾナの各州には、山火事に対して非常に脆弱な炭素が最も多くあります。また、米国西部では、山火事による炭素損失のリスクを軽減するために積極的な森林管理を活用する機会が広範に存在しており、多くの地域では山火事から炭素と人間社会への最大のリスクを同時に軽減する可能性があることが観察されました。また、タイムリーな気候変動と山火事の緩和目標を達成するための道筋を提供する、協働的かつ公平なプロセスを示しました。

Jamie L Peeler, et al. Identifying opportunity hot spots for reducing the risk of wildfire-caused carbon loss in western US conifer forests. Environmental Research Letters, 2023; 18 (9): 094040 DOI: 10.1088/1748-9326/acf05a

23/9/5 ミシガン州立大学

生物多様性、気候変動、食料のバランスをとる

気候変動の緩和と生物多様性の保全は、増加する世界人口に対する食糧供給の確保と並んで、今世紀に効果的に実施する必要がある主要な環境活動です。これら3つの問題は、土地管理にかかわり複雑に関連しています。したがって、生物多様性のホットスポットに位置し、炭素蓄積の可能性がある世界の主要な食料生産地域は、これらの貴重な生態系サービス間のトレードオフ問題に直面しています。ブラジルのマトグロッソ州もそのような地域の1つで、農業に違法に使用されていた私有地を自然植生に戻すことができ、食料生産にマイナスの影響を与える可能性があるものの、気候変動の緩和や生物多様性の保全に恩恵をもたらす可能性があります。この課題に対処するために、炭素蓄積、生物多様性保全、食料生産を考慮した多基準ネクサスモデリング法を使用して、生態系回復のメリットとデメリットのバランスを図る土地配分シナリオを開発しました。結果は、地主に個々の土地の復元を強制することで、アマゾン生物群系全体にわたる「緑の土地市場」の可能性を低め、食料生産能力が低い個人の地主がそれを補う復元プログラムから恩恵を受けることが可能であることを示しています。

Ramon Felipe Bicudo da Silva, Jet al. Balancing food production with climate change mitigation and biodiversity conservation in the Brazilian Amazon. Science of The Total Environment, 2023; 166681 DOI: 10.1016/j.scitotenv.2023.166681

23/9/4 スタンフォード大学

食料安全保障と生物多様性の鍵となる生息地を作り出す農場

多様な農地は多くの種の生息地を提供しますが、農業地域が環境変化に敏感な種の個体群を維持できるかどうかは不明です。コスタリカのさまざまな農地における鳥の個体数の変化を18年間追跡することで、この疑問を探りました。私たちは、多様な農地が、多くの敏感な森林関連種や昆虫を食べる種の長期的な個体数増加を長期的ににサポートできることを明らかにしました。予想外なことに、周囲の森林生息地における個体数減少の方が、多様な農地での増加を上回っています。この調査結果は、生物多様性に対する多様な農業活動は時間経過とともに利点が増加する可能性があり、種の回復に不可欠な要素を持っていることを示唆しています。

J. Nicholas Hendershot, et al. Diversified farms bolster forest-bird populations despite ongoing declines in tropical forests. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (37) DOI: 10.1073/pnas.2303937120

23/9/4 リーズ大学(英国)

極端なエルニーニョ現象で南米の炭素吸収源が停止

熱帯林の炭素吸収能は干ばつに弱いことが知られていますが、どの森林が極端な現象に対して最も脆弱であるかは不明です。より暑くより乾燥した地域にある森林は、事前に獲得した適応力によって生存できる可能性がありそうですが、生理学的限界に近い森林であるために、より脆弱である可能性もあります。本報告では、南米のより乾燥した気候下にあった森林が2015年から2016年のエルニーニョにより最大の影響を受けたことを明らかにし、極端な気温と干ばつに対してより脆弱であったことを示しました。南米熱帯地域の123の森林区画において、長期にわたって樹木ごとに地上計測していましたが、樹木による炭素収支がほぼゼロになりました (-0.02 ± 0.37 Mg C/ha/年)。一方、手付かずの南米の熱帯林は、2015年から2016年の極端なエルニーニョ現象に対して、際立った影響を受けず、森林保護は気候変動に対する重要な防御手段であることが示唆されました。

Amy C. Bennett, et al. Sensitivity of South American tropical forests to an extreme climate anomaly. Nature Climate Change, 2023; DOI: 10.1038/s41558-023-01776-4

23/9/1 ペンシルベニア州立大学

外来種のマダラランボは考えられていたほど広葉樹に被害を及ぼさない

外来種のマダラランボLycorma delicatula (White) [半翅目: Fulgoridae] は米国で生息範囲を拡大し続けていますが、この害虫が森林生態系や生産苗床に与える経済的脅威については不明な点が残っています。マダラランボは数種類の広葉樹を宿主として使用しており、以前の研究では短期間の給餌によりカエデの若い苗木の成長が低下する可能性があることが判明しました。本研究では、連続4シーズンにわたる長期給餌により、若いシルバーカエデ(Acer saccharinum L.)、シダレヤナギ(Salix babylonica L.)、カワラカバ(Betula nigra L.)、および天の木 (Ailanthus altissima [Mill.] Swingle)はマダラランボの摂食圧力に密度依存的に応答し、直径成長と根のデンプン貯蔵が大幅に減少しました。給餌圧力が最も低かった3年目では、シルバーカエデとヤナギは2年目よりも直径が大きく成長して回復しました。光合成と成長に必須の栄養素 (鉄、硫黄、リン) は、2年目に対照とした木と比較してすべての樹種の葉で減少しました。この4年間の研究は、マダラランボが4連続の成長期にわたって同じ木を食害したという最悪のシナリオを表しています。野生では、個々の樹木での個体数は年ごとに大きく異なり、寄主間を頻繁に移動します(秋にはシンジュA. altissima 、またはまだ老化していない晩期の寄主に定住します)。したがって、自然環境において閉じ込められていないマダラランボが森林や観賞用の樹木に及ぼす悪影響が、ここで報告されているほど顕著になるとは思えません。

Kelli Hoover, et al. Effects of long-term feeding by spotted lanternfly (Hemiptera: Fulgoridae) on ecophysiology of common hardwood host trees. Environmental Entomology, 2023; DOI: 10.1093/ee/nvad084

23/8/30 カリフォルニア大学デイビス校

この森は生きていけるのでしょうか? 干ばつ後の森林の枯死・回復を予測

頻繁で深刻な干ばつのため、森林の枯死率が世界中で増加しています。干ばつが森林の炭素循環に与える影響を予測し、生態系の崩壊を引き起こす環境ストレスの閾値を特定することは喫緊の課題です。生態系レベルでの干ばつの影響を定量化することは複雑で困難です。なぜなら、気候と植物の関係がダイナミックに変わり、炭素バランスに急速な変化や長期にわたる変化が生じる可能性があるからです。本研究ではCARbon Data Model fraMework (CARDAMOM) を使用して、森林の炭素蓄積と炭素収支に対する過去の干ばつの影響を調べました。タワーで観測された気象と炭素フラックスのデータを使用して、2012 ~ 2015 年のカリフォルニアの干ばつにおける地上と地下の生態学的プロセスの反応・感度を確認しました。研究地域は、シエラネバダ南部の中部山地の針葉樹林帯です。2012年から2015年の降水量は過去の平均より45%少なく(474mm)、土壌水分と炭素蓄積 (葉、不安定、根、落葉) が段階的に減少しました。特にストレスの大きかった年(2014年、年間降水量=293 mm)に降雨157mm を追加したところ、水分と炭素蓄積の低下が減少し、生態系が崩壊の状態から回復傾向へと変わることがわかりました。GPPの崩壊が植物の葉の炭素と土壌水分に敏感であることを示すプロセス分析法を提示し、GPPが完全に回復するには数年かかることを示しました。土壌水分と炭素蓄積の長期的な変化は、干ばつと森林の枯死との間に明確な関係をもたらす可能性があります。

J. Au, et al. Forest productivity recovery or collapse? Model‐data integration insights on drought‐induced tipping points. Global Change Biology, 2023; DOI: 10.1111/gcb.16867

23/8/29 野生動物保護協会

気候変動と闘いたい? ゴリラ(またはゾウ、サイチョウ、オオハシなど)を密猟しないでください

狩猟による大型野生動物の損失は、炭素を吸収・貯蔵する熱帯林の生態学的プロセスを悪化させます。野生動物の保護を奨励する炭素市場では、必要な森林と狩猟管理をサポートするための利益を生み出すことができるでしょう。多くの熱帯林は、持続不可能な生存管理や販売目的の狩猟のために、動物が消え、「空っぽ」になっていると言われています(補足1参照)。このような狩猟は、当該の種、広範な生物多様性、地域社会の生計および福祉に悪影響を与えます。気候変動の要因となる熱帯林の炭素吸収・蓄積に及ぼす動物種の減少の影響はあまり認識されていません。

補足1. 狩猟がもたらすこと
今日の熱帯林は人影がなく、静かです。しかし、まれな例外を除いて、森は狩猟によって野生動物を奪われてきました。それは森林に住む人々の生計のためでもありましたが、市場販売のための狩猟により持続不可能になってしまいます。ブラジルのアマゾン全域では32.4%の森林で大型霊長類が狩猟の影響を受けており、クモザルとウーリーモンキーではそれぞれ96.97%と95.80%の個体群密度の損失が発生しています。世界中の熱帯林の狩猟地域では、保護区を含む非狩猟地域と比較して、大型哺乳類の生息数が83%~90%減少しています。中央アフリカでは、2002年から2011年にかけて、象牙取引のための狩猟の結果、マルミミゾウは総個体数の62%と生存面積範囲の30%を失い、個体数は潜在的な数の10%未満に減少し、生存面積は潜在的な地域の25%以下になっています。

Elizabeth L. Bennett, John G. Robinson. To avoid carbon degradation in tropical forests, conserve wildlife. PLOS Biology, 2023; 21 (8): e3002262 DOI: 10.1371/journal.pbio.3002262